誰かの思い出話の「夢」について
意識が、浮上する。嗚呼、自分は今まで眠っていたんだと、再認識する。けれど、それは正解であって不正解であることをとっくの昔に気づいていた。見知った人物と、全く知らない人物。何故、知り合いのように…いや、まるで仲間のように話しているのか疑問だった。もちろん、知っている人物は何人かいた。でも、何処か異なっていた。それは、知り合いであって知り合いではない。ただの考えすぎ、かもしれない。断固否定できないのは、弱いとかそういう類いじゃないから。そう……疑問からだった。
浮上した意識を発散させるように目を開く。そこにあるのは、真っ黒な空間で。自分の存在感と混ざり合い、自分が溶けてしまうんじゃないかとちょっと不安に思った。けれど、それは絶対と言っても良いほどにあり得ない話で。だってそこに、君がいるから。自分とよく似た君は悲しげな表情でこちらを伺っている。怒るとでも思っているのかな?以前なら怒ったかもしれないけれど、今は怒る気なんてさらさないのに。それがなんだかちょっと可笑しくて小さく笑うと君はこちらの心情に気づいたようで、安心したように頬を綻ばせた。……うん、自分で言うのもなんだけど、儚いって言われている意味が分かる気がする。もう、自分には、成長と共にもしかすると失われている魅力かもしれない。
「おはよう、が良いのかな?」
そうなんじゃないかな?ずっと眠っていた理由なんて……いや、一瞬でも目を閉じたんだから、眠っていると考えているならそれは正しい挨拶だよ。
「ふふ。それは……」
良かった?素直に喜んだら良いのに。君は何も悪いことなんてしていないでしょ?
「……」
黙ってるってことは、少なからずそう感じてしまう事があるって事かな。まぁなんとなく分かるけど。話を戻そう。さっきまで見ていた夢について。
「っ。気付いてたんだ」
うん。だって、可笑しいじゃん?知らない人が自分を知っていて、それと同じように自分も知っている…現実だったら「記憶喪失?」って疑うところだもの。それに知っている人物がいても、それは確実に自分が知っている人物ではなかったからね。自分が思っている事も、絶対にあり得ない事だらけ。だってそうだろう?薬なんて、生まれてから一度も飲んだことなんてないんだから。…まぁこの姿では飲んだかもしれないけどね?
「………そう、かもね……」
だから、夢だと思った。眠っている時もあったから、夢だなんて思わなかったんだけど。でも、可笑しいところを繋ぎ合わせて、点と点を繋ぎ合わせ一本の線を作ると……不思議とその答えは見えてくる。自分が可笑しくて異常と云う仮説を除けば、これは夢だと分かる。内容を言っても良いよ?何度も、そう何度も繰り返し見た。まるで大好きな映画のフィルムが擦り切れるまで鑑賞するように。まるで大好きな物語を記憶してしまうほど読み込んでしまうように。
「………えいが?」
あ、そこ取っちゃう?ふふ、驚くよね。君のところにはまだ存在していない、架空の存在だからね。ま、それを言ったらこっちもかな。とにかく、何度も見たんだ。そのうち、これは単なる夢じゃないと気づいた。これは、誰かの思い出なんだって。自分で意識しているわけじゃないけれど、夢の中でいつも「自分」と心の中で話してる。そりゃあそうだよね。だってその夢は、僕じゃないんだから。
「……………」
ただ単にその誰かさんの第一人称が「自分」だって云う可能性ももちろんある。でも、それでも可笑しいよね?なんで知り合いをずっと少女や少年、青年、女性、男性って呼ぶのか?名前で呼べば良いのに。その理由は、恐らく夢で、思い出だから。
「………根拠は?」
根拠なんてないよ。ただそう思っただけ。夢を見ている僕は、体を動かしている自分じゃない。だったら知らないでしょ?彼らの性格も名前も、自分との関係性も。多分、僕が知らないから強制的にそう上書きされていたんだろうね。一番それがしっくりくる。さて、ではそれは誰の思い出だったのか……答えは単純。君だよね。
「……………」
僕が見た思い出と云う夢の中で、唯一、出てこなかった人物が二人いる。一人は何度も見た夢の内容からして亡くなっているんだろうね。ところどころでそんな言い方がちらほらあったし。そしてもう一人は君だ。亡くなっているであろう人が本当に亡くなったと仮定して除外すれば、浮かび上がるのは君だけ。多分、君視点だったから出てこなかったのかな。
「………うん。多分、そうなんだろうね。でも、何故、君に?それすらも分からないよ。こっちだって君に見せたくて見せていたわけではないのに!」
うん、そうだよね。君の大切な思い出を僕が夢として見るなんて到底あり得ない話だ。でも、よく考えて?僕と君の関係性を。
「っ、あ…」
それを踏まえると、到底信じがたい事が起きたんだろうね。此処はそういう場所。あり得る話と云えばあり得る話だ。つまり、君の思い出が僕に夢として流れ込んだ……そう結論付けるのが良いと思うんだけど、どう?
「………………そうなのかな…」
信じがたいけど、多分これが結論。じゃなきゃ、君だって可笑しいもの。
「はは、嗚呼、そうだね」
さて、そろそろ出ようか。僕は君の正体に気づいてるけど、ちゃんと説明してもらっていないからね。此処ではあくまで誰かの思い出話の夢について話しているだけなんだから。きっと、此処での話を君と僕は知らないし、覚えてさえもいないんだからね。
恐らく気づいていた方、いたんじゃないですか?それかウチの表現不足&文才不足か……うん、文才が欲しい。




