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ただいま異世界巡回中!  作者: Riviy
四周目 ある人達の話
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第七十ゲーム・標的は、何処に?



確か、あたしのこめかみ辺りには少年(あの子)がいて…正確に云えば、少年(あの子)が持つカードと同じ高さで刃物は振り回された。もしかして、狙いは少年(あの子)とカード…龍華とツキカゲの情報と湊ちゃんが言っていた知識通りに考えるならば、勇者の証でもあるタロットカード?ってことは、まさか!?


そこまで考えた次の瞬間だった。真実を求めて少年を振り返った瞬間、彼が突然座り込んだのだ。ただ単に恐怖で腰を抜かした、と云うわけではなく突然意識を失ったと云う方がしっくり来るほどに勢いよく座り込んでしまったのだ。しかし、ピィアレナは違うと感じていた。歌姫の少女に感じた()()()を座り込んだ少年から感じ、ピィアレナは驚愕した。と今度は、まるで糸が切れたように少年の首がカクンと垂れた。かと思えば、少年が光に包まれ始める。いや、正確に云えば彼が大事そうに持っていたタロットカードから淡くも優しい光が放たれ、少年を包み込んでいるのだ。背後で突然、光が出現した事に魔神族と対峙していた清光が「何事!?」と尻尾を振り、魔神族も苦々しげな表情をしている。その間にも光は少年を包み込み、その傍らにまるで天女の如く柔らかく舞い降りる。光が晴れ、トンッ…と軽めな音が響く。そしてそこに現れたのは


「!?…貴方、さっきの?」


酒場で歌を披露していた歌姫だった。その手には自分の身丈を越える杖を持ち、歌を披露していた時とは違った凛々しい表情をしている。はっきりとーはっきり、と云えるのかは謎だ。少し体が透明な感じもするからー見たその姿は歌姫であって歌姫(少女)ではなかった。その手に杖の先には少し大きめの地球儀が浮いており、その回りを一回り大きい金と銀のリングが交差して浮かんでいる。金のリングの表面には十二星座が刻まれ、銀のリングの表面には属性六つを表すのだろう模様が刻まれている。ピィアレナはレイピアを握り締め、突然現れたその人物に警戒で睨み付ける。彼女の睨みに怯える事も驚く事もなく、人物はピィアレナを一瞥すると半分以下に減った魔神族達に目を向けた。一番最初に人物の目に入ったのは清光がいままに飛びかからんとしていた魔神族だった。人物はニヤリと笑い、杖の先を魔神族に向けた。


ファイアー


ゴォ!と凄まじい音と熱さを発しながら杖の先から放たれた炎が魔神族を一瞬にして包み込み、灰と化した。清光が「にゃん!?」と驚いた様子で後方を振り返る。音に気がついた湊も敵に短剣をぶん投げると清光とピィアレナ、少年がいる方を振り返り、目を丸くした。


「!?どうなってんの?!人増えた!?」

「湊ちゃん、集中!それにしても貴方…」

『………』


静かに少年に駆け寄り、助け起こしたピィアレナが人物を見上げると人物は再び笑った。そして魔神族と戦っている湊やツキカゲ、龍華の方へとその身を投げ出した。それからは早かった。なんで自分達は戦ってたんだと思いたくなるほど一瞬だった。つまり、人物の魔法によって一瞬にして魔神族の大半が灰と化し、炭と化し、全滅してしまったのだ。湊達が減らしていた事も影響していたのだろうが、それにしても早かった。突然現れた人物に警戒を示さないわけがなかった。戦闘終了後すぐに飛び出して行った湊の手首を掴み、引っ張ると背に庇いツキカゲがトン、と杖の先を地面に軽く突く人物を見る。湊はツキカゲに「大丈夫だよ」と声をかけようとして、先程は戦闘中でじっくりとは見なかったが、人物を何処かで見たことがあるような感じがして首を傾げていた。がやっぱり分からない。気のせいだろう。トラウマが多いし。そう思っているとツキカゲが人物に刀の切っ先を向けつつ問った。


「君、誰?何処から来たの?」

『……………』

「答える気はなし、か…」


相手の無言に警戒の色を強くするツキカゲ。龍華がピィアレナと清光のもとに人物から目を離さずに移動し、大丈夫かと問おうとして彼女達の困惑した様子に気づいた。どうしたら良いのかと視線をさ迷わせていたピィアレナの視線と湊の視線が合った。あ。そうか。そういうことか。そう思ったのは、気づいたのは誰だっただろうか。ピィアレナは吐き出すかの如く叫んだ。


「その人、少年(この子)が持ってたタロットカードから出てきたのよ!」

「はぁ!?って、え、ってことは…」

「いや、待って待って!って事は……え?」

「……嘘だろ?」

「いえ、本当よ。あたし、見たもの!」

「なん!なぁあ!」


衝撃的な事実に驚愕が湊達に走った。通りで増えたように見えたわけだ!湊が納得の様子で何度も頷く。ピィアレナが抱える少年と人物を交互に見やる。あれ?というかこの人、酒場の歌姫?あれ?雰囲気は一緒だけど…明らかに違うよな?!困惑する彼らを人物は心底可笑しそうに眺めていると少年を振り返った。その視線の先を辿って行くとそこには少年が握り締めていたタロットカードがあった。タロットカードは何故か、先程見た時よりも色が薄くなっており、向こう側が見えるまでに透明になっている。ピィアレナが人物の視線を受け、警戒心を切らさずにそのタロットカードを少年の手からゆっくりと抜き取った。少年とタロットカードに向けられた視線は何処かしら龍華とピィアレナにも分かるくらいに愛おしさが滲んでいた。タロットカードは透明であるにも関わらず、しっかりと手に持つことが出来、少なからず重みがある。ペラッとタロットカードを表に返すとそこには「魔術師」と云う文字があった。


「………魔術師…?」

『じゃあ、あとは頼んだ』

「え…?」


今まで黙っていた人物の口から低くも何処か儚げで、透き通った、そして霧のように朧気な声が響いた。その言葉は誰に言われたのか、分からないはずがなかった。低い声は歌姫の声そのもので、明らかにその姿は違った。人物は言葉の意味をはかろうとする湊達を見渡すと、笑った。すると人物が再び光に包まれ始め、ピィアレナが持つタロットカードも共鳴して光を放つ。


「!?きゃっ!?」

「ピィアレナ?!」


ピィアレナが光に驚きタロットカードを落としそうになる。がそれを清光が尻尾で間一髪で、上手い具合にキャッチする。キャッチしたにはしたのだが、清光も清光でタロットカードならぬ光とまさかの熱に落としてしまった。タロットカードから熱が発生するなんてあり得ないのだが。いや、すでにこの異世界の世界設定からあり得ないのだろう、元がゲームのようだし。落下していくタロットカード。普通ならばそのまま地面に直撃するはずなのだが、タロットカードは光でなのか、風でなのか勝手に空中で浮遊したのだ。まさかの事態に驚く湊達の目の前で人物が光と化し、タロットカードへと吸い込まれていく。そして光が全てタロットカードに吸収されると、タロットカードは今度こそ静かに地面に倒れ落ちた。シーン、と静まり返った空間に夜風が吹く。龍華がゆっくりと落ちたタロットカードに近づくと指先で突っついた。なにも変化がないことを確認し、タロットカードを摘まみ上げる。龍華の手元には少年が持っていた、ピィアレナが暫しの間手にしていたタロットカードが先程の光景も人物も嘘の事のように鎮座していた。


「………ゲームの、タロットカード」

「………つまりは、勇者ポジ?」


湊が思い出したは良いものの、どうしたら分からずそう呟く。湊の記憶が正しければ、龍華が今持つタロットカードはゲームに出てくる一枚ー擬人化?というか人になっている時点で枚で良いのか分からないがーだ。湊はそこまでは行っていなかったが、一覧表にて見た記憶があった。湊の呟きにツキカゲが茫然とした様子で振り返る。この異世界での情報を踏まえるとあの少年は……


「とりあえず、帰りましょうか」

「そうだね。その子、何故か分からないが気絶してしまっているし。放置と云うのは無責任だしね」


少年を抱き抱えたピィアレナから龍華が彼を受け取り、背負う。思っていたよりも軽くて少し驚いたのは内緒だ。清光が大きい姿のまま「手伝う?手伝う?」と龍華とピィアレナの周りをぐるぐる回る。ぐるぐると回っている清光を龍華が「あっちも」と顎で示すと、清光は茫然としていた湊とツキカゲに気付き、そちらに駆け寄った。


「なぁん」


ハッ、と清光の声で我に返った。というか、二人共、なんでそんな冷静なの?!清光もか!湊がそう心中で叫ぶ。夜と云う事と驚愕と茫然で大声を出す気にもなれない。とりあえず、


「……状況整理も兼ねて帰ろっか、マスター」

「うん…そうだねツキカゲ」


宿屋に帰還。


二月がもう終わるじゃないですか!

次回は来週です!

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