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高畠首相の緊急放送が終わって間もなく、政府が国会の臨時会を召集するとの速報が流れた。地上波テレビ、ラジオ、ニュースサイト、動画サイト、SNSの公式アカウントまで、利用可能なあらゆる媒体がほとんど同時にその決定を伝えた。政府は今回の異常事態について国会へ報告し、今後の対応について審議を求めるという。
国会議事堂へ議員を乗せた車が次々に到着した。東京にいた者はもちろん、地方にいた議員も鉄道や航空機、自動車など利用できる交通手段を使って急ぎ上京していた。党派を問わず、議員たちの表情には疲労と緊張が浮かんでいる。普段なら入り口で立ち止まって記者の質問に答える議員も、この日ばかりはほとんど無言のまま建物へ吸い込まれていった。
しかし、すべての議員が集まったわけではなかった。衆議院、参議院ともにところどころ空席が残っている。沖縄をはじめ、日本列島とともに移動しなかった島嶼部にいた者、海外出張や視察、私的な旅行などで国外にいた者たちである。本人と連絡が取れない以上、そこに座るべき議員がどうなったのかさえ確認できなかった。
臨時会の中継も、地上波だけではなく国内の動画サイトを通じて一斉に配信された。普段なら国会中継など見向きもしない人々まで、テレビやパソコン、スマートフォンを通じて議場を見守っていた。昼食時の食堂では壁掛けテレビの音量が上げられ、家電量販店では展示用テレビが一斉に国会へ切り替わった。仕事を中断し、机の上にスマートフォンを立てて中継を眺める会社員も少なくなかった。
高畠首相は政府席に座り、議場を見渡していた。数時間前まで閣議室で顔を合わせていた閣僚たちも並んでいる。防衛大臣は高畠から少し離れた席に座り、分厚い資料を膝の上に置いていた。ほかの閣僚が議員同士で言葉を交わしている中、彼だけはほとんど顔を上げず、資料のページを繰っていた。
政府から現在までに確認された事実が報告されると、質疑が始まった。最初に立った野党議員は、昨夜稼働した新型発電施設と時間移動との関連を追及した。
「総理、異常が発生したのは新型発電施設が本格稼働した直後です。政府はこの施設について、本当に十分な安全性を確認していたのですか」
高畠は席を立った。
「確認しております。ただし、日本列島そのものが過去へ移動するという現象は、安全性評価の想定には含まれておりませんでした」
議場の一部がざわめいた。動画サイトのコメント欄では、すぐに反応が流れ始めた。
『そりゃ想定してないだろ』
『安全基準にタイムスリップ項目があったら怖いわ』
『でも発電所はちゃんと調べろ』
『原因究明は必要』
議員はなおも食い下がった。
「想定外だったという言葉で済ませるおつもりですか。現に一億を超える国民が八十年以上も過去へ移動した可能性があるんですよ」
「済ませるつもりはありません。原因については現在も調査を続けています。新型発電施設との関連が確認されれば、その事実も公表いたします」
「その場合、総理は政治責任を取るお考えですか」
「どのような責任が生じるかは、原因が判明してから判断いたします」
「辞任も含まれるということですか」
高畠は一瞬だけ考えた。
「私が辞任することで元の時代へ戻れるのであれば、すぐにでも辞任いたします」
議場がどっとざわついた。野党席から声が飛び、与党席からも苦笑が漏れた。SNSではそれ以上の勢いで反応が返った。
『総理それはそう』
『辞任でタイムスリップ解除できるなら俺も辞任に賛成する』
『何を辞任するんだよ』
『会社』
『それは勝手にしろ』
次の議員は、まったく違う方向から質問した。
「総理、現在が一九四一年であるならば、これは時間そのものが逆行したということでしょうか。それとも日本列島だけが過去へ移動したのでしょうか」
「分かりません」
「政府としての見解は?」
「分からないというのが、現在の政府の見解です」
「では、並行世界である可能性については?」
「それについても分かりません」
「宇宙人の関与は?」
「その証拠は確認されておりません」
『国会で宇宙人聞いたぞ』
『SF大会になってきた』
『総理に聞いて分かるわけないだろ』
『でも誰に聞けばいいんだよ』
『それはそう』
笑いが続いたのはそこまでだった。質問が食料、燃料、医薬品、海外にいる日本人、国内にいる外国人、失われた海外資産へ移るにつれて、議場の空気は急速に重くなっていった。経済産業大臣は石油その他の資源備蓄を精査中と答え、農林水産大臣は食料供給の維持を最優先にすると説明した。外務大臣は現代の外交回線が事実上失われていることを認め、厚生労働大臣は医薬品の原料まで含めた在庫調査を開始したと答えた。




