第八十三ゲーム ・禁止された箱庭
みぃちゃんは、目の前に広がる灰色の煙にニヤリと笑った。湊達が本当に死んだかどうか、確認しなければいけないのに、そんな奴ら放っておいて早く行きたいと強く願う自分もいた。だから、神様は自分の欲望を取ることにした。もし死んでいなくても、この中に入ってしまえばどうにでもなるのだ。めんどくさい事は後回しで良い。みぃちゃんは張り付いた笑みのまま扉を振り返り、もう一度、見上げた。そして、血のように真っ赤なドアノブを掴み、勢いよく引いた。扉の向こう側は星屑の空間だった。だがみぃちゃんには見えていた。この星屑のずっと奥に、自分が長年待ち続けたものがあることに。みぃちゃんは一度、後方を振り返った。がすぐさま前を向いた。後方はいまだに煙に包まれていた。先程も考えたが、どうにでもなる。人が何人増えたところで
「どうせ死ぬのに」
ポツリ、と呟いた自分の声が余りにも低くてみぃちゃんは思わず自分の口を抑えた。小さいのか大きいのか、自分でさえも分からない手が視界に入る。脳内にフラッシュバックした光景を頭を振って打ち消すとみぃちゃんは嬉しそうに一歩足を踏み出した。星屑に呑み込まれていく体、足、全てに優越感を感じながら扉はまるでみぃちゃんの意思を汲み取るかのように独りでに閉じられた。ゴォン……と鈍い音が真っ白な空間に響き渡った。その数秒後、
「……みんな、無事?」
龍華の小さな声が響いた。無事かどうか、誰もが知りたい問いを口にする彼に少しずつ晴れつつある煙の中から各々声が返って来る。
「あたしは無事よー…ちょっと切っちゃったけど」
「私もーでも、龍華が咄嗟に呪いの龍を使ったから助かったよ!……でも近くで大きな音聞いて耳痛い……」
「大丈夫かい?」
だんだんと煙が晴れてくる。湊はキーンとする耳を押さえながら傷を確認する。最初はテンパってしまい、ほとんど防ぎようがなかったため、擦り傷がたくさんある。けれど、重傷と言うわけでもないし、動ける。クリアになっていく視界にピィアレナを見つけ、慌てて駆け寄った。爆発音がしたため、吹き飛ばされてしまったようだ。ピィアレナは避けた時にでも足を捻ったのか、後方に座り込んでしまっている。その近くには右側に龍が戻りつつある龍華がいた。龍華とピィアレナも湊と同じように擦り傷が目立つが大怪我はないようだ。が、龍華の右腕が攻撃を防いだ後遺症でか、酷く傷ついていた。あんなに大量の刃物からよく擦り傷で帰って来れたなぁ、なんて湊は内心笑った。湊はピィアレナに手を貸しながら先程声がしなかったツキカゲと清光を心配した。
簡潔に云えば、龍華の呪いである龍を使用し、みぃちゃんの攻撃を間一髪で防いだのである。どのようにすれば呪いが防御になるのかは湊にはさっぱりだが、以前ピィアレナに興味本位で聞いたところによると「龍華の指示」らしい。呪いで攻撃を弾いた、と言うことだろう。呪いを呪いで弾き返すように。さすがに神様でもあるし復讐心の龍でもあるので全てを防ぐ事は難しかったようだが。攻撃用途と似た仕組みらしいが防御には向かないらしい。とにかく呪いで防ぎました、はい。そう自分で勝手に納得している湊にピィアレナが「ありがと」と笑いかける。だがそれに湊は小さな微笑しか返せなかった。
「ツキカゲ!清光!」
「……なんで返事しないの!?」
「湊ちゃん、大丈夫だから落ち着いて」
徐々にクリアになっていく視界の中、三人の心配する声が響く。何故、返事をしない?大怪我でも負ったのだろうか?それとも龍華の防ぎが間に合わなかったのだろうか?それで…湊を不安が覆い隠し、ついには脳裏に最悪な光景が写し出された。真っ赤な絨毯に身を委ねる青年と真っ黒な獣、身動きすらしない体。まさか、まさか!と、ピィアレナが大丈夫と湊の肩を叩いた事で彼女は最悪な光景から我に返った。そして慌ててしまった自分自身を大丈夫大丈夫と落ち着かせる。
「落ち着いた?」
「落ち着いた!じゃあさっそくもう一回。ツキカゲー!清光ー!」
「ねぇこれって叫んでも大丈夫なのかい?扉の中にいったあの人に聞こえたりしない?」
「そこは大丈夫だと思うよ龍華!」
落ち着いたのでもう一度湊が叫べば、龍華がポロッと疑問を漏らした。確かに大声を上げれば生きている事をみぃちゃんにバレてしまう恐れがある。だが、こちらの様子よりも扉を優先させたみぃちゃんの事だ。もし湊達が生きていたとしてもどうにでもなる自信があったのだろう。てかなんで攻撃されなくちゃいけないの?どうなってんの?!色々な事がありすぎてちゃんとした説明を求む!と拳を握りしめる湊。だが今はそれよりも反応のないツキカゲと清光だ。ピィアレナも湊と同じように声をかけ、龍華は一応で警戒している。爆発が大きかったからか否や、煙が一向に晴れない。クリアになっていってはいるものの、完全にはいまだに晴れてくれない。
「!あ」
その時、ピィアレナが声を上げた。なんだと彼女の視線の先を追うとようやっと見えるようになって来た視界に紺色が見えた。あれは、恐らくツキカゲだ。いた、と云う安心感と共に清光は?と云う疑問と不安も浮かび上がる。が、湊を覆っていたそれは意図も簡単に…いや、弾かれてしまった。ピィアレナと龍華も同じだったのか、ピィアレナは大きく息を呑み、龍華は何処か複雑な表情をしている。湊も同じ表情だった。驚いて、混乱して、探して、疑って、気づいて、知って、見て、そして、ーーー真実だと、確信した。
「………どういう、こと…?」
ポツリと呟いたような湊の声が反響する。三人の前に煙の中から姿を現したのは、
次回は来週です!云うこともなくなって来たぁ……




