33話
「……比良坂トモです。崎宮サキさんへお見舞いに——」
一度家に帰って体を拭いて、着替えて、俺はサキが治療を受けている病院へ来ていた。
何かしていないと頭がおかしくなりそうだったから。
何も考えないで済むように、何かをしていたかった。
『ガラリ』と音を立てて扉を横に開く。
白いベッドに寝ているサキは点滴を繋がれ、眠っていた。
病室には先客がいた。
「……こんにちは、比良坂くん」
白宇根先生が入院患者用の服を着て、座っていたのだ。
「先生……無事だったんですか、良かった」
俺は少しだけ息を呑む。
「私は術師統制局の偉い人なので治癒系の異能力者の方の支援を受けやすいんです」
先生は、申し訳なさそうな顔をしてそういう。
治癒系の能力者は希少だ。それに大抵はある程度の回数制限がある。
サキは完全に直し切ってはもらえなかったということだろう。
「……別に先生のせいじゃありませんし」
「……」
先生はしばし何かを言い淀んだのちに、迷いを誤魔化すように話す。
「……鏡野と私とサキで、二階堂フミが死んだときのことを調べました。彼女のスマートフォンは壊れていましたがある程度の情報はサルベージされるはずでした。しかし——」
——その作業を任せていたエンジニアの元へ出向いた際、作業所が炎上。
サキと先生を庇った鏡野が死亡。
……アズサのせいだ。
その言葉が喉の奥に引っかかり、俺はその言葉を飲み込む。
それがサキへの、先生への裏切りであるということはわかっていた。
でも、俺は口をつぐんでいた。
俺は、どうしたいんだ?
アズサを庇いたい?
それとも断罪したい?
嫌だ。この思考から逃げたい。こんなこと選べない。
俺はこんこんと眠り続けるサキが味わったであろう痛みから、アズサのせいで死んだ鏡野の苦しみから目を背けて黙りこくる。
不意に思考が途切れる。先生が無言でこちらを見ていた。
空恐ろしいような表情のない顔で白宇根先生がこちらを向いている。
「……っ」
別に何もおかしなことはないはずだ。
でも、俺はそのときなんとなく、先生はアズサの正体に気づいているんじゃないかと、そう直感した。
白宇根先生はサキの髪を優しく撫でて独り言のように呟く。
「……永遠なんて、ないんです。別れというのは避けられない。だったらその別れから目を背けるんじゃなくて、ちゃんと見てあげてください。向き合わずに逃げても苦しくて悲しいだけです。泣いたら泣いた分だけ、きっと空は」
……晴れるから。
そう言い残した白宇根先生はサキの髪から手を離し、病室の外への扉に手をかけた。
「——早乙女アズサは必ず捕まります。必ずそうして見せます。証拠が彼女から逃げ道を閉じ切るまでにあと何人が死ぬか、それはわかりませんが」
白宇根先生が扉を閉じる。
『ガチャン』
という音がいつまでも耳の奥で反響していた。




