第六十四ゲーム・雨夜
暗い空間。四方八方真っ黒で、まるであそこみたいだと思った。神様に連れて来られた、あの空間だ。けれど、此処はあそことは違う。顔を上げると少し先に立つ、ある人物がいた。此処からでもすぐに分かる。ツキカゲだ。嬉しくて、彼に向かって走り出した。そうして、何かが違うことに気づいた。こちらを振り返ったツキカゲの髪の色が違っていたからだ。ついでに云えば、瞳も、髪型も違っていた。髪型に関しては少しだけの変化だったけれども。そして、何処か儚げな、ツキカゲにはない雰囲気が滲み出ていた。なんて言ったら良いのか、わからないけれどそう感じた。足が思わず止まった。何故ってツキカゲが、こちらを向いて悲しそうな、何処か嬉しそうな複雑な表情をしていたから。
「(嗚呼、これは)」
きっと夢だ。どこかでそう感じていた。するとツキカゲはこちらに向かって何かを言った。けれど、まるで彼の声だけにノイズが走っているかのように声が聞こえない。耳が可笑しくなった、声が可笑しくなった。どちらが正解かなんて、この空間では分からないでしょう?儚げに笑いかけてくる彼の言葉が聞き取れない。彼は、寂しくも優しい笑顔を浮かべた。まだ距離がある。いや、もう距離はない。その笑顔に手を伸ばした。でも、届かない。嗚呼、なんで?ねぇ、何を言っているの?何を伝えたいの?ねぇ、
「教えてよ…!」
そこで、目が覚めた。
…*…
ペロペロと顔を舐められている感触がある。湊はそれで誰が自分の顔付近にいるのか、容易く理解出来た。顔付近にあるであろうふわふわとした毛並みを抱き上げながら、勢いよく起き上がった。
「清光!顔の上に乗っちゃダメって言ったでしょ!?」
「なうん。みゃー!」
「乗ってない、舐めただけ」と主張し、前足を動かす清光。湊はしょうがないなと苦笑しながら清光を抱き締めた。と、片手に冷たい感触を感じた。なんだと清光を抱き締めながら左手を広げるとメアから貰った一応の清光の薬がちょこんと鎮座していた。…と、云うことは
「移動しましたかぁ~」
「にゃー」
清光がそうだよと鳴く。メアから貰った薬を懐の小さな袋にしまいながら湊は辺りを見渡した。転移させられたは良いが此処が何処なのか検討もつかない。まぁ、宿屋と云うことは分かるが。外は暗くなっており、他の建物の明かりが見える。ぐるんと部屋を一周して確認する。と、ソファーが置かれた壁際に見慣れた物を見つけた。
「(……マジかぁああああ!!!)」
湊は心の中で絶叫した。見慣れた物とはただ単にポスターなのだが、明らかにあるゲームのものである。しかも湊の記憶が正しければ、そのポスターからゲームが割り出せる。が、湊にとってそのゲームはある意味、トラウマものである。ストーリーが。いや、他は好きだけどさぁ!そう一人、心の中で叫びながら清光を抱き締めていると物音がした。その方向へ視線をずらすと備え付けのキッチンから出てきたであろうピィアレナと目が合った。ピィアレナは起き上がり元気な湊を見ると心底安心した様子だった。
「湊ちゃん!」
「ピィアレナ!おはよう!」
湊が笑顔でピィアレナに片手を上げながら挨拶をすると彼女はトトト、と湊に駆け寄り、優しく湊の頭を撫でた。その優しさは本当に母親のようで、湊が何処かで本当に母親役になってたんじゃないかと疑うほどだった。
「良かったわ。全員着いたのに湊ちゃんだけ起きなくて心配してたの」
「え、マジで?私、どのくらい寝てたの?」
「ん~半日くらいかしらね。此処に着いたのがお昼頃、だったからずっとよ」
「あちゃー…ごめんね、長い…うんん、長くも短い夢を見てたから、かな…」
ピィアレナの不安を拭い去りながら、湊の声は小さくなっていった。あの夢を思い出したのだ。そして自らの腕の中でゴロゴロと喉を鳴らす清光を見る。悪魔から引き離し、風が起きた際に見えた幻。ツキカゲが清光に重なって見えた。いや、逆なのか。夢も気になり、湊は深い思考に陥る。それを心配そうにピィアレナと清光が見上げていた。視線で気付き、湊は笑う。
「夢?大丈夫?」
「みゃあ?」
「大丈夫だよ~ちょっと考え込んじゃっただけ!と言うよりもこの異世界が私の苦手な分類じゃないことを祈りたい…」
ブルブルとトラウマが甦り、思わず体が震える。清光と一緒に体を抱き締めれば、ピィアレナが不安そうに湊の顔を覗き込んだ。
「あら…湊ちゃん大丈夫なの?」
「うんー…そこまでそっくりだったら私は神様を殴る」
「にゃん!みゃ!」
「清光もやってくれるかー!!ありがとー!」
はいはい!と前足を上げる清光をギュッと抱き締める。清光が「にゃにゃ!」と嬉しそうに楽しそうに声を上げる。そんな彼らを見てピィアレナが微笑ましげに笑った。
「安心して、その場合はあたし達が守るから」
「ふふ、私もピィアレナ達を守るよ!」
「あら、頼もしいわ!」
「えーい」とピィアレナも湊に抱きつく。二人と一匹の周りに花が舞う。そこで湊はツキカゲと龍華の声が聞こえない事に気がついた。いつもなら清光とピィアレナがこんな風にじゃれているとちょっかいをかけるように何か言ってくるのに。何処に行ったの?とピィアレナの腕の中から部屋を見渡すが居らず、一瞬にして不安が湊を覆う。清光がそれに気付き、大丈夫とその毛並みを湊の頬に擦り付け、尻尾でピィアレナに促す。
「ん?なぁに清光…嗚呼、龍華とツキカゲは此処、宿屋に隣接してるお店にいるわよ。湊ちゃんが起きるまで情報収集してたの。安心なさい」
見破られてる。湊は少し不貞腐れながら、安心して笑った。ピィアレナが湊から離れ、清光も彼女の腕の中から退去したちょうどその時、ぐぅうううと誰かさんのお腹が大きな声を上げた。その音が聞こえてきたのは湊で、彼女はお腹の音に吹っ切れたのか少し恥ずかしそうに頬を染めながら叫ぶ。
「お腹が!減りました!」
「まぁずっと寝てたものねぇ。じゃあ、二人のところに行きましょ。合流して情報交換もしましょう。準備してくるから待っててね」
「了解です!」
「にゃ!」
「良い返事♪」
ピッと敬礼をする湊をピィアレナは微笑ましげに見つめると準備をしに行ってしまった。湊はゆっくりと起き上がり、「うーん」と背伸びをする。寝ていたせいか、背骨がボキボキ鳴った気がする。思わず背中に手を当てて「イタタ」と痛くもないのにそう言ってしまう。腰に短剣があることも確認して湊は壁に貼られたポスターに近づき、再確認するように凝視した。
「んー…これってやっぱりさぁ」
何処か夢であって欲しかった…!と頭を抱える。ポスターには何枚ものカードが描かれ、細かな装飾までされている。まぁ、帰るためにはやるっきゃないか!湊はうんと楽観的に考え頷きながら、ぐるぐると回る。今はお腹の具合が優先である。するとちょうどピィアレナが準備を終えて帰って来た。ベッドの上で暇を持て余していた清光を肩に乗せ、二人と一匹はご飯を求めに部屋を出た。いつの間にか外では小雨が降っていた。
バレンタインデーに新しい章に入ります!
湊「ピィアレナはチョコ渡す?」
ピィアレナ「あたし?ん~湊ちゃんに最初に渡すわね。はい、友チョコ」
湊「わーい!って違う!龍華に渡すの?」
ピィアレナ「湊ちゃんはツキカゲかしら?」
湊「!」
ピィアレナ「一緒に渡しましょうか。特別よ?」
湊「……面目ない……」
清光「なぁ~ん」
湊「清光までー!」
とっとと渡してこいやー!と云う感じですかね此処は、うん。
とりあえず、次回は来週です!




