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そして、俺は扉を開けた 〜赤い部屋の契約者は怪異をもって怪異を狩る〜  作者: 御上ナモ


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29話

 俺は外にいた。

 目の前には幼い頃のアズサが顔を伏せて立っている。

 後ろを振り返ると、そこには赤黒い炎が燃え上がっている幼少期の俺の家があった。

 俺の体は震えていた。

 なぜ?

 恐怖だった。言い表せないほどの恐怖が俺の体を震わせている。

 パクパクと口を開こうとしても何も声は出なくて、気づけば俺は走り出していた。

 恐ろしい扉の外から必死に逃げようとして。

 つまづきながら、半分転がるように走った俺の脚は、なぜか燃え上がる家の方へと向かっていく。

 炎の中へ飛び込むと、スプーンを差し込まれたクリームみたいにあっけなく炎は左右へと避け、俺は玄関へと辿り着いた。

 慌てて

『ガシャン』

 と音を立てて扉を閉じて、キーチェンまでかける。

 扉に背を預けた俺はズルズルと座り込んだ。

 バクバクする心臓を抑えて、俺は落ち着こうとする。

 ふと下を見ると、俺の体は炎に飲み込まれていた。

 慌てて手を振り回したりしたほうがいいのかな、とか場違いな考えが頭に浮かぶ。

 だが、別に熱く感じなかったのでそのままにした。

 ——別に、誰も見ていないから隠さなくてもいいや。

 熱くない。むしろ暖かくてなんだか安心するような気がした。

 すいっと手を向けると面白い様に炎は動く。

 右へ向けると右へ。

 左へ向けると左へ。

 俺の手に指揮棒がついていて、炎を思うがままに操っているように。

 気づけば俺はうっすらと微笑みを浮かべていた。

 最近ずっと感じていた違和感と焦燥感が抜け落ちていた。

 安心感。

 ベッタリと俺の体にまとわりつく重い安堵がいっぱいに。

 これはまるで■のような——。

 蒼みがかった深い霧が湧き出てくる。

 一寸先も見えない様な霧があたり全てを覆い隠す。

 霧に包まれた俺は段々と眠気を感じてきた。

 それに逆らわずに俺はゆっくりと目を閉じる。

 すっと深い水の底から浮上する様な感覚で意識が現世に戻ってきた感覚。

 俺が再度目を開けると、目の前には見覚えしかない天井が広がっていた。

 いつもの俺の部屋の天井だ。

「……なんで」

 パサパサする喉からそんな声が聞こえる。

 なんだ、今の夢は。

 なんで俺はあの、家を焼いた炎の中で安心してたんだ?

『真犯人が、フミじゃないとして——』

 なぜか、アズサがそんなふうに喋っている声が聞こえて、俺はそれを遮る。

「俺じゃない」

 そんな馬鹿なことがあってたまるか。そんなわけがない。

 そもそも俺の異能は赤い部屋だ。

 一人がいくつも異能を使えるなんてあり得ない。

『——実は自我が曖昧な幼少期に複数体の怪異を宿す……』

『——成人した多重人格の方も同様に怪異を宿した例が……』

 いつかの日の白宇根先生の話が蘇る。

 その発言に耳を貸さないようにして、俺は無理矢理に震える息を吐く。

 どうにか呼吸を整えようとする。

 もしこれで。

 俺が扉を開けるのが怖い理由が、知らず知らずのうちに人を殺してしまうことを恐れているからだとして。

 もしこれで。

 次の日の朝起きたときに、誰かが死んでたら……。

 夢遊病みたいに起き出した俺が、夜な夜な誰かを焼き殺す、そんな様子がデフォルメ的にイメージされ、俺はその馬鹿馬鹿しさに笑った。

 そうだ、そんなことあるわけないんだ。あるわけ……。

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