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ただいま異世界巡回中!  作者: Riviy
四周目 ある人達の話
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第七十二ゲーム・勇者と魔術師


「清光、尻尾で溢さないようにな。洗濯でお金取られるみたいだから」

「にゃうん!にゃ!」

「…あの、大丈夫、って…()()()()()()()()()…って言って、ます……けど…」


龍華が清光をからかうように言うと清光を抱き締めていたハナトが言った。龍華の右側を覆う龍が少し怖いのか、龍華から視線を軽く逸らしている。龍華は彼の言葉にキョトン、とする。彼に渡そうとしたカップをフイッと引き戻しながら、龍華が聞く。


「……清光の言葉が、()()()()()までわかるのかい?」


清光の言葉を、湊達は()()()()()()()と、不思議なことにわかっていた。恐らくそれは細かいところは正確ではない可能性がある。不思議で不可思議な、そんな会話だった。だがこの少年は全て理解しているとでも云うような発言だった。しかも、()()()。自分達では細かいところまではわからない、清光の言葉を。ハナトは少し照れたように笑った。それで容易に理解出来た。けれど、


「(今は、関係ないか)」


龍華は横目で椅子やカップを持ちながらこちらに移動してくる()()()()達を一瞥すると、ニッコリと笑ってハナトにカップを渡した。ハナトは龍華の様子に疑問そうに首を傾げていたが、清光の尻尾がカップに当たりそうになったのに気を取られ、視線を逸らした。


「龍華、此処座って」

「ありがとピィアレナ」

「良いのよ♪」


ピィアレナが二つ分の椅子を持ってやって来ると龍華に言う。二人同時に笑いながら隣同士の椅子に座った。湊はそんな二人を見て「仲が良いなー」と嬉しくなり、愛おしくなり笑った。そうして両手の手元の仄かに温かいカップにゆっくりと視線を移し、溢さないようにハナトが寝るベッドの隣のベッドー先程まで自分とツキカゲがいたベッドにストンと座った。いつの間にか移動を終えたツキカゲが座っていたので、片手に持っていたカップを渡す。ツキカゲが「ありがとう」と笑う。その笑みが湊の好きなあの笑みで湊は照れ笑いをしつつカップの中身を飲み込んだ。仄かに甘い香りと味が口一杯に広がった。


湊達はハナトの話を聞く前に、小腹が空いたので飲み物を用意した。ハナトも起きたばかりでお腹が空いているであろうと云うことだった。飲み物の中身は紅茶もお茶もなく、何故かあったココアである。ハナトにとってはココアが好物であったようで先程、錯乱状態であったのが嘘のように微笑みを浮かべている。それにピィアレナが安心したように小さく笑っていたのは、案の定である。清光はハナトが気に入ったのか否や、彼の膝の上で丸くなっている。ハナトが話そうとするならば、自分達は聞こう。彼が「話したい」と云うのだからきっとなにかあるのだろう。


「……え、えっと」


ココアが入ったカップを両手で持ちながらハナトがつっかえつつも言おうとする。目の前に座るピィアレナが「慌てないで」と優しく笑う。


「ゆっくりで良いわ。あたし達は貴方が話すまでちゃんと待つから」

「そうだよ。ゆっくりで良いから」


ピィアレナの言葉にツキカゲが同意しながらココアを口にする。ココアをあまり飲んだ事がないのか、微妙な表情で飲んでいる。ハナトは自分が話し出すのを待つ湊達に申し訳なく思った。そう思う片手で埋めていた顔を上げた清光を撫でる。まるで「大丈夫」と言っているかのようにオッドアイを細めて清光がハナトを見上げている。実際にそう言っているのだが。助けてもらった、でもボクは…()()()()、だから…!ハナトはいまだ少し怯えが残る顔を上げ、ゆっくりと話し始めた。


「……知っていると、思い、ますが……ボクが持って…持っていた、カードは……封印の、ではありま、せん……勇者、の証である、タロットカード……です。ボクの、家に、代々伝わる…『魔術師』…つまり…勇者の、家系でも、あるんです…」


ハナトはそこまで一旦話すとココアを一気に飲み干した。湊はその話を聞き、チラリとサイドテーブルの上で静かに鎮座しているタロットカードを盗み見た。ハナトが勇者である、と言うのは湊達も考えていた事だった。というかほとんど確定だった。だが勇者の家系だったとは驚きだ。


異世界(此処)での、勇者(プレイヤーポジション)…かぁ。前回と似ているようで似てないね(ボソッ)」

「うん。でも、家系なんだね(ボソッ)」


湊とツキカゲが小声で会話する。そっくりな世界設定を持っている異世界なのだから、プレイヤーが家系として存在していたとしても可笑しくはない。つまり、ハナトは湊達が考えていた通り勇者で、魔神族はその勇者をさっさと抹殺しようとして彼を襲ったのだろう。どうやって分かったのかは分からないが。


「ほ、本当なら…勇者って…云うのを宣言して、戦わなくちゃ…いけない…でも、ボクは………」

「…嗚呼、だから勇者だと敵に知られて囲まれてしまったわけだね」

「…はい…魔神族は、封印と勇者のタロットカードの違いが……分かるみたい、です。だから…」


龍華がハナトをさりげなく、しゃべりやすいようにサポートする。声が震えている。それは昨晩の事を思い出したからか、それともは自身が抱える何かか。タロットカードの違いが魔神族に分かるのはなんとも良い話だが、襲うのを止めるわけはないのだろうきっと。やめてくれれば良いのに。と湊が問いかける。湊が話しかけてくれてハナトは自身を脅かす何かから解放されたようで、安心し頬を軽く綻ばせた。


「聞いても良いかな?」

「はい」

「ウィンって云うのは、もしかしてタロットカードの事?酒場で歌ってるの見たんだけど」

「……そう、です。ウィンは、『魔術師』の…タロットカード、で…それ、で…えっt『俺が説明する』…あ、ウィン…」


その時、またあの声が響いた。そしてサイドテーブルに置かれていたタロットカードが仄かに光を放つ。光はタロットカードの上で人の形を形作り、その姿を現す。トン、と軽やかな音と共にタロットカードの少し上に裸足の両の爪先を揃えて浮かぶ、昨晩の人物が現れた。その手にはやはり杖を持ち、ベッドに寝ているハナトや驚く湊達を見下ろし小さく面白そうに笑った。


「……やっぱり、酒場での歌姫よね?」

「声的には男だけど…?」


トン、と湊とツキカゲがいる反対側に飛び降りる人物に龍華とピィアレナがそんな疑問を漏らす。確かにその声は男性のもので昨晩聞いた歌姫の声とは高さが全然違う。しかし、容姿は同じである。人物はハナトを振り返り、彼が何も言わずに自分を見上げたままなのを良いことに説明を開始した。


『嗚呼、俺は男だ。この容姿のせいで女と勘違いされることは多々あるがな』

「何故酒場に?」


人物、男性がクスクスと妖艶に笑う。何処か女性染みた色気が溢れ出る笑いだ。男性はチラリとハナトを一瞥する。


『ハナトの性格を治そうと思ってな、体を借りていた。人前に出ることで改善させようとしたんだが…』

「ウィン、勝手に……つ、使わないで!」

『この通りだ』

「あー…そういうことね。だからあたし、違和感持ったのねぇ」


肩を竦める男性と怒った様子のハナトを見てピィアレナは納得し、息を吐いた。湊がどういう事?と彼女に問いかける。


「どういう事?ピィアレナ?」

「だからね、体を借りているだけでその意思は関係ないでしょ?それであたしは違和感を持ったのよ」

「……ん~?」

「生身の体にタロットカード(肉体のない光)、よ。合致していない肉体と魂の違和感を感じ取ったのよ」

「………ツキカゲぇぇ~」

「あら、湊ちゃんには難しかったかしらねぇ」


湊が納得が行かず、「う~ん?」と首を傾げる。それを見てツキカゲとピィアレナは苦笑した。つまり、ピィアレナはその違和感を感じ取った。勇者とその証であるタロットカードの違和感を。男性はハナトの体を使った。そのためか否や、姿は男性に似、湊達が見た歌姫となった。元々の器の主がハナトなのだから武器から姿を得たピィアレナにとっては違和感だったのだろう。龍華はどうか分からないが。湊はとりあえずで納得して顔を上げた。そして、目を見開いた。


「ボクは……弱い、から……勇者は、彼らに……譲りたい…」

「『はぁ?!』」


ハナトの突然の発言に湊と男性の声が重なった。男性も湊達も、彼の膝の上で丸くなっていた清光も勢いよくハナトを振り返った。


『貴様…自分の使命を投げ出す気か?!』


男性がハナトを睨み付ける。が、ハナトはキッと睨み返す。昨晩、震えていた彼ではないような気がした。あくまで気がした、なのでよく見ればその肩は小刻みに震えている。


「…ボク、よりも…彼らの、方が…強い…弱いボクよりも…何倍、も良い…」

『だからって…!勇者と云うのは貴様だ。その事実をねじ曲げるな。それにタロットカードh「うるさい!」っっ!?』


何が起きている?目の前で繰り広げられている状況に頭が追い付かない。だが、ツキカゲと龍華は辛うじて分かっていた。なにが引き金になったのかは分からないが恐らく、


「「(感情が爆発してる…)」」

「人間じゃない、ウィンにはわからないだろうけど…強くもないボクは、誰の役にも立てないんだから…代わってしまっても、良いでしょ?」

『違う』


違う、と答えた男性をハナトは自嘲気味に見上げる。何故、自分は弱いと決めつける?


「なにが、違うの?ボクは、弱い。事実でしょ…なら、ちゃんとした、強い者に譲った方が…良い」

『(違う、やめて)』

「選んだわけじゃない…自分は、弱いんだよ。なにも、できない」

『(違う、やめて)』

「ウィンは、なんでも、できるでしょ?なにも、できないボクと…違って!ボクの事、なんにも知らないくせにっ!アナタなんか、アナタ()()()()()いなければ良かった!そうすれば、ボクは…!」

『(やめろ!)』


その空間に響いたその悲痛な声は()()()()()()()()()()()()()()。それは、()()()()()()()()()()()()、苦痛の声だった。


「に"ゃんな!!みゃん!!」

「っっ!」


清光が抗議の声を声高に上げた。それにハナトはハッと我に返ったようだった。ボクは一体、何を言った?気づいた時には、もう遅い。恐る恐る男性を見上げると彼の顔には悲しさが滲んでいた。


「…あ…ウィン…」

『それが、貴様の本音か』

「う、ウィン…あのね…ボク、本気で…」

『外の空気でも吸ってくる。気づいていたのにな……貴様の、守り(タロットカード)だからとたかを括っていたのが悪いのかもな』


男性はそう告げて、後方を振り返った。そこには開け放たれた窓があった。男性はその窓にフラッと近づくと窓枠を乗り越え、飛び降りた。ピィアレナが慌てて立ち上がり、窓から身を乗り出して男性を探した。男性は空中をフラフラと朦朧とした様子で浮遊していた。行き先は恐らく昨晩の丘だ。ピィアレナがホッと胸を撫で下ろし、部屋を振り返る。と同時だった。カァン!と勢いよくカップをサイドテーブルに湊が置くと立ち上がった。


「ピィアレナ!行くよ!」

「え、あ、ええ!」


驚くピィアレナ。それはツキカゲと龍華も同じで、ハナトの膝の上で丸くなっていた清光に至っては足元にまで飛び退いている。湊はハナトをまるで睨み付けるように見つめ、云う。


「私には、君達の事情に首を突っ込む権利なんてないだろうけど、けど!一つだけ言わせて。あの人だって、()()で、君の事を思ってるんだよ!」

「っっ!分かってる……でも…」


ハナトが俯く。分かってる…分かってるよ。でも、殻に籠るほどに弱いのは…()()()()()()()()()()()……!


「ピィアレナ!ウィンを追うよ!」


湊が部屋から駆け出して行く。ピィアレナは少し混乱した表情をハナトに向けた後、「よろしくね」と龍華に目配せをし、彼女のあとを追って走って行った。


ブックマークが増えてて嬉しくて二度見し、飛び上がりそうになったのはこいつです←

てことで!ありがとうございます!励みに頑張ります!ということで投稿ー

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