第七十一ゲーム・起床する真実
そうこうして、気絶してしまった少年を介抱し、自分達の怪我も治療しで夜が明けた。昨晩は色々あり、みんながみんな昼近くまで爆睡だったが、案の定当事者である少年だけはいまだに目覚めていなかった。悲鳴を上げてもいたし、震えていたりもしたので湊達よりも疲れているのだろう。それに自分達が来るまで魔神族から逃げ回っていたのだろうし。大きな怪我がないだけ、両者にとっては良いことだった。
「ねぇ、昨日のこれってさぁ」
「分かってるけど、ね?今はその子が起きるのを待ちましょう?」
少年が寝かされたベッドの脇に置かれたサイドテーブルの上から彼の所持品であり、昨晩の驚愕の原因の一つであるタロットカードを湊は持ち上げた。そして、昨晩は疲れてじっくりと見れなかったため、裏返したり上から見たり下から見たりと観察を始める。昨晩のように透けたりはしておらず、細かい絵が描かれているだけである。そんな彼女を嗜めつつ、ソファーに座ったピィアレナが自分の膝の上から身を乗り出す清光をこちらも「メッ」と嗜めた。テーブルの上には花瓶があり、清光は気になったようだが、怒られていた。実はと言うと湊が移動後、起きる数時間前に清光が花瓶に飛び付き、水を溢してしまうという事件を起こしたのだ。そのため、ピィアレナに怒られた次第だ。清光は不機嫌そうに尻尾を揺らし、彼女の膝の上から飛び降りた。「あら」と残念そうなピィアレナの声が響く。清光が湊の方へやってくるのを横目に湊はタロットカードをサイドテーブルに置いた。
「勇者かぁ……やっぱり前回同様、ってことかな?」
隣に座っていたツキカゲが湊に言う。ちなみに湊とツキカゲは少年が寝ているベッドの隣のベッドに腰かけている。龍華はピィアレナと入れ違いでバスルームに入って行ったところだ。湊は「うーん」と背伸びをしながらツキカゲの問いに答える。
「どうだろ…前は悪魔の幻でプレイヤーを見ていたってだけだったし……っていうか、勇者情報ある時点でわかってたことだよね?」
「まぁね。でも、用心に越した事はないでしょ?魔神族が敵である勇者を狙う。その勇者の証であるタロットカードを持っていた当の本人は爆睡。暫く待つしかないよ」
「にゃあ」
「ほら、清光も言ってるし」
タイミング良く清光が湊の膝上に乗った。そうしていつものようにぐるぐると回ってポフン、と座った。満足そうにゴロゴロと喉を鳴らしている。湊はそんな清光の頭を撫で、少年の安らかな寝顔を覗き見た。やはり、そっくりな世界設定を持っているだけに色々違う。少年が起きるまで真相は闇の中だなーと思いながら湊は後方に仰け反った。ちょっどバスルームから出てきた龍華と目が合った。
「龍華~清光も湊ちゃんが大好きみたいよ~」
「ピィアレナ、もってなにもって!!」
「いや、清光の場合は命の恩人で敬愛とかそっちだから。だろ清光?」
ピィアレナが文句を言うように頬を可愛らしく膨らませて龍華に言うと湊が叫ぶ。龍華がピィアレナの言葉にそう自身の分析を伝えると清光は「そうだ」と言わんばかりに鳴いた。気づいていないかもしれないが、龍華は気づいていた。ツキカゲのある視線に。もちろん、龍華とピィアレナに視線を向けていた湊は気づいていない。清光の発言にピィアレナは「今度はあたしにもゆっくり撫でさせてね」と清光を見て言う。清光は嬉しそうに鳴き、ピィアレナもまるで乙女のように嬉しそうに笑った。自分がツキカゲが大好きであることをからかわれたことに湊は気づいていたがまぁ、大好きなキャラクターの新しい一面が見れたので良しとしよう。龍華がピィアレナの隣に座ろうと動き出した、その時だった。龍華が声を上げた。
「あ」
「え?どうしたn…あ」
「……うぅん…?」
その声にピィアレナが反応し、その方向を見て腰を上げかけ、湊とツキカゲもその方向を見ようとして目を見開いた。少年の意識が戻ったのだ。少年はベッドから身を乗り出し、見慣れない部屋に視線を向け、湊達一人一人を見てそして、暴れ出した。
「え……えええええ此処どこ、どうなってぇええ!?ええ!?」
「お、落ち着いて!!??」
驚愕であろうが少年が痙攣したりと足をばたつかせたりと大急ぎで暴れる。湊とツキカゲが慌てて止めに入るが混乱状態が錯乱状態を引き起こしたのか、状況は改善しない。湊のもとにピィアレナもやって来て二人して「落ち着いて!」「大丈夫だから深呼吸しましょう?」となんとか落ち着かせようとしている。その間にツキカゲはこの騒動を止めようと何かないかと辺りを見渡していた。少年が持っていたタロットカード?多分、状況が悪化する。そこでツキカゲと同じように考えていた龍華の目にぐるぐるとベッドの上で回る清光が目に止まった。
「!ツキカゲ!清光!」
「あ、そっか、マスターの癒し要員!清光おいで!」
「にゃうん!?」
いましたこの状況を脱する良い案が!龍華の指示でツキカゲはベッドの上で回っていた清光を奪うように抱き締めると暴れる少年のベッドへと下ろした。その行動で自分が何をすれば良いのか清光もわかったらしく、暴れる少年の膝元に飛び乗った。
「?!」
四方八方に動かされていた少年の腕が微かに清光の毛並みに当たった。その事により、少し落ち着きを取り戻したようだ。それに気づいた湊とピィアレナが胸を撫で下ろす。
「その子、清光って云うの。撫でてあげて」
「…え、あの……!あの!」
撫でて撫でてと毛並みを擦りつけてくる仮猫の存在に少年の混乱状態が落ち着いてきたようだ。そのお陰か、自分を恐らく助けてくれたであろう湊達に申し訳なさそうな表情を向ける。だが、湊もピィアレナも大丈夫と笑っていた。ピィアレナに至ってはまたあの母親のような雰囲気と笑みを浮かべている。
「しょうがないよね。魔神族に襲われてたかと思ったら知らない人ばっかだし。あ、私、湊。こっちがピィアレナ。あっちのいるのがツキカゲと龍華。昨日「あ、はい……助けてくれた…人達…で、です……よね?」そう!覚えてたんだ!」
湊が一人一人を指し示して名前を告げる。暗くても誰が自分を助けてくれたのかはわかっていた少年。少年はあの時とは違い小さな清光とピィアレナを見て、湊達も見て、「…あ、ありがとう、ございました…」と頭を下げた。そうして頭を上げ、視界にサイドテーブルに置かれたタロットカードが入り…気づいた。少年は冷や汗を垂らしながら湊達を振り返った。
「……あ、あの…み、見ました…?…ウィン、も…?」
「んーウィンって云うのが誰だか分からないけれど、タロットカードの事だよね。うん、見たよ。それにタロットカードってことは、勇者の証である可能性もある。魔神族に襲われていたのならばなおさら」
少年の問いに湊が自分達の考えを告げる。魔神族が封印のためのタロットカードを持つ人物を狙うという可能性もあったが、邪神にとっても魔神族にとっても脅威なのはタロットカードではなく勇者だ。封印のタロットカードは何枚あるかはぐ不明だが、勇者は容易く見つけられる。タロットカードを持つ人材を探せば良いだけなのだから。
湊がそう言うと少年は少し迷ったように視線をさ迷わせ、決心したようで顔を上げた。
「……聞いてもらっても……い、良いです、か……?」
湊は近くにいたピィアレナ、清光、そしてツキカゲと龍華に視線を送る。聞きたかった事実だ。湊の視線に全員が「任せる」と云うような意味を返す。湊は真剣な表情で頷き返すと少年を振り返った。
「君がそう判断したなら、ね」
「…あ、ありがとうございます……ボクは、ハナト……アナタたちが思っている、通り…勇者、です……」
少年、ハナトはそう弱々しく答えた。ハナトはアイリス色のショートで襟足の髪が少し長め、瞳も同じくアイリス色。夜の闇に溶け込んでしまいそうな黒いロングコートにVネックになった長袖シャツ。Vネックのところにはサファイアがネックレスのようについている。右の脇の下辺りの服がなく、その下に着ているであろう黒が見える。ベルトに黄土色の半ズボン。茶色の線が縦に一線、横に一線刻まれている。黒のニーハイソックスに黄土色のくるぶしまでの少し短いブーツ。
ちなみにベッドに寝ているのでコートとブーツは脱いでいる。
ハナトの瞳には、弱々しいながらも何かが宿っていた。それは、
気づいたらもう三月……早いですねぇ
次回は木曜日です!




