15話
薄暗い部屋の中で、間接照明によって暖色に照らされた白指が艶やかに宙を泳ぎ、少女の唇を軽く撫でる。
唇にふれられた少女が軽く身を動かすと、黒々と煌めく髪がさらりと揺れ、砂浜のような白のシーツの上に黒いさざなみを立てる。
唇を軽くなぜた指はそのままつー、と滑り彼女の顎を柔らかく、でもしっかりと持ち上げた。
「お姉さま……」
「……僕たちがここにいられるのはあと3日ぐらいだ。その後は、しばらく会えなくなるね」
アズサにそう言われたフミは、陶然とした顔をして甘く呟いた。
「いえ、元はと言えば私のわがままです。お姉さまを独り占めしたいばかりで。お姉さまは自由だからこそお姉様なのに」
「ふふ、そう寂しいことを言わないでよ。フミはそのわがままなところが」
と、そこまで言って言葉を切ったアズサはグッとフミに顔を近づけると糖蜜のように音の粒を垂らす。
「可愛いんだから」
「……っ」
フミはアズサに囁かれた方の耳をそっと撫でると頬を赤くして俯いた。
「……」
そのせいでフミは彼女を見つめるアズサの視線の中に微かな苛立ちが籠った瞬間を見逃してしまう。
彼女が顔を上げたときにはすでにその陽炎は雲散しており、アズサは妖しい輝きを放つ紫紺の瞳を瞬かせるのみで、先ほどまでの様子は影も見せない。
フミがゆっくりとアズサにしなだれかかると、アズサはフミの髪に優しく指を透かす。
しばらく二人はそうしていたが、アズサが自然にフミを押し退けると、二人は示し合わせたかのようにベッドから降りた。
仲睦まじく歩く二人はゆったりと言葉を交わしながら部屋から出る。
「今日の入浴剤はなんだったかな」
「ええっと、なんだったかよく思い出せません。一緒に選びましょう?」
巨大な扉の前で二人は立ち止まった。ここを開ければ風呂場に繋がっている。
フミがはやる気持ちを抑えるようにしながらその扉を途中まで開けたとき、アズサが何でもないかのように言った。
「そういえばフミは明日留守にするんだっけ?」
それを聞いたフミはよく分からない、というような顔をしてアズサの方を振り返る。
「えっと、お姉様……?」
「……フミは明日留守にするんだったよね?」
アズサは変わらない表情のままでそう繰り返す。
フミはわずかに震え始めた自分の指先を隠すように手の先を隠すと、不安そうな笑みを浮かべて答えた。
「そ、そうでしたね……時間は確か……」
「明日の朝早くに出かけたフミはその日の夜遅くに帰ってくる、そう言ってたじゃないか」
「……は、はい」
怯えたフミの返事を聞いたアズサは途端に雰囲気を柔らかくすると、フミの体を抱き寄せ前髪にキスを落とす。
アズサが硬くなったフミの体をほぐすように彼女に何やら囁いたあと、二人は脱衣所の中へと消えていった。




