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挿絵(By みてみん)

 国会で真珠湾攻撃阻止の決議が可決されたとの報告は、ただちに防衛省へ届けられた。

 もっとも、防衛省では決議を待ってから動き始めたわけではなかった。国会が審議を続けている間にも、地下の作戦室には各幕僚監部から人員が集められ、壁面の大型モニターには北太平洋の海図が表示されていた。中央には一九四一年十一月二十七日という日付が大きく示され、その下には旧日本海軍の行動について国内に残る史料から拾い出された情報が次々と追加されている。


 その一角に、例の参謀もいた。最初の通信途絶が起きたとき、原因不明の異常に胃を痛めていた男である。あれからまだ一日も経っていないというのに、机の上にはすでに胃薬の小瓶と紙コップが置かれていた。錠剤を水で流し込むと、参謀は休む間もなく手元の資料へ目を戻した。


「国会決議、可決です」


 報告を受けた防衛大臣は短くうなずいた。そこに驚きはなかった。国会が阻止を選択した場合に備え、すでに複数の行動案が作られていたからである。問題は、どの案を実行するかだった。

 大型モニター上に択捉島からハワイへ向かう航路が描かれた。現在の衛星測位は使えない。もちろん一九四一年の海上に現代の監視衛星もない。史料に残された航路、予定速力、出撃時刻、当時の気象記録などから、南雲機動部隊が現在いる可能性の高い海域を推定するしかなかった。


「範囲が広すぎます」

 海自側の幹部が海図を見上げた。

「それでも昨日出たばかりなら、まだ絞れる」


 参謀が資料をめくった。単冠湾を出撃した時刻から経過時間を計算し、史実に残された航海記録と照合する。誤差を見込んで捜索海域が設定され、そこからさらに気象条件が加えられた。画面上に細長い区域が浮かび上がった。

 派遣する航空機については、ほとんど議論の余地がなかった。長距離洋上哨戒能力を持つP-1を先行させ、機動部隊を捜索する。発見後は位置を継続して把握し、後続のUS-2を誘導する。US-2には政府からの文書を携えた連絡要員を乗せ、可能なら機動部隊付近へ着水して直接接触する。その後方では護衛艦を出動させ、通信、救難、航空支援の拠点とすることになった。


 問題は誰を行かせるかだった。

 旧日本海軍との接触など、自衛隊創設以来ただの一度も想定されたことがない。相手は外国軍ではない。しかし現在の日本国政府の指揮下にもない。しかも向こうから見れば、こちらこそ所属不明の武装組織である。階級制度も制服も用語も違い、何より八十年以上先の日本から来たと説明しなければならなかった。

 候補者の経歴が次々とモニターに表示された。海自からは旧海軍史と艦艇運用に詳しい幹部、通信要員、(*注)USー2の救難員が選ばれた。防衛省からは政府との連絡を担当する職員が加わった。武器の携行は必要最小限とされ、接触時には可能な限り相手を刺激しないことが確認された。南雲忠一本人に会える保証などない。それでも、最終的には機動部隊の指揮官へ高畠首相の意思を直接伝えることが任務とされた。


「文書は?」

「官邸で作成中です」

「旧海軍側が読んで理解できる表現にしてください。役所の現在の文書そのままでは、用語から説明が必要になります」

「証明資料はどうします」


 その質問には、しばらく誰も答えなかった。

 未来から来たという事実を何で証明するのか。US-2そのものが最大の証拠とも言えたが、それだけで信用される保証はない。現代の地図、写真、紙幣、新聞、歴史資料などいくつもの案が出されたものの、未来情報を不用意に渡す危険も指摘された。結局、持参資料は必要最小限とし、何を相手に開示するかは接触後の状況を見て判断することになった。


 同時に、別の部屋では護衛艦の出動準備が始まっていた。燃料、食料、医療品、救難装備、通信器材が積み込まれ、乗員には任務内容が段階的に伝えられた。海上保安庁にも協力要請が出され、巡視船と航空機が日本周辺海域の状況確認に動き始めた。海自が北太平洋へ目を向けている間、日本近海そのものに何が存在しているのかを確かめる必要があった。


 作戦案は官邸へ送られた。

(*注)USー2新明和工業が開発した海洋における救難に特化した飛行艇。US-1Aの後継として海上自衛隊が導入している。Wikipediaより抜粋

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