第五十四ゲーム・予想外からの予想外
眩い光は、階段を降りてきた誰かが手に持つランタンの明かりだった。それに気づかず、目に光が直撃したため湊達は顔を光から守った。
「!鈴の音の……!嗚呼、やはりそうだったのですか!」
鈴の音?光が目を貫く中、湊はそんな驚く声を聞いた。此処には鈴の音を出すようなものを持った人物は誰一人としていない。まぁ、口でチリンと本物のように真似ることが出来るのならば別だが。声は少し高い。どうやら女性のようだ。そうして彼らがどうして顔を覆っているのかようやく理解したらしく、光が消えた。消えたと云ってもしぼりをしぼって光を弱めたらしい。眩しくないと目を開けると鉄格子の向こう側にいたのはメイド服を来た女性だった。此処のメイドだとしてもこの館に入ってから一度も見なかったのに、どうして牢屋になど来るのだ?そう。メア家に来てから、家主であるシンデレラ以外に誰も見なかったのだ。けれども小綺麗にされていて。ちなみに治療はシンデレラ本人がやってくれた。今思えば、牢屋に放り込まれたのだから、なにかされていないか不安になってしまう。
「……貴女、誰?なんで此処に来たのかしら?あたし達、此処の主さんに放り込まれたのよ?」
湊を庇うようにしてピィアレナが女性に問う。女性はハッと我に返り、どうしようかと牢屋の前でオロオロし始める。
「シンデレラに言われて来たわけじゃないみたいだね」
「じゃあ、なんなの?」
ツキカゲが小声で湊に言うと彼女は怪訝そうに首を傾げた。それにこの女性、何処かで見たことがあるような…?うん、わからん。湊は考える事を放棄した。女性はいまだにオロオロとしていたが、危険ではないと早々に判断した清光が暇そうに「なぁー」と鳴けば、その声にハッと彼らを見た。そして、
「申し訳ございません!」
「「「「?!」」」」
突然頭を下げられて謝られた。もし第三者がいたら驚くような光景が出来た。微妙な現実逃避から我に返った湊が鉄格子から手を出し、折り曲げられた女性の背中を叩く。
「ね、ねぇ、どういうことかわからないから顔を上げて欲しいんだけど?ね、一回顔上げてお願い!」
「……承知致しました…」
湊の懇願に女性はしぶしぶと言った感じで顔を上げた。顔にはいまだ謝罪と混乱の色が滲んでいた。シンデレラの独断だったということなのだろう、彼女の表情と行動からして。女性は彼らの様子を伺うように見る。
「で、どういうことなの?私達は、シンデレラのー……よくわかんないけど逆鱗に触れたから此処に入れられたっぽいんだけど。君が此処に来たのと関係があるの?」
湊がいまだに混乱しつつある女性に優しく問う。女性は彼らが無事であることと、主であろうシンデレラが行った所業に驚きを隠せないようであった。だがそれでも説明しようと口を開く。
「はい。関係があると言われれば、あるのでしょう。しかし、それは逆鱗ではありません。…シンデレラは…シンデレラ様は一ヶ月ほど前から変わってしまわれました…悪魔に眼球を抉り取られると云う大怪我を負った、あの日から。あの日から彼は可笑しくなったのです。一人、自室とは違う部屋に閉じ籠るようになり、全ての使用人に暇を与えました。ようやっとそこから出たと思ったら、人々を救った恩人を牢屋に入れる…明らかに可笑しいのです。ですので、こうして確認に来た処遇でございます」
「ん?待って。主人、悪魔に眼球を抉り取られるって云うのは…」
まさかの真実と騎士が言っていた怪我が判明し、驚く中、脳を素早く回転させた龍華が女性に待ったをかけて訊く。驚愕からいまだに少ししか帰って来ていなかった湊も急速に頭を回転させる。眼球を抉り取られる、つまり、それは。
「敵の悪魔と天使には力を流し込んで与え、操り人形にしてしまう力があるの。全員ができるってわけじゃないみたいだけど、力を流し込むには人間の眼球部位に損傷を与え…って、まさか!」
自分で言いながら湊は気づいてしまった。違和感の正体に。女性が恐怖する原因に。湊が言ったことはゲームの公式設定でもあり、この異世界では常識の範囲内であった。湊からもたらされた情報と女性からの事実に全員の表情が答えを導き出す。
「つまり、シンデレラは敵である悪魔に眼球を抉り取られた事によって力を与えられた…それで可笑しくなった?」
「あ、損傷部位から取り込む事も可能で、たまにその力に適応できない人もいて……あああ!!適応できない体だからああり得ない異端児っていうのを見てるんじゃ?!」
龍華と湊の考えにほとんどのピースが合致し、形を作り出す。女性も「ご主人様」には覚えがあったらしく「なるほど!」と手を叩いた。自分達はあの異端児に直接触れたわけではない。シンデレラ以外には異端に見え、彼にはご主人様と云う摩訶不思議な人物に見えているのかもしれない。幻、であったならば、湊達全員に見えているのも可笑しな話だが、シンデレラ自身が適応出来ずに自分の力を無意識に発動させているならば納得が行く。全員に見えると云うSOSだと考えれば。
「可能性としては今はそれが一番高いね。君は、それを教えに来たの?」
ツキカゲが女性に問うと彼女は驚いたように我に返る。
「いえ、自分でも可笑しいとは感じておりましたが、確証もなく、巻き込んでしまう形になってしまい申し訳ありません。今、牢屋を開け「待った方が良いわ」!?」
女性の言葉と動作を遮ったのはピィアレナだった。女性と同じように驚く湊が清光と共に彼らを振り返る。ツキカゲも龍華もピィアレナが止めた理由が分かるらしく、軽く頷いている。自分と清光だけわかっていないのがなんだか不足で湊は頬を膨らませた。
「どうして?」
「今はまだ、此処にあたし達がいるって彼は思い込んでいるでしょう?なにかあった時のために、彼が外出時に抜け出した方が良いわ。まだ、邪魔はさせないと言った意味が分かっていないもの」
「それに本当に原因が主人の云う多分だったら、その正体を確かめる必要がある。もうすでにオレたちは巻き込まれた当事者だから」
ピィアレナと龍華の言い分に湊は納得したように頷いた。それは女性も同じだった。ただ首を突っ込む事になるかもしれないが、女性の情報から確認せずにはいられなかった。
「じゃあ、シンデレラが外出する時にまた来て、開けてくれる?その時、僕達はまたあの部屋に忍び込む」
「……しかし、そこまで頼んでしまっても良いのでしょうか…」
女性の戸惑った表情にツキカゲは大丈夫だと笑った。
「そう思うなら、君の思う行動を僕達と共に取れば良い。そうすれば、真実が近づく」
「ツキカゲ、良いこと言う~!」
「なぁああ」
湊と清光が笑いながら言うとツキカゲは「からかわないの」と注意した。女性は暫し考えた後、決意が決まったのか、強くとも真剣な瞳を湊達に向けた。
「承知致しました。それではボクも、そのようにしたいと思います。明日のこの時間帯にまたお邪魔致します」
「ねぇ、君は…?」
頭を下げ、今にも行ってしまいそうな彼女を引き止め、湊は訪ねる。違和感を追い出すように、見つけるように…あれ?眼球を抉り取られているにも関わらず、普通に見えていたような…女性は「そうでした」と申し訳ないと云うように軽く頭を下げると云う。
「名乗るのが遅れて申し訳ありません…と云うかもうこの言い方、疲れました…ボクはメア。よろしくお願いします」
そう言いながらも口調は変わっていなかったが。メアと名乗った女性は、ローズピンク色のショートで両のこめかみが少し長い。まるでガラス玉のようなホワイトの瞳。両耳に水晶のピアスをしている。ロングスカートのメイド服に、カチューシャ。胸元のリボンの中央にはメア家の家紋が刻まれている。
湊の中から違和感が去ったような気配はなかった。
今日は二つです。おやおや?なにやら謎が……?分かりますか?頑張ったんですよ←
次回は……木曜日ですかね!




