誰かの思い出話について
………声が、聞こえる。女性の声と、男性…っていうよりも青年の声。誰かが様子を見に来たのは容易く分かった。ゆっくりと、その重たかった瞼を開ける。いつの間にか、陽は傾き始めていて、自室はオレンジ色に染まっていた。そんなに長く眠っていたんだ……しょうがないと云えば言い訳になるかな。そんな事を考えながら天井を見上げていると視界の隅から女性がひょっこりと顔を出してきた。
「目覚めたようですね。おはようございます。もう夕方ですけども」
クスクスと愉快そうに笑いながら女性は云う。彼女が着ているのは俗に云うメイド服と云うもので、和風も洋風も混ざり合った此処では珍しくはない。まぁ最初は物珍しかったけどね。起き上がろうとすると彼女が背中を支えてくれた。そうして上半身を起こすと並々と水が注がれた湯飲みを手渡される。
「ありがとう」
「いいえ。ボクが与えた薬には催眠作用もありまして。よく眠れたでしょう?」
謀ったな。最初から休ませる気だったのか。怒っている事を示すように女性を睨み付けるが、彼女はなんのそのと笑っている。ま、それくらい心配をかけちゃったってのもあるんだろうけど。やっぱり、上手くいかないなぁ。失格…なんだか泣きそうになる。泣かないけど。苦い感情と泣きそうな感情を水と一緒に飲み干す。ツンとした冷たさが喉を潤していく。もう一杯、欲しいかも。
「もう一杯、良い?」
「ええ。ドンドン飲んでくださいな♪」
「ていうか、飲まないといけないよね」
起きる直前にも聞いていた青年の声。起きた時には見当たらなかったけど、何処だろう?湯飲みに水が注がれる音を聞きながら、自室を見渡すと死角にいたみたいで後ろから姿を現した。青年、美がつくほどの青年は女性の隣に優雅に腰かけるとお盆の上に乗っていたもう一つの湯飲みを手に取って飲み始めた。その隣にまたあの粉末状の薬を見つけてしまい、思わず「うえっ」となる。
「もぉー、ちゃんと飲んでください!」
「ふふ、しょうがないでしょうメア。粉薬が嫌いなんだから」
「でも、ボク達の薬は粉が多いのですよ?これからも倒れる予定があるのでしたら克服しませんと」
「……精進します…って、倒れる前提なの!?」
苦虫を噛み潰したような表情に気付き、女性がぷんすかと怒る。青年が彼女を宥めるけど、明らかに遊んでるよね?!倒れるのはこれっきりにするし!新たに注がれた湯飲みの水を軽く睨んで、我知らず女性を再び睨み付ける。けれども女性は楽しそうにカラコロと笑うだけだし、青年も同じだ。
「シンデレラからも何か言ってよ!」
「はいはい。粉以外のも作るけど、みんな心配しているんだからね?無理はしないでよ」
……やっぱり、心配させちゃったんだな。寝る前からわかってた事だけど、改めて感じる。素直に頭を下げる。多分、下げても無理しちゃう。あれ、これ、もう言ってたような気が……すると青年が心配そうに、そして何処か安心した表情で立ち上がった。それに続いて女性も立ち上がる。粉薬はお盆の上に置いたまま。…どうせなら持っていっても良いのに。それも一緒に主張しつつ、顔を上げる。
「夕食後の薬です。ちゃんと飲んでくださいよ!」
「私達は行くけど、もう少し休んでいた方が良いよ」
「……薬ぃー?」
持って行ってはくれないようだ。クスクスと笑う二人に分かった、と肩を竦める。二人がいなくなったら仕事しちゃってもバレないかな。そんな事を考えていたら青年がクスリと笑っていた。
「仕事しても良いけど、一つだけだよ?」
「……気づかれてたか。全部は「倒れた人に全部押し付けるほど、私達は非道じゃないし。二人にも言われるしね」」
二人って云うのは、寝る前に会っていたあの二人だろう。てかあれ、一回こんなやり取りやったな。女性が懐から青年が言っていた「一つだけの仕事」を取り出し、渡してくる。一枚の紙。それを受け取り、内容をすぐさま読み出す。視界の隅で「全くぅ…」と声を上げる女性が入った。
「無理は駄目だよ?」
「うん、分かってるよ。これやったらまた休んでる」
「その方が良いです。ごゆっくりなさってください!シンデレラ様、行きましょう?」
女性が青年を振り返る。青年も「嗚呼」と優しく笑うとこちらに軽く手を振った。二人に向かって手を振り返し、見送りを終えると一つだけの仕事に戻った。文字を見ていると、あの時を思い出す。
「……………」
紙から一瞬視線を外し、天井を見上げる。目から涙が一筋流れたのはきっと、気のせいだと思う。
次は木曜日です!
……誰でしょーかっ?と言ってみる……三連休終わると気づいて少し落ち込んでます……休みぃ~




