第八十四ゲーム ・二つのツキ、姿を現す
「……どういう、こと…?」
驚く湊の声が真っ白な空間に溶けて行く。彼らの目の前、晴れた煙の中から現れたのは二人のツキカゲだった。恐ろしいほどにそっくりだった。いや、正確に云えば、少し違うだけでツキカゲにはかわりない。もう一人のツキカゲは片腕を負傷したらしく、片手で押さえている。しかし、ツキカゲは一見したところ無傷であった。大きな怪我がなくて良かったと云えば良いのか、この状況ではそれさえも分からない。色々不思議な状況であったが、湊の頭の中は極めて冷静だった。推しであり嫁が二人もいれば頭の中がハイテンションと驚きで可笑しくなりそうなのに。だがならなかった。それは気づいていたからかもしれない。あれ?あの人は、と。
「(夢に出てきた……ツキカゲ)」
もう一人のツキカゲが夢に出てきた人物であることに。まさか、いや、まさか?湊の頭をぐるぐるとこれまでの状況や言葉が巡る。清光に問いかけるツキカゲ。悪魔に取り込まれた時、一瞬見えたツキカゲ。その後に移動で見た夢。現れた清光。嗚呼、此処にいるのは誰で、その代わりにいないのは誰だ?問いかけなくても薄々分かってしまう事だった。真っ白な空間にほとんど真っ黒な彼。ねぇ?湊はいまだ困惑した表情で複雑な、困惑と不安とそれ以上の感情もごちゃ混ぜになって複雑になってしまった表情を我に返って湊に向けるツキカゲに問いかける。
「……ねぇ、ツキカゲ。教えてくれる?」
「……っ」
ツキカゲが唇を噛み締める。その表情が何処か怯えていて湊は小さく首を傾げた。ツキカゲはなにかと葛藤しているのか、視線をあっちこっちにさ迷わせ、その視線はもう一人のツキカゲに注がれた。彼は何も言わず、肩を竦めてみせただけだった。その様子を見ていたピィアレナが龍華の肩を軽く叩き、「どうなってるの?」と混乱を表す。だが龍華は大丈夫と笑うだけで。すると、いまだ混乱するツキカゲを助けるように龍華が言う。
「アンタらしくないんじゃないかい?」
「……え?」
「オレ、前に言ったよな?大丈夫だって。アンタは、信じられないのかい?」
龍華の言葉にツキカゲがハッと何かに気づいたのか、目を見開いた。そして、決心がついたのかツキカゲは湊に向かって突然頭を下げた。それに湊は「えっ?!」と驚くしかできない。だが、それ以上に驚く事が彼の口から紡がれる。
「先に言わせて。ごめんなさい。僕は、ある意味君達を騙していた」
「それって、どういうことかしら?」
ツキカゲの言葉に呆気にとられる湊の代わりのようにピィアレナが声をかける。その声が優しくて、余計に怖く怒気を含んでいるように聞こえてならない。それもそのはずである。けれど、ピィアレナ自身はツキカゲには見えなかったが優しい微笑を浮かべ、まるで子供を慰める母親のようだった。もう一人のツキカゲは様子を伺っているのか両腕を組んでいる。しかし彼の表情も何処か晴れやかで、気づいていた。ツキカゲは頭を恐る恐る上げ、湊を見る。湊は驚いていたが、怒っているわけではなかった。
「あのさぁツキカゲ。私ね、怒ってないよ?君にも何か事情があったんだろうなって思うし、それに、私も何処かでツキカゲに違和感を持っていたの」
そう、私は何処かでツキカゲに違和感を持っていた。それはゲームと現実と云う隔たりからかもしれないと思っていた。けれど、それは違ったから。だから、真実を教えて。知るのは、色々怖いけれど、だけど。
「話してくれる?大丈夫だよ」
湊はニッコリと笑い、続けて、と促す。ツキカゲは湊の言葉に大きく目を見開いていた。普通は「なんで騙した」とか、怒り出しそうなものなのに。怒ってくれても良かったのに。するともう一人のツキカゲが呟いた。まるで、ツキカゲの心情がわかったかのように。
「信頼しているんだから」
「(私は、信じる)」
彼がその先にどのような言葉を繋げようとしたのか、容易く分かってしまった。そして声に出さず、口パクで言った湊の言葉も。此処にいるのは、仲間で。信頼していて。嗚呼、だから…ツキカゲは頷き、話し出す。それが最善だと信じて。怒られるのも、なにもかも、受け止めるから。心臓がうるさい。嗚呼、今だけでも静かにしていて。僕は、真実を告げよう、彼らに。
「……僕はマスター、湊がやっていたゲームの…ちょっと違うな…今まで巡った四つの異世界の住人が全員存在し、隊を形成している別の異世界から来た。僕はそこの元副隊長なんだ」
「!じゃあ、なんで君は此処にいるの?此処にいる理由は?」
「そう訊くのも最もだと思うよ。それも今から話す」
衝撃的な真実に驚きを隠せない。既にあった疑問を新たに出た疑問が覆い隠し、新たな道を産み出していく。しかし龍華は少なからず知っていたのか、はたまた気づいていたのか女子二人よりも反応は薄めである。ツキカゲは大きく息を吸い、続ける。
「僕達は隊を作り、ある化け物と日々戦争を繰り広げている。少しだけ湊がやっているゲームの公式も入っていたみたいで、だから何回か反応出来たのはあったんだけど……その世界にも湊はいたんだよ。僕達の、心強い隊長として。でも、彼女は戦死した。だから、繰り上がりで僕が現隊長になった。ありとあらゆる事が変化して馴染み始め、噛み合わさったそんな中、ある仲間が言ったんだ。その仲間は異空間とか空間に長けていた。仲間は言った"別の異世界の湊が錬金術師によって殺される"って」
「錬金術師って?」
「此処に君を連れて来た神様は神様じゃない。自称で、本当は恐ろしい錬金術師なんだ。『異空間の神世界』を狙っていてその目的のために、自分の横暴のために湊を殺そうとしていた……利用されていたんだ。あの自称は、錬金術師は僕達の世界でも危険人物と恐れられていた。そんな奴の横暴で、無関係な君を死なせたくなかった!だから、侵入した。自分が本当に隊長として相応しいかどうか、自分の実力を試すために、そして君を救うために。でも結局、錬金術師が云う解決もわからなくて、錬金術師の思い通りになってしまったけれど……知っていながら止める事が出来なかった……ごめんなさい」
再び、ツキカゲが頭を下げた。分かってる。知っていたのに、出来なかったってのは言い訳だと思う。でも、無関係な、大切だった君をもう一度守りたかったんだ!失いたくなかったんだ!
ギュッと目を閉じるツキカゲに湊が歩み寄る。とその両手を取った。両手を取られた事に驚き、ツキカゲが頭を上げ、身を固くする。だが、湊の表情は穏やかだった。
「ありがとツキカゲ、話してくれて。正直、別の私がいるなんて驚きだし信じられない……でも、二次元が三次元化っていうかそれ以上の存在になってる事態でもう信じるしかないよね!!」
「?!」
「ははっ」と楽しそうに笑う湊にツキカゲは目を丸くした。その笑みは最初に、ゲームのツキカゲを押し退けて侵入した時に見た湊のあの笑みだった。「やってやる」と、何処か吹っ切れつつもやり遂げてみせると息巻いていた、あの時。誰も関係を知らなかった、真っ白かったあの関係。まるであの時に戻ったかのようだった。
「ん~あたしね、そこまで難しい事苦手だったりするのよ?でも、湊ちゃんと同じで怒ってもいないわ。あたし達と同じ存在なんだもの。知れて嬉しいわ」
「……ピィアレナ」
ピィアレナがツキカゲを見て、あの母親のような笑みを浮かべた。それにも湊の優しい暖かさにも目尻に涙が滲む。だが、それはいけない。ピィアレナの言う同じ存在とは、イレギュラーと云うことだろう。湊がフイッと龍華の方へ視線を投げると彼は頬を綻ばせて言った。彼も大丈夫だと云っているのは分かっていた。
「言ったでしょう?信じていたのは、ね?あと、ちょっと外れた」
「あら龍華。もしかして、気づいてたの?」
「半分はね。まぁ、もう一人の言い分も聞かなきゃ正解には到底なれないけど」
肩を竦めて龍華が言う。ピィアレナは当たり前のように受け入れているが湊やツキカゲ、彼の言うもう一人のツキカゲにとっては口をあんぐりさせてしまうような事柄である。妙に達観してるなーとは思ったが!いや、関係ないのかそこは?うん?
「……ちなみに龍華、どこら辺で…?」
「随分前。正確に云えば、初めて会って少ししたあとから違和感っていうか、あれって思うところがあって。ツキカゲにしたあの質問とその答え、そして行動とかから。確証はなかったけれどね。もしかしてって、ほとんど確信したのはハナトと話してる時だよ」
「……ウッソー」
「……マジかー」
「お願い現実逃避するの後にして私も驚いてしたい気分だけどさ!?」
まさかの驚きにツキカゲが顔を片手で覆う。もう一人も同じように顔を片手で覆っていたので彼も驚いているのだろう。現実逃避に行ってしまいそうな二人を留めて、改めて湊はツキカゲともう一人を見た。そして、二人に見えるように両腕を広げ、言う。
「大丈夫、信じてるから。ありがと!」
何に対する言葉か、分からないほど馬鹿ではない。ツキカゲは思わず、クスリと笑っていた。それはもう一人も同じだった。
そんな書いてたつもりはないのに総数の数がヤバい。Oh……まぁ書きたいの書けたから良しとします!これも気づいていた方、いたんじゃないですかね!説明分かんなくなったらいつも通りスルーです!
次回は再び予備日、水曜日です!




