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海自側の一行が赤城を離れるころには、北太平洋の空はいっそう低い雲に覆われていた。
舷側から降ろされた内火艇がUSー2へ戻っていく。赤城はすでに針路を変え、後続する艦艇も次々と大きな弧を描き始めていた。海面には、それまで東へ向かってまっすぐ伸びていた航跡と、新しく西へ曲がっていく航跡が重なっている。
内火艇がUSー2の側面へ寄せられた。大佐を先頭に隊員たちが機内へ戻り、扉が閉じられる。艇は赤城へ引き返していった。USー2の機内ではすぐに離水準備が始まり、乗員がそれぞれの位置についた。次の任務はすでに決まっている。Pー1が確認した潜水艦部隊の位置へ向かい、第一航空艦隊が作戦を中止したことを知らせるのだ。
二曹は窓際に座ったまま、赤城を見ていた。
距離が開いていく。
飛行甲板にいる人間はもう一人一人を見分けられない。それでも二曹は視線を外さなかった。あの灰色の船体のどこかに、先ほど二度すれ違った若い水兵がいる。
姓は同じだった。
顔も、家に残っていた古い写真によく似ていた。
確かめることはしなかった。出身地も、年齢も、家族の名前も聞かなかった。聞けば答えが出てしまうような気がした。
USー2の四基の発動機が出力を上げた。艇体が波を乗り越えながら速度を増し、窓の外で赤城が後方へ流れていく。やがて艇体が海面を離れた。
二曹はなおも振り返っていた。
彼の知っている歴史では、赤城は1942年6月に沈む。そして、あの若い水兵も帰ってこない。
だが、その歴史へ向かっていた赤城はいま西へ進んでいる。
若い水兵がこれからどこへ行き、何歳まで生き、誰と出会うのか、もう未来から来た二曹にも分からなかった。
赤城はしだいに小さくなり、雲と海との間へ溶け込んでいった。
二曹はようやく前を向いた。
USー2は高度を上げると、機首を別の方角へ向けた。




