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ところが、その直後から局の電話が鳴り始めた。
最初は数本だった。やがて十本、二十本と増え、視聴者対応の電話回線が次々と埋まっていった。番組の制作スタッフが慌ただしく動き始め、プロデューサーのところへメモが届けられた。作家の発言に対する抗議だという。発電施設の危険性を軽視している、未知の科学を頭から否定している、専門家なのに何も知らない、国民を馬鹿にしている。抗議の内容はさまざまだったが、中には発電所を停止すべきだという集団からのものと、絶対に停止してはいけないという集団からのものが混在していた。
「先生、ちょっと大変なことになっているようです」
司会者がイヤホンへ手を当てながら言った。
「何か分かったんですか」
「いえ、抗議の電話が殺到しているそうです」
「何に対して?」
「先生の発言に対してです」
「私、何か間違ったことを言いましたか」
司会者は返事に困った。作家は自分の発言を思い返してみたが、思い当たることはなかった。分からないものは分からないと言い、根拠のない主張には根拠がないと指摘した。それだけだった。
「先生が科学の可能性を否定した、という抗議が多いようです」
「否定していませんよ」
「ええ、それは分かっていますが」
「未知の現象を研究することと、思いついた説明を何でも正しいと認めることは違います」
その発言がまた新しい抗議を呼んだ。番組スタッフは頭を抱え、プロデューサーは中継先を変えるよう指示した。ところが、現場では今度は発電所を停止する集団と停止に反対する集団が、互いのプラカードを指さして怒鳴り合っていた。警察官が間に入り、リポーターは群衆から少し離れた場所へ移動させられていた。
「先生、最後に一つだけお聞きします」
司会者が改まった声で言った。
「はい」
「私たちは元の時代へ戻れるのでしょうか」
作家は一瞬、考え込んだ。番組が始まってから何度目になるか分からない質問だった。しかし、その答えだけは最初から変わっていなかった。
「分かりません」
司会者は深くうなずいた。
「ありがとうございました」
番組はそこでCMに入った。作家はようやく肩の力を抜き、差し出された水を飲んだ。プロデューサーが申し訳なさそうな顔で近づいてきた。
「先生、すみません。もう少し分かりやすい結論が出るかと思っていたんですが」
「結論が出ていたら、私も知りたいですよ」
作家は苦笑した。スタジオの向こうでは、相変わらず電話が鳴っていた。モニターには発電所前の群衆が映り、今度は誰かが地球の自転と時間移動の関係について熱弁を振るっている。作家はその様子を眺めながら、こんな話を小説に書いたら、科学考証がなっていないと読者に叱られるだろうと思った。
ところが、その荒唐無稽な出来事が現実に起きているのである。
現実というものは、ときとしてSF作家の想像力よりもはるかに無責任だった。




