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挿絵(By みてみん)

 南雲機動部隊の発見は、Pー1に与えられた任務の半分が終わったにすぎなかった。機体は艦隊から十分な距離を保ったまま東へ針路を取り、さらに先行しているはずの潜水艦部隊の捜索に移った。史料から割り出された位置にはかなりの幅があったが、この時代の潜水艦は現代の潜水艦とは違い、長距離航行の多くを海上で行う。海面上に姿を現しているなら、航空機から発見できる可能性は高かった。


 海面を捜索していた乗員が最初の細長い艦影を見つけた。それからしばらくして二隻目が確認され、さらに別方向にも反応が現れた。広い海域に散開しているため、すべてを一度に確認することはできなかったが、位置と針路は史料から予想された行動と大きく食い違っていない。南雲機動部隊だけでなく、その前方を進む潜水艦部隊まで実在している。もはや疑う余地はなかった。


 位置情報はただちに後続のUSー2へ送られた。USー2は南雲機動部隊との直接接触を担当する。Pー1が上空に留まり続ける必要はなかった。必要な情報を送り終えると機体は大きく右へ旋回し、東へ機首を向けた。その先にあるのはハワイだった。


 Pー1は高度を上げた。日本へ戻るのではない。このまま太平洋を横断し、オアフ島へ向かう。機内後方には日本政府の代表団と、現代の在日米軍から選ばれた米軍将校が乗っていた。高畠首相からアメリカ大統領へ宛てた親書もある。南雲機動部隊を止める一方、攻撃を受ける側にも直接接触し、真珠湾攻撃を阻止する。それがこの機体に与えられたもう一つの任務だった。


 ただし、太平洋を横断する飛行は普段とはまるで違った。GPSは沈黙したままであり、衛星を利用する航法支援も期待できない。地上から受けられるはずの現代の航空交通情報もない。機内に残された航法装置と方位、速度、経過時間を頼りに推測位置を更新しながら、Pー1はひたすら東へ飛び続けた。

 窓の外には海しかなかった。青黒い海面と空との境が延々と続き、ときおり雲の影が流れていく。これほど高度な電子機器に囲まれながら、乗員たちはかつての航空機乗りのように、自分たちが計算した位置を何度も確認していた。ほんのわずかな誤差でも、何千キロと飛べば無視できないずれになる。


 長い飛行が続いたころ、通信員が受信機に手を伸ばした。雑音に交じって、ごく弱い音声が聞こえたのである。周波数を細かく探ると、途切れ途切れだった声が次第にはっきりしてきた。英語だった。さらに別の周波数からは音楽まで聞こえてくる。


 同乗していた米軍将校がヘッドセットを受け取り、しばらく黙って耳を傾けた。聞き慣れた現代の放送ではない。音質も話し方も古めかしい。それでも英語であり、放送の内容にはホノルルをはじめハワイの地名が何度も現れた。ハワイからの電波だった。

 機内の空気がわずかに緩んだ。少なくとも進む方向は間違っていない。何もない太平洋を飛び続けてきたPー1にとって、その古めかしい放送はどんな最新の航法信号よりありがたい道標になった。


 一方、そのころオアフ島では、西方から近づく正体不明の航空機がレーダーに捕捉されていた。反応は一機。しかも大型機らしい。監視に当たっていた兵士たちは画面上を移動する反応を追い、情報は上級司令部へ送られた。まだレーダーそのものが新しい装備であり、現在のような防空監視網が完成しているわけではなかったが、太平洋の西からハワイへ近づいてくる大型機を放置する理由はなかった。

 ホイーラー飛行場では迎撃機の発進準備が始まった。操縦士が機体へ駆け寄り、整備兵たちが最後の確認を行う。やがて液冷エンジンが次々と始動し、プロペラの回転が激しい風を巻き起こした。飛び立ったのは、米陸軍航空軍のP-40Bウォーホークだった。独立したアメリカ空軍が誕生するのはまだ六年も先で、この時代の航空戦力は陸軍の一部だった。


 Pー1側でも接近する機影を発見した。最初は小さな点にしか見えなかったものが急速に距離を詰め、その後方にも別の機影が続いている。近づくにつれて単葉の主翼、細長い機首、猛烈な勢いで回転するプロペラがはっきり見えるようになった。


 (*注)Pー40だった。

(*注)Pー40アメリカ合衆国のカーチス・ライト社が開発しアメリカ陸軍航空軍で運用された戦闘機。性能的には平凡な機体であったが実用性が高く各国軍で広く運用された。Wikipediaより抜粋

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