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いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作者: 彩白 莱灯
1-4 欲

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第13話

 ―― ♦︎




 ギャアギャアと不快な鳴き声が、ボイタタの付けた火と、人々の悲鳴に混ざった。

 うるさいなんてもんじゃない。

 冷静な判断をさせないほどだ。

 本当に守り神か?

 守り神とか言われてたくせに、余計混乱させるじゃねぇか。

 なんなら……――



「人間、食ってるじゃねぇか」



 猛禽類のように、狙いを定めて地面をのたうち回る人間を攫う。

 屋根や高台に登って強靭な爪と顎で食っている。

 生きたままだ。

 良くて生焼け。

 この国を滅ぼそうとしている、とんだ神様だ。



「どうしたもんかね」



 突然冷静になった自覚がある。

 文字通りの高みの見物。

 対抗心から騒ぎを収めようと思ったし、まだ収める気はある。

 だが、飛び回るガーゴイルを、どうやって仕留めようか。



 ざっと数えて20体ほどが高速飛行で暴れ回っている。

 食っていればそこを狙い打てるか。

 一体ずつしか狙えないし、こっちに標的が向く可能性もある。

 人間を襲いに行く瞬間を狙うのも手だとは思うが……まあ、それは最終手段の一歩手前としよう。



 そうこう考えているうちにまた一人、連れ去られた。

 入れ替わるようにして、俺の横に降り立った。



「シュウ」



 おかえり、という言葉を飲み込んだ。



 魔物を食う、というのは、シュウの中の魔物を呼び起こすことと同義。

 エルフが近くにいるかもしれないのに、なぜ食わせたか。

 それは、ボイタタ自体の魔力が、魔物の中でも少ない方だったからだ。

 だから食ってもそこまでの影響は出ないだろうと思っていた。

 ――が、違った。

 それはたぶん、いや、絶対。

 シュウが相手にしたエルフのせいだと直感した。



「ふ……ふふ、アハハ……! なんか、楽しい……?」



 透明の角が、包帯越しに微かに輝き始めた。

 瞳孔は縦に長く変化し、空気がざわめき始める。



 その変化に反応したのは俺と、ガーゴイル。

 ようやく守り神としての責務を思い出したのか、一斉にシュウへの警戒の色を強くする。

 こうなってしまえばこっちに標的は向いてしまったも同然。

 この隙に、逃げることに必死な人間たちは屋内に避難したようだ。



「まあ、しょうがねーかぁ」



 ガーゴイルは素早い。

 本によると火も水も口から吹いてくるらしい。

 近づいて仕留めるのは危険。

 かといって魔法の使い方次第では人間も大量虐殺。

 シュウも何をされたのか警戒しないといけない。



「キョーカ」



 名前を呼ばれる。

 シュウを見れば、しっかりと俺の瞳を見つめてくる。

 魔力の影響を受けていても俺を認識している。

 内心、驚き。



「もっト、食ベたいなァ」



 涎を啜る。

 ひょうたんを握る手に血管が浮いている。

 堪えているのは食欲か、破壊欲か。



 周囲に魔法使いの気配はない。

 それはつまりエルフも近くにはいないということ。

 では。ならば。

 どこか甘い考えの俺が、シュウへの頑張ったご褒美を考え始める。



「いい食材は鮮度が大事だからな」



 シュウを屋根の縁に座らせた。

 ひょうたんを受け取って、ふたを開ける。

 ひっくり返すと零れ落ちるボイタタタタタタタタ。

 そのうちの一匹を両手で掴んで、引っ張った。



水魔法(イズ)



 両手が発光する。

 ボイタタが氷り、一本の氷柱に様変わり。

 片手に持ち替え、後ろに引いて、息を吹くと同時に肩を振る。



「ギャッッ」



 鋭いそれはガーゴイルを貫いた。

 俺の魔法で捕らえたボイタタはいつでもどこでも回収できる。

 だから次の投擲槍を作る。



「ガアアァアア」



 その間に、一匹が大口を開けながら襲い掛かってきた。

 端で目視して、次の瞬間には消えた。



「……まだ食うなよ」



 座らせたシュウが飛びついて、ガーゴイルの様に口に咥えていた。

 口をもごもごと動かし、咀嚼しているのか、しゃぶりついているのか。

 眼だけを湾曲させ、にやりと笑った。

 ぐっと噛んで、ガーゴイルは断末魔を上げる。

 身体が欠け、無様に落ちた。

 シュウは口周りをガーゴイルの返り血で染めながら、嚙み切った肉片をボロりと落とす。



「ハやクー」



 やはり、比較的まともだ。

 理性が効いている。

 理解ができている。

 ……魔力、もしくは聖女に順応している?

 わからない。

 エルフが何をしたのかが定かではない以上、考えても決定打がない。

 内臓を調べる術はない。

 時間が経てば経つほど、エルフの魔法の痕跡もなくなってしまう。

 早々に片付けて、移動して、安全な場所で調べなければ。



 ボイタタを両手で三匹持って、凍らせたそれを片手で持った。

 空で警戒するガーゴイル。

 あと……十七匹。

 目線をずらさず、しゃがんで、木造の屋根を抉る。

 木の板を風で加工して、柔らかくしなる細い木の棒へ加工する。

 髪の毛を一本抜いて、魔法で補強。

 加工した木の棒と組み合わせて、即席の弓の完成。

 凍らせたボイタタを矢として、弓を引く。



 風を切って、複数体のガーゴイルが短く断末魔を上げた。

 力なく落ちていく。

 落ち着きのないシュウが、ちらちらと俺を見てくる。



「食いたいか?」

「うン」

「拾ってきたらいいぞ」



 瞬きの瞬間には姿が消えて、次の瞬きにはまた座っていた。

 表情はあからさまに上機嫌。

 シュウの背中にはまだピクついているガーゴイル。

 一応、この国の守り神なんだが……まあ、いいか。



「どう料理しようかねぇ」



 そしてまた弓を引いた。

 襲い掛かってくればむしろ狙いやすい。

 逃げようとしないのは守り神の誇り、もしくは動物以下の本能。



「魔王の糧になれて、神様も本望だろうな」




 ―― ♦

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