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開けたとたん、充満した煙がまわりにたち混め警察官は無意識に手で払いのけた。そのくらい濃度の濃い煙だった。さっきの呪文の声がさらに高まっていた。
煙のさきに、祭壇のようなものが見えて、その前で奇妙な衣装を身に着けた女が両手をあわせ絶叫していた。
警察官が部屋の周囲を見回すと、あたり一面の壁に古いポスターがべたべたと貼られている。どうやら20世紀に活躍したアクション・スターの映画ポスターらしかった。極限まで鍛えられた筋肉と、逆三角形の体型は、一度見ただけでその名前が浮かぶほどだった。
女は一心不乱に何かを祈っている。
よく見ると祭壇には壁に張られたアクション・スターの小さな彫像が飾られていた。彫像の前には何本もの線香が立てられ、猛烈な煙を立ち昇らせている。
「もしもし……」
用心深く、警察官は女の背中に声をかけてみた。
女は声が聞こえなかったのか、一向に反応がなかった。警察官は一歩踏み出し、思い切って女の肩に手を触れてみた。
その瞬間、女はぐるっと回転して警察官と向き合った。まるで回転テーブルがあるかのような、素早い動きだった。
女の顔をまともに目にした警察官は、思わず後ずさってしまった。
いくつもの修羅場をくぐりぬけた警官ではあったが、女の顔は異様な印象を与えたのである。
まるで歌舞伎の隈取を思わせるきついアイシャドウとほほ紅。いったいどれほど厚塗りしたのかとおもわれるまっしろな白粉。眉もまたお笑い芸人が出オチするほどのくっきりとした化粧。完全に化粧のパロディとしか思えなかった。
「何か?」
女の声は絶叫を何度も繰り返した結果だろうが、聞き取りにくいかすれ声だった。
息を吸い込み、警察官は質問した。
「ここで何を行っているんです? 住民たちから訴えがありまして、説明してくれませんか」
女は警察官を見上げ、にったりと笑った。その笑い顔のものすごさに、警察官はさらに恐怖をおぼえていた。
「復活よ!」
女の答えは短かった。
「復活? なにをです」
「彼よ! 彼を復活させるため、あたしは祈っているのよ!」
女は祭壇のアクション・スターの彫像を指さした。
そこで警察官は、祭壇に飾られている写真立てに注目した。
若い女の写真で、かなり古いものらしい。ひらひらの衣装を身に着け、手にはマイクを握っている。どうやらコンサートの写真らしく、背後にはバンドの姿も見えた。
警察官の記憶が刺激され、現在の女の顔を重ねてみた。
「あんた……もしかして?」
警察官は四半世紀前の、あるアイドル歌手の名前を挙げてみた。彼女は有名なアクション・スターのマニアでその分野では有名だったと記憶している。
「中山千代子さん……ちょこたん?」
名前と当時の愛称を呼びかけられ、女はちょっとうつむいた。しかしふたたび顔を上げ、すっくと立ちあがった。
「そうよ、あたしよ! なにが悪いの? ここは日本でしょ。誰が何を考えようと、何を言おうと、自由じゃない?」
のろのろと警察官は壁のポスターを見渡した。
「つまり復活の儀式?」
女は我が意を得たりと大きくうなずいた。




