第六十九ゲーム・その明かり、何処へ
ツキカゲは魔法を放つ魔神族二体の懐に一踏みで迫ると刀を突き上げた。顎を狙われている、そう直感で理解したのか魔神族は後方に片足を一歩引き攻撃をかわしつつ、ツキカゲに向かって炎の球体を放った。後方に仰け反り、そのまま後転し片足をつき、跳躍。魔法を放った敵の腹に抱きつくようにして刀で攻撃する。敵が近距離でツキカゲに魔法を放つ可能性も、味方を犠牲にしてでも攻撃する可能性もあった。ツキカゲの視界の隅にもう一体の魔神族が映り込む。ニヤニヤと笑いながら、魔法を放った。雷がツキカゲと魔神族に一直線に迫る。ツキカゲは刀を容赦なく抜き放つと素早く回し蹴りを放ち、吹っ飛ばす。と雷を放った魔神族に体勢を低くして跳躍した。立て続けに放たれる幾つもの雷を器用に右へ左へとかわすが特別大きな雷がツキカゲに襲いかかった。敵はツキカゲを中心に回転しながら逃げているため、彼は敵に一向に近づけない。そんなツキカゲの横を大きな雷が通り過ぎた。方向を誤ったようで敵は大きく舌打ちをしていたが、鼓膜を震わす大きな音と頬に走る痛みにツキカゲの足は僅かだが止まってしまっていた。ドガン!と背後の木に雷が当たり、真っ二つに裂いた。その末路をゆっくりと視線だけで振り返り、確認するとツキカゲは、笑った。ゾワリ、敵を凄まじい殺気が襲う。
「さあ、行くよ?」
スイ、と頬に走った紅い一線を親指で拭うとツキカゲは相手が再び魔法を放つよりも早く、跳躍した。魔法を放とうとした魔神族だったがすでにツキカゲはそこにはいない。瞬きをした瞬間、彼はすでに敵の懐を切り裂き、脇腹、そして足を切り裂いていた。体勢を崩しながらもツキカゲに向かって魔法を放つ魔神族。がその魔法は意図も簡単に刀によって一刀両断されてしまう。体勢を崩したが残った片足で体勢を立て直した魔神族が慌ててツキカゲを視界に納めようとするが、全てが遅い。ツキカゲは目にも止まらぬ速さで敵の背後に滑り込み、刀を右上から振り切った。途端に前のめりに倒れていく魔神族にトドメと云うように一突きしておく。そうしてまた集まってきた敵を一瞥した。
「今は、僕の独壇場。さあ、最初にこの刃の餌食になりたいのは誰?」
一斉に襲いかかって来た魔神族に向けてそう放つと敵は一瞬にして見るも無惨な姿となり果てた。正確に云えば、ツキカゲが刀を横に一振りさせただけで、振り切った風圧が鋭い刃となって魔神族を木っ端微塵にしたのだ。これも正確と云えば正確だが、外から見ての正確である。つまり、ツキカゲが何をしたかと云うと凄まじいほどの、見えないほどのスピードで魔神族を斬りつけたのである。しかも、一踏みで大きく跳躍してである。多くいた敵の大半の消滅を見てツキカゲは「久しぶりだったけど、上手くいったなぁ」と嬉しそうに小さく笑っていた。
上段から重い一撃が龍華に向けて振り下ろされた。彼は脇差を横にしてその一撃を防ぐ。が、防御面積が小さ過ぎた。上段から振り下ろされた一撃は風圧をも巻き起こし、龍華に襲いかかった。足に籠めていた力では到底敵わない。龍華は風圧に吹き飛ばされるふりをして左へ転がり出る。とそれをも待っていたとでも云うのか、地面に受け身を取って転がった龍華に向かって刃物が突き刺された。突然の事に回避できず、諸に当たってしまったが、冷静に立ち上がる。左肩を負傷、しかし傷は浅い。横から振られた先程の刃の気配に気付き、龍華は頭上へ跳躍。そしてその刃の上に上手い具合に着地する。魔神族はすぐさま龍華を振り落とそうと刃を振り回し始める……が、それよりも早くその刃の上を滑るように走り始めた。もう一体の魔神族が動くよりも早く、刃を持つ魔神族に辿り着くと刃の上から大きく跳躍し、お返しだとばかりに頭上から脇差を突き刺した。かわされてしまったが、運良くか悪くか脇差は魔神族の肩を貫通し、龍華はそのまま着地したため肩から半分が真っ二つとなった。まるで地響きのような悲鳴を耳元で聞きながら龍華は回し蹴りを放ち、木に叩きつける。
「次は、誰だい?」
まるでおちょくるような龍華の言い方に頭に血がのぼったのか、もう一体の魔神族と何処からともなく現れた別の魔神族が龍華に突撃してきた。龍華はまるで体当たりのような攻撃をひらりとかわすと次に振り回された、自分と同じような武器を脇差で防いだ。切っ先が龍華の目を狙っていたらしく、間一髪だった。武器を弾き、足を振り上げる。しかしそれはかわされ、先程の魔神族が武器を突き刺した。脇差で軌道を逸らすと、後方から振り下ろされようとしている気配に気づいた。バッと武器を振り回して弾き返し、体勢を低くした。途端、標的がいなくなった事で後方から龍華を狙っていた敵が前のめりになった。そこを突く。龍華は脇差を垂直にすると前のめりになった敵に容赦なく突き刺した。逃げようとする敵の肩を掴み、強引に追撃を与える。痛みにもがきながら龍華に攻撃をしようとする魔神族。だが、龍華は脇差を突き刺したまま一旦離れると、首と手首を的確に狙い回し蹴りを放った。ボキッだがバキッという不気味な音が響き、魔神族は絶命した。その背後からもう一体の敵が武器を振り回す。倒れ行く敵から脇差を抜き放ち、軌道をそのままに敵に振り回した。刃物同士が微かに触れ合い、掠めて行った。そのまま龍華に振り切られる攻撃を首を傾げる要領でかわし、自らも脇差を振った。その矛先は敵の右肩を切り落とした。持ち手は右手だったために同時に武器も地面に落ちた。龍華はその隙を見逃さず、懐に潜り込み顎に拳を突き上げるかのように脇差を振った。顔が削がれ、後方に倒れて行く敵。それを暫し眺めていると別の気配に気がついた。敵は減っている。嗚呼、それでも。龍華はその別の気配に向かって体の右側を覆う呪いを振り返り様に放った。
「殺るって云うなら、これも使わせてもらおうかな?ふふっ」
その笑みは何処か妖艶で、不気味だったとのちの誰かは語った。
ピィアレナは清光の上から飛び降りると、少年に向かって刃物を振り下ろしかけている魔神族にレイピアを突き刺した。少年は怯えた様子で両腕で顔を覆っていた。敵は一体だけのようでピィアレナの攻撃を煩わしそうに片手で払う。がピィアレナもそんな簡単にやられるわけにはいかない。足を狙い、再びレイピアを突き刺すと敵も「舐めるな!」とでも云うように刃物を振った。が、ピィアレナが態勢を低くし、お返しと言わんばかりにレイピアを振った。それと同時に清光が大きく跳躍し、襲いかかった。清光の鋭い爪と牙によって敵の体力は一気に奪われて行く。
「清光!お願いね!」
「なうん!」
ピィアレナは敵を清光に頼み、少年のもとへと駆け寄った。一応、残党がいないとも限らないので警戒は欠かさない。少年はピィアレナを見ると少し安心した様子を見せた。が恐怖はそう簡単に収まるはずもなく、ぶるぶると痙攣していた。そんな少年を見てピィアレナは歌姫の少女を思い出した。そうして、あの違和感。ピィアレナは頭を振って雑念を追い払った。
「貴方、大丈夫?怪我はない?」
「……た、助けて……くれ、くれて…ありがと…ございます…」
「良いのよ。見て見ぬふりできないもの。それよりも大丈夫ね?」
「…は…はい…」
震える声で少年はピィアレナの問いに答えた。ピィアレナは少年に怪我はない事を目視で再確認し、ホッと胸を撫で下ろした。背後では戦闘の音がいまだに響いている。清光はどうなっただろうか、腰を軽く上げて振り返ろうとした彼女の目に恐怖で怯える少年が両手に持つカードが入った。カードの存在に湊が教えてくれたタロットカードを思い出した。もしかすると…いや、考え過ぎか。そう思った、次の瞬間だった。
「!にゃあぁな!」
「!?清光!?」
清光の声にピィアレナが慌てて振り返ると残党の魔神族がピィアレナと少年に向かって刃物を振り下ろそうとしていた。いつの間に!?清光が敵を倒し、こちらに向かって来るが、少し距離があり間に合わない可能性は高い。ピィアレナは少年を背に庇い、レイピアを構えた。途端、魔神族は刃物を振り下ろすではなくなにかを狙って振り回した。動きが素早い、嗚呼ダメ、防げない!ピィアレナはそう素早く判断すると少年を振り返った。その瞬間、ピィアレナのこめかみに痛みが走った。攻撃されたらしい。痛みを堪えたまま少年を庇い、彼と共に横へ倒れる。
「…!大丈夫!?…ですか!?」
「イッタァ…」
少年の無事を確認しながら起き上がるピィアレナ。痛みが走るこめかみを触るとヌルッとしたものが手に触れた。血だろう。攻撃してきた魔神族とピィアレナと少年の間に清光が軽く土煙をあげながら滑り込んでくる。心配そうにオッドアイを歪める清光にピィアレナは「大丈夫よ」と笑いかける。そうしてレイピアを再び握りしめた。ピィアレナは魔神族が何を狙っていたのか脳の片隅で思考した。そして、その存在に気付き、大きく目を見開いた。が、驚いた瞬間、再びピィアレナは目を疑った。
次回は木曜日です!




