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いつか魔王と勇者になる、その日まで。   作者: 彩白 莱灯
1-4 欲

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第15話

 合点がいった。

 蛍、つまり、俺の使った転瞬炎のことだ。

 つまり、ミコは俺が召喚した転瞬炎を見て選んだ。

 ――いや、確信した。



「あんたが来たから、母親を救う道を選んだんだろう」



 来なければ……母を見殺しにしたとでも言わんばかりの表現。

 事実、俺があの場にいなければ、遊郭の国は燃えてしまっていたかもしれない。

 そうなれば被害はより酷く、発火場所に近いミコは死んでいた可能性もある。



「……そりゃまた」



 ――勝手におぶさって来やがって。



 鼻で笑うしかない。

 知らぬ間に救わされていた。

『勇者』なんて柄じゃないのに、まるで『勇者』のような善者を演じさせられた。

 反吐が出る。



 俺は見なかった。

 火事を予知しなかった。

 前例の勇者は死んでいるから、予知とはこの程度・・・・でしかないものなのか、確認ができない。

『勇者』ならば、大規模なものこそ予知してやれよと外野の俺が内心で嘲笑っている。

 たった一人の、それこそ将来魔王になる奴に関わることしか予知しないなんて。

 世界で『異変』が起こっているというのに、そんな限局的な機能、不良品とされてもおかしくないんじゃないか。



「……あんたが」



 ふと、振り返った。

 砂嵐のように荒い映像が、俺の脳裏を過ぎった。

 なぜあの国に行ったのか。

 それは、そう差し向けた奴がいるからだ。



「あんたが行けって言ったんだろーが。なに他人事みたいに言ってやがる」



 思い出したら虫酸が走り回ってしょうがない。

 オババが言っていた人物像との違いは気付いていた。

 その時はまだ、そこまでの仲とは思っていなかったから、認識の違いかと、その程度でしか思っていなかった。

 けれど、どうだ。

 随分と親しい仲じゃないか。

 そして、俺が行ったことで、ミコは道を選んだのだと抜かしやがる。



「確信犯だろ。なぁ、ババァ」



 何が悪いか、と問われれば何も悪くはない。

 自分の商売を自分でやれ、と言うだけのことだったと言われればそれまでだ。

 事実、それで契約を結んだのだから、それで話は終わりだ。

 だとしても。

 俺は、俺を利用したという事実を知って、流せるほど勇者ぜんにんじゃない。



「どういう魂胆だ」



 肝の据わったババァに凄みは通じない。

 わかりきったことだ。

 だから淡々と話を進める。

 思った通り、半開きの重そうな瞼はピクリとも動かない。

 それどころか煙管を丁寧に扱って、また一吸い、また一吐き。

 吐き終わった頃に追い吐息。

 一度瞼を閉じて、乾燥しきった唇が小さく動く。



「何も。アタシャ何も、嘘をついちゃいないよ」



 ただ、と続く言葉を、ただ待つ。



「あの子は……ミコと母親が、どうにか救われないかと思ってね。不憫でしょうがないだろう」

「そんなお優しい心の持ち主かよ。それを俺に言うのかよ」

「わかれ、とは言わないさ。だが知っておきな。生き物は、利用しあって生きているんだ」

「自己保身か? 事実だとしても、それを開き直って言うのか、今」

「ああ、あんたは知ってなきゃいけない。あんたが何者か聞いたことないが、訳ありだってことはわかる」

「何様……」



 言いかけたところで、ババァは机の下から箱を取り出した。

 何度か見た、占いのカード。

 慣れた手つきで箱からカードの束を取り出して、机の上に乱雑にばら撒く。

 だが、不思議なことが起きた。



 ―― 三枚を除いて、全て裏面。



「『力』と『成長』、そして『運命』。選ばれし者を現すカードだ」



 俺に『勇者』の片鱗があることは、今生きている誰にも話していない。

 だからこうして当てられることがあるとは思わなかった。

 そして、バカな俺は、唐突に告げられた正解に対して取り繕うことができなかった。

 気づいた時には口を閉じて、肩の力を抜いて、目の開きを戻し、握った拳を緩めることしかできなかった。



 お構い無しに、ババァは話を続ける。



「答え合わせはいらない。ババァの暇潰しだ。当たってようが外れてようが、アタシには関係の無いことだ」

「じゃあ、なんなんだよ」

「利用されたことが不満なんだろう。だが、それが生き物だと言ったはずさね。あんただって利用してんじゃないのかい?」

「なに、を……」



 目線が動く。

 後ろに。

 追って見なくてもわかる。

 それは、俺の大事な旅の仲間で……友達で。



 一瞬の間の後、俺はババァの襟元を掴みあげていた。



 皮と骨しか無さそうな薄くひ弱な首。

 浮き出た血管を少し裂けば、その命は床に広がり落ちることだろう。

 人にしては軽すぎる重みを片手で感じとる理性が、衝動を抑えている。



 荒い息遣いと、食い込む服をものともせず、ババァは冷めた目を向けている。



「あの子も訳ありかい?」

「俺みたいに占ってねぇのかよ、勝手に」

「やってない」

「なんで」

「あんたよりあの子の方が異質さが有り有りとしてるからね。明らさまだ。占うこともなく」

「……善し悪しも、気にならねぇのか」

「こんな場所で商売してるアタシに『善し』も『悪し』も気になるもんか」



 ……。

 拍子抜け、いや、肩透かしか。

 それもそうか、と、ここが裏市であることを思い出し、納得した。してしまった。

 さっきまでの毒気と勢いが溶けてしまった感覚に、腕の力も抜けていく。

 ババァの首元が緩んだところで、ババァは素早く手を払い除ける。

 正して、煙管を一吸い。



「結局、あの子をどうしたいんだい?」



 ―― そんなの、俺が聞きたい。


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