34話
『アズサを止めなきゃいけない』
『最後にもう一度過去と戦わなければいけない』
『俺はアズサと真の意味で向き合わなければいけない』
『——そして俺は、アズサと別れなければいけない』
そんな言葉がずっと頭の中でわーんわーんと鳴いている。
その声が幼い頃の俺の甲高い声をしていることに、俺は今更ながら気づいた。
思えば、俺は家が燃えたあの日から、この声がずっと聞こえていたのだ。
当たり前になりすぎて聞こえなくなっていただけで。
ずっと目をそこから逸らしていただけで。
最初からずっと、聞こえていたのだ。
俺は学校を無断欠席して、街を歩いていた。
アズサとの今までの道のりを辿るように、俺とアズサの今までの思い出をなぞるように、もう一度晴れた空の下で街を歩く。
アズサには一本だけ連絡を入れておいた。
「ちょっとの間だけ、不良になることにした」
そんなふざけたメッセージを一方的に送りつけて、電源を切った。
俺は歩き出す。
少しでも、楽しかった頃のアズサとの記憶に縋っていたかった。
この家の前はアズサとは数え切れないくらいの数、歩いた。
そして、どこかに行った後に度々寄ったあの公園。
いつもアズサはブランコに座って、俺はその周りの柵に寄りかかって、他愛もないことをずっと話し続けた。
あの店はどちらかの誕生日のとき、毎回のようにケーキを買っていたケーキ屋。
この曲がり角はアズサと毎回……。
そこのカフェはアズサと一緒に……。
ここの抜け道は、昔からずっと、アズサと一緒に……。
最後に一度だけ、あと少しだけ。
この温もりの中で留まらせてほしい。
きっとこれはすごく罪深いことで。
最後に俺が望んだ、たった一つのこと。
あと少しで、俺は覚悟を決める。
あと少しで、俺は扉を開ける。
だから、あと少しだけ。
この赤い血にまみれて黒い罪に汚れた、この——赤い部屋に留まっていたいんだ……っ!
俺は泣いた。
周りの目も気にせずに泣き叫んだ。
苦しかった。ただただ苦しかった。
どうしようもないこんな世界に、なんで俺を生まれさせたんだと全てを恨んだ。
吐きたいくらいの胸の痛みと、死にたくなるくらいの閉塞感に駆られて俺は泣いた。
泣いて。
泣いて。
泣いて。
それでも俺は歩いた。
苦しい。諦め切れない。
どうしてもこのままで。
このままでアズサとなんでもないかのように時間を続けたい。
怖かった。一歩ごとにアズサとの別れが近づいてくる音が聞こえる。
それでも俺は歩いた。
嫌だ!アズサと離れたくない!もっと話したいことがある!もっと交わしたい想いがある!
心は叫んでいる。苦しい、痛い、と泣き喚いている。
でも。
——俺は歩いた。
歩いて、歩いて、俺はアズサとの今までの思い出の地を辿り終える。
俺はいつしか俺の家の前に立っていた。
「……トモ君。泣いてるの?」
アズサの声が聞こえる。旅行から帰ってきたばかりだろう荷物を背負っていつも通りに爽やかに笑っていた。
涙で赤くなった瞳を隠すように目を瞑る。
俺はいつものように口を開いた。
「今度さ、またどっか、デートに行こうよ」
アズサは少しびっくりしたような顔をすると「そんなに仰々しく言わなくてもこれから何度でもデートに行けるよ」と笑って。
「いいよ」
と言った。
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