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そして、俺は扉を開けた 〜赤い部屋の契約者は怪異をもって怪異を狩る〜  作者: 御上ナモ


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38/40

37話

本日は3話連続投稿となっているので注意して下さい

こちらは1話目です

2話目は12時すぎに投稿します

 俺を抱え、アズサは夜空を翔けていた。

 オレンジ色の街灯が夜の闇に橙の筋を描く。

 それは夜の街が思うようにならない世界への涙を流しているようにも見えた。

「トモ君は東南アジアと南米はどっちがいい?」

「……俺を、どうするつもりだ?」

「そんな目をしないでよ。あんまり僕を怒らせるとその目、食べちゃうかも」

 アズサは突然に危険な色を瞳に浮かべて見せると、そんなことを言えてしまった自分に驚いたように瞬きをした。

 奇妙な沈黙の中に俺たちはしばし留まる。

 アズサが向かう、この道は——やっぱり俺たちの家だった。

 ここへ来ないでほしい、そう思わなかったと言えばきっと嘘になるけど——。

 震える声を喉で潰して無理やり押し出すように、俺は声を発する。

「……どうせ、何もできないからさ。この蜘蛛の糸で拘束してるの、解いてくれないか?」

 それを聞いたアズサは考えを傾けるように唇を舐める。

「いいよー。今は7時、さっき能力を使っちゃったトモ君はもうただの一般人だし」

 俺は喉の強張りを何とか解こうとして苦心し。

「っていうと思った?」

 アズサの顔がこちらにグッと近づけられた。

 彼女の紫紺の瞳は星みたいに輝いて、空みたいに視界いっぱいに広がる。

「ダメだよ。トモ君。そんな悪あがきはさせない。いやもしかしたら、トモ君は最初からこれを狙ってたのかな」

 俺はバクバク鳴り始めた心臓を何とか抑えようとして、上擦った声を上げる。

「な、何を言って」

「そんなにドキドキしなくても大丈夫だよ。拘束は解かない」

 アズサはどこか寂しそうな顔をして呟く。

 自分が唾を飲み込む音がうるさく聞こえる。

 あたりの光景は後ろへどんどんと過ぎ去っていき、俺たちの家が遠くへ見えてきた。

「さっき、僕を爆薬で吹き飛ばしてあの空っぽの建物に叩き込もうとしたとき、僕は実際にはあの空間に入らなかった。だからあそこで『まるで君が能力をすでに使ってしまったが不発に終わった』というのは、あくまでもそう見えただけ、だ」

 俺の能力は、能力発動領域を指定→他者の侵入→領域内の性質変化という3ステップを経る。

 つまりは実際に内部に誰か他の人物が入るまでは待機状態になるため、能力を使って予約領域を設置していたとしても外部からは何の変化も見えないのだ。

「だから、もし君がまるで能力を発動しているようなブラフをして、ただあそこに立ってただけだったとしても、僕には外からそれは観測できないから、さ」

 気づけば俺たちは家の前についていた。

「ま、待て。待ってくれ」

 俺は自分でも知らぬうちにそう叫んでいた。

「だめ、待たない」

 外壁を跳ねるようにして駆けると、一気にうちの部屋の前へ着く。

 目の前には扉。

「安心してよ。僕がリードしてあげる。男の子とは初めてだけど女の子とは今までに何度も経験あるし。あ、最初が拘束プレイってのも味があっていいんじゃない?」

 アズサはいつも、猥談をするときみたいな普段通りの口調で話し続ける。

 『ギュイッ』と音を立てて扉が開く。

 万が一にも俺が扉に触れられないように、慎重に鍵を開けたアズサは俺を抱えて家の中へと入った。

 一歩、二歩進んで、俺たちは扉の枠を超えて家の中に完全に踏み込む。

「あんまり長居できないけど——」

「——アズサ……」

「ん、何か言った?」

 俺が呟いた言葉が聞き取れなかったアズサが聞き返す声が、水の中にいるみたいにぼんやり聞こえる。

 俺はかじかむ歯を無理矢理噛み合わせて、その言葉を言った。

「——これは、徹頭徹尾、俺とお前の話だ!」

 そして部屋が。

 赤く染まる——。

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