第13話
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ギャアギャアと不快な鳴き声が、ボイタタの付けた火と、人々の悲鳴に混ざった。
うるさいなんてもんじゃない。
冷静な判断をさせないほどだ。
本当に守り神か?
守り神とか言われてたくせに、余計混乱させるじゃねぇか。
なんなら……――
「人間、食ってるじゃねぇか」
猛禽類のように、狙いを定めて地面をのたうち回る人間を攫う。
屋根や高台に登って強靭な爪と顎で食っている。
生きたままだ。
良くて生焼け。
この国を滅ぼそうとしている、とんだ神様だ。
「どうしたもんかね」
突然冷静になった自覚がある。
文字通りの高みの見物。
対抗心から騒ぎを収めようと思ったし、まだ収める気はある。
だが、飛び回るガーゴイルを、どうやって仕留めようか。
ざっと数えて20体ほどが高速飛行で暴れ回っている。
食っていればそこを狙い打てるか。
一体ずつしか狙えないし、こっちに標的が向く可能性もある。
人間を襲いに行く瞬間を狙うのも手だとは思うが……まあ、それは最終手段の一歩手前としよう。
そうこう考えているうちにまた一人、連れ去られた。
入れ替わるようにして、俺の横に降り立った。
「シュウ」
おかえり、という言葉を飲み込んだ。
魔物を食う、というのは、シュウの中の魔物を呼び起こすことと同義。
エルフが近くにいるかもしれないのに、なぜ食わせたか。
それは、ボイタタ自体の魔力が、魔物の中でも少ない方だったからだ。
だから食ってもそこまでの影響は出ないだろうと思っていた。
――が、違った。
それはたぶん、いや、絶対。
シュウが相手にしたエルフのせいだと直感した。
「ふ……ふふ、アハハ……! なんか、楽しい……?」
透明の角が、包帯越しに微かに輝き始めた。
瞳孔は縦に長く変化し、空気がざわめき始める。
その変化に反応したのは俺と、ガーゴイル。
ようやく守り神としての責務を思い出したのか、一斉にシュウへの警戒の色を強くする。
こうなってしまえばこっちに標的は向いてしまったも同然。
この隙に、逃げることに必死な人間たちは屋内に避難したようだ。
「まあ、しょうがねーかぁ」
ガーゴイルは素早い。
本によると火も水も口から吹いてくるらしい。
近づいて仕留めるのは危険。
かといって魔法の使い方次第では人間も大量虐殺。
シュウも何をされたのか警戒しないといけない。
「キョーカ」
名前を呼ばれる。
シュウを見れば、しっかりと俺の瞳を見つめてくる。
魔力の影響を受けていても俺を認識している。
内心、驚き。
「もっト、食ベたいなァ」
涎を啜る。
ひょうたんを握る手に血管が浮いている。
堪えているのは食欲か、破壊欲か。
周囲に魔法使いの気配はない。
それはつまりエルフも近くにはいないということ。
では。ならば。
どこか甘い考えの俺が、シュウへの頑張ったご褒美を考え始める。
「いい食材は鮮度が大事だからな」
シュウを屋根の縁に座らせた。
ひょうたんを受け取って、ふたを開ける。
ひっくり返すと零れ落ちるボイタタタタタタタタ。
そのうちの一匹を両手で掴んで、引っ張った。
「水魔法」
両手が発光する。
ボイタタが氷り、一本の氷柱に様変わり。
片手に持ち替え、後ろに引いて、息を吹くと同時に肩を振る。
「ギャッッ」
鋭いそれはガーゴイルを貫いた。
俺の魔法で捕らえたボイタタはいつでもどこでも回収できる。
だから次の投擲槍を作る。
「ガアアァアア」
その間に、一匹が大口を開けながら襲い掛かってきた。
端で目視して、次の瞬間には消えた。
「……まだ食うなよ」
座らせたシュウが飛びついて、ガーゴイルの様に口に咥えていた。
口をもごもごと動かし、咀嚼しているのか、しゃぶりついているのか。
眼だけを湾曲させ、にやりと笑った。
ぐっと噛んで、ガーゴイルは断末魔を上げる。
身体が欠け、無様に落ちた。
シュウは口周りをガーゴイルの返り血で染めながら、嚙み切った肉片をボロりと落とす。
「ハやクー」
やはり、比較的まともだ。
理性が効いている。
理解ができている。
……魔力、もしくは聖女に順応している?
わからない。
エルフが何をしたのかが定かではない以上、考えても決定打がない。
内臓を調べる術はない。
時間が経てば経つほど、エルフの魔法の痕跡もなくなってしまう。
早々に片付けて、移動して、安全な場所で調べなければ。
ボイタタを両手で三匹持って、凍らせたそれを片手で持った。
空で警戒するガーゴイル。
あと……十七匹。
目線をずらさず、しゃがんで、木造の屋根を抉る。
木の板を風で加工して、柔らかくしなる細い木の棒へ加工する。
髪の毛を一本抜いて、魔法で補強。
加工した木の棒と組み合わせて、即席の弓の完成。
凍らせたボイタタを矢として、弓を引く。
風を切って、複数体のガーゴイルが短く断末魔を上げた。
力なく落ちていく。
落ち着きのないシュウが、ちらちらと俺を見てくる。
「食いたいか?」
「うン」
「拾ってきたらいいぞ」
瞬きの瞬間には姿が消えて、次の瞬きにはまた座っていた。
表情はあからさまに上機嫌。
シュウの背中にはまだピクついているガーゴイル。
一応、この国の守り神なんだが……まあ、いいか。
「どう料理しようかねぇ」
そしてまた弓を引いた。
襲い掛かってくればむしろ狙いやすい。
逃げようとしないのは守り神の誇り、もしくは動物以下の本能。
「魔王の糧になれて、神様も本望だろうな」
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