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挿絵(By みてみん)

 高畠は内容を一通り読み、最後のページで手を止めた。そこには、旧日本海軍との接触に際して武力行使を可能な限り避けること、真珠湾攻撃中止を要請すること、相手が拒否した場合には改めて政府の指示を求めることが記されていた。


 署名した。


 その瞬間から、計画は検討案ではなくなった。

 基地では(*注)Pー1の乗員が機体へ向かっていた。整備員が最後の点検を終え、機体から離れていく。四基のジェットエンジンが順に始動し、低い唸りが次第に大きくなった。人工衛星による測位が使えないため、航法には従来以上の注意が必要だった。それでも彼らが向かう海域は、地図から消えてしまったわけではない。


 別の基地ではUSー2も出発準備に入っていた。青と白に塗り分けられた大きな飛行艇の機内へ、通信機材や必要な物資が運び込まれる。選ばれた連絡要員たちは互いに多くを話さなかった。これから会おうとしている相手は、博物館の写真でも記録映像でもない。八十年以上前の日本人であり、しかも真珠湾へ向かって航海している最中の軍人たちだった。


 Pー1が先に滑走路へ入った。管制から離陸許可が出ると速度を上げ、機首を持ち上げた。機体は地面を離れ、そのまま東の空へ消えていった。しばらくしてUSー2も離陸した。こちらはPー1ほど先行せず、捜索機からの情報を待ちながら北太平洋へ向かった。

 海上でも動きが始まっていた。港を離れた護衛艦のマストには、衛星通信が失われた今も利用可能な通信設備が並んでいる。乗員たちは通常とはまったく違う航海になることを知らされていた。護衛艦の後方では海上保安庁の巡視船も出港し、日本近海の確認へ向かっていった。


 北太平洋へ出たPー1は高度を取り、推定海域へ向かった。衛星から位置を教えてもらえない空を飛ぶことは、現代の乗員にとって不便という言葉では足りなかった。機内では航法情報が繰り返し確認され、捜索区域へ近づくにつれて乗員の注意は海面へ集中していった。

 雲が多かった。冬の北太平洋は灰色の海と灰色の空が境目を失いかけ、ところどころに白い波頭が走っている。レーダー画面にも海面反射が現れ、その中から人工物を拾い出していかなければならなかった。


 最初の反応は小さかった。

 ひとつではない。

 複数の反応が、一定のまとまりを保って移動していた。


 乗員たちの視線が一斉に画面へ集まった。針路と速度が確認され、推定されていた航路と照合された。偶然そこを航行している商船群とは考えにくかった。

 Pー1は針路を変えた。

 距離が縮まるにつれて反応の数が増えた。大型艦と思われるものを中心に、その周囲を複数の艦艇が取り囲んでいる。さらに近づくと、雲の切れ間から海面が見えた。

 乗員のひとりが双眼鏡を上げた。

 灰色の海の上を、何本もの航跡が平行に伸びている。

 その先に艦影があった。


 最初に見えたのは駆逐艦だった。その奥にさらに大きな艦影があり、そして中央には、平らな飛行甲板を持つ巨大な船が進んでいた。さらにその後方にも同じような艦影が続いている。

 写真でなら、何度も見たことがあった。

 模型なら、博物館にもあった。

 だが、いま眼下にあるものは波を切り、煙を吐き、自分自身の力で東へ進んでいる。

 機内で照合が行われた。

 艦型、艦数、針路、位置。

 どれも史料から推定されたものと一致していた。

 Pー1は艦隊から十分な距離を保ったまま旋回に入った。

 機長から短い報告が送られた。


 南雲機動部隊、発見。

 八十年以上前にハワイを目指して出撃した連合艦隊の艦艇群は、歴史書の中ではなく、現実の北太平洋を航行していた。

(*注)防衛省技術研究本部と川崎重工業が開発し、川崎重工業が製造、海上自衛隊が保有・運用する固定翼哨戒機である。Wikipediaより抜粋

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