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いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作者: 彩白 莱灯
1-4 欲

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第14話

「『眠らずの美女』が、中でお待ちです」



 妖精が招き入れ、風が押し込もうとしてくる。

 暖簾を揺らして入れば、推定100歳越えのオババが待ち構えている。

 二桁程度の日数では死相は出なかったようだが、いつにも増して表情は険しい。

 シュウもいつもの元気な挨拶はしなかった。

 事前に何か言ったわけではない。

 ただそう察したのだろう。

 シュウは無言で、オババの横を通り抜け、奥に抜けて行った。



「僕寝てるから、終わったら呼んで」



 まるで自分の家の様に振る舞っている。

 けれどそれをいつもの調子で咎めることはなく、目線は俺に向き続けていた。



 俺はカバンからひょうたんと、細長い瓶を取り出した。



「前もって連絡を入れていた通り、今回も買取の依頼だ」

「ガーゴイルの翼と爪と牙は?」

「それはひょうたん(こっち)。本題はこれ(・・)



 顔の前まで持ち上げた小瓶をこれ見よがしに見せつける。

 オババの皺はより一層深くなった。



 小瓶の中にあるのは花。

 花弁は幾重にも重なり、先端にかけて白から黄色へグラデーションがかっている。

 花弁から茎にかけては捻じれ、赤くグラデーショになっている。

 植物図鑑で調べたが、こんな花は存在しなかった。

 それは当然で、これは本来、というか厳密には花ではない。



「魅狐花魁」



 魅狐が俺と話しをした最後、この花へと姿を変えた。

「自分をこの国から連れ出してほしい」という希望と、その理由を言い残して。



「魅狐は自分の財産をすべて俺に渡す、その代わりに国から連れ出せと言っていた」

「そうかい。よかったじゃあないか。この子の財産は並大抵の額じゃないだろう」

「だろうな。だが、詳細は知らない」

「貰ってないのかい?」

「ああ」

「そりゃ、難儀なこったね」



 煙管の中を入れ替え、一吸い。

 細く長く煙を吐き出した。

 まるで平静を装うようにと、落ち着こうと、普段通りの行動をしているよう。



 俺は今、冷めた目をしているだろう。

 特別何も感情がわかない。

 感情がわかなければ、表情に何かが現れるでもない。

 ふぅ、と息を吐くと同時に、瞼を閉じた。

 そして希望とともに残した言葉を反芻する。



「……こいつの母親」



 不意の一言にも反応は見せない。

 さすが、歳食ってるだけのことはある。



「どっかにいるらしい病気の母親に、薬を届けてほしいんだと」

「ほう。金はもらわずに薬はもらったのかい」

「そうじゃない。この依頼はオババにだ」

「……なんて言われたんだい?」



 煙管が静かに下ろされる。

 重たい瞼に隠れた瞳が睨みつけてくる。

 凄みはさすが、裏市で生き続けているだけのことはある。



「「自分の身体を売ったお金で、母への薬を買えるだけ買ってほしい。お願い、あーちゃん」、だとさ」



 俺には金を、オババには自分自身を。

 自分を売りにしてきた奴の考えることとしては納得の結論だ。

 値段も付けやすい。

 貯金の分の価値が魅狐にはある。

 金を貰っていないから、俺はタダ働きだということを忘れてはならない。



 恐らく親しい中なのだろう。

 だからこその親しみを込めたあだ名。

 そのあだ名を敢えて呼ぶ狡さ。

 世渡りの仕方がやはり、遊郭しか知らない奴の方法だと感心する。



 オババは半分しか見えない瞳を曇らせる。

 煙管に手を伸ばし、また一吸い。



「……母親の薬は、相当高いよ」

「へえ、そうなのか」

「一包で10ユキチ」

「じゅ……」

「それを一日三回、毎日さ」

「おぉ……」



 それは……だいぶ凄いな。

 それだけの薬を買う魅狐。

 それだけの薬を必要とする魅狐の母。

 そして、それだけの薬を作るヤツ。

 そこで気になったのは、俺の単なる興味。



「そこまでして母親は生きたいのか?」



 オババに聞いたところでわからない。

 そのはずが、どういうわけがはっきりと首を横に振った。



「母親は何度も断りを入れているんだよ。だが、あの子が送り付けてくる。高価なもの故に見なかったことにも無下にもできない。それがあの子の母親への愛情だからね」

「へぇ」



 詳しいな、とあえて言うまでもない。

 オババはもう隠す気はないのだろう。

 魅狐がオババに頼んだということは、魅狐も承知の上なのだ。

 隠されていたと咎めるものでもない。

 親子とオババが繋がりがあったとしても、不思議ではない。



「だがまあ、魅狐の願いはすぐには無理だろ」

「ああ、まあね」



 魅狐が言っていたのだ。



「「薬はエルフが作る。そのエルフが、製造を中止した」って言ってたな」



 買いだめもできなかったとも言っていた。

 今あるとのでどれほど持つのか。

 無くなったとして、どれ程の猶予があるのか。

 これは早急な願いだ。

 だが、魅狐の迷いのない願いだとしても、どうしようも無い。



「あの子は自分のことを占った」



 関係の無さそうな言葉がオババから飛び出してきた。



「『道』と『別れ』と『枯れた大地』。それがあの子が引いたカード」

「よくわからんが、先が思いやられるな」

「『道』と『別れ』で、誰かや何かとの離別と思うのが普通だ。だが、あの子は『選択』だと判断した」

「『選択』……分かれ道、ってことか」

「そう。そして選んだんだ。その決めてが『枯れた大地』」



 オババが手品のように、どこからかカードを取り出す。

 見覚えのあるそれは、確か魅狐が使っていたものと同じ。

 一枚のカードには、草木が枯れた様子が描いてある。

 つまりはこれが『枯れた大地』のカード。



「これがどういう意味になるんだ?」

「『枯れた大地』に描かれた『枯れ草』。つまりは『腐草(くちくさ)』。あんた、腐草(くちくさ)が何を表すか知ってるかい?」

「いや……」

「一部のヤツが知っている表現でね。腐草があるところにいる生き物も刺す言葉なんだ」



 ―― 蛍のことさ。

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