第四十八ゲーム・ある物語の始まり
湊はハッと我に返った。嗚呼、また転移されたんだなと思い、シュークリーム食べ終わってて良かった…と少し場違いな事を考えながら目を開け、目を疑った。何故なら、目を開けた瞬間、真っ暗闇だったからだ。驚きながら周囲を見渡すと、良かった。ツキカゲ達もいた。湊の腕の中には清光がちょこんと収まっており、小さく「みゃあ」と鳴いていた。
「さっきまで昼間だったのに、夜になっちゃったわね」
ピィアレナが口元を軽く抑えて笑いながら云う。彼女の言う通り、今は完全に夜だった。美しき月と星が瞬くその光景はまさしく、いつだか言ったようにツキカゲの独壇場であった。そう思い、ツキカゲを振り返ると彼は何処か怪訝そうに月を見上げていた。
「ツキカゲ?どうかしたの?」
「え?いや…なんか此処、夜なんだけど夜じゃない気がして…」
「…はへぇ?」
「いや、僕もわかんないんだけど」と付け足すツキカゲ。首を怪訝そうに傾げるツキカゲを見て龍華とピィアレナが顔を見合わせた。湊も「んー?」と不思議そうに首を傾げた。ツキカゲがそう言うならそうなんだろうな。はてさて、夜だけど夜じゃない設定があるゲームってあったっけ?一番最初は少なからず湊の知識が必要となる。まぁ使えるかどうかは不明だが。ん?夜?湊は懸命に脳を振っている中、あるゲームに辿り着いた。そしてその事実に夜であるにも関わらず、思わず叫んでしまった。
「よっしゃ!わかったぁあ!」
「?!なぁん?!」
「主人?どうかしたのかい?」
突然、湊が拳を握りしめて叫んだので全員が驚いたようで一斉に彼女を見た。一斉に見られて湊は驚いたようだったが唯一、ツキカゲだけが事情を察したようだった。
「マスター、此処がなんのゲームとそっくりなのか分かったんでしょ?」
「!?そうなの湊ちゃん!」
「うん!ツキカゲが夜じゃない気がするって言ったのも案外間違いじゃないよ!だって此処、昼夜逆転してるから!」
「「「…………はい?」」」
湊の発言に何を言っているのか理解が追い付かず、思わず三人の口から変な声がもれる。ん?昼夜逆転?はい?案の定、清光も「はぁ?」とほうけた表情をしている。彼らのその表情があまりにも可笑しくて湊は小さく笑ってしまった。湊はなにか良い例がないかと辺りを見渡した。此処は一見するとただの草原だが、月明かりの中よく見ると丘のようだ。目を凝らすと所々にいくつも丘が見える。そして此処の眼下には壮大な街が広がっていた。街の奥には古びてはいるが何処か風情がある西洋の館が控えている。街は仄かな明るい灯りに照らされてまるで昼間のような明るさだ。そうして街の人々はまるで昼間のようにワイワイ騒ぎ合っている。此処からではよく見えない部分もあるが明らかに子供と思わしき人影も見える。初見であれば、街で祭りでも開催されているのかと思ってしまうが、湊は違った。
「理由はわかんないけどね、今、私達で言うところの昼なの。あれ見える?此処ではね、今昼だからあんなにみんな元気なの」
「……え、あ、はい?」
「……だから、僕がなんか違うって感じたってこと?」
「うん、多分」
あ、やっぱり分かんないよね。うーんと悩みながらどう説明しようかと考える。と、合っているのか分からないが思い付いた。その単語を納得しているようでしてない龍華とピィアレナ、清光に云う。
「ある意味夜行性です!」
「「……嗚呼…」」
「あんまり自信ないけど、とりあえず説明します!」
微妙な声がもれたので湊は説明を始めることにした。〈bloody red † bloody rose〉、略して紅バラと呼ばれるスマホゲーム。プレイヤーは多くの人種やスキルの血を保有する異端児と云う設定である。異端児の血を魔法陣に刻み入れる事で様々な人種やスキルを持つ異民を召喚し、地上界を支配しようと目論む悪魔と天使と戦う魔法系のロールプレイングゲームである。ゲーム内では名前にある通りrose、バラが様々な意味で重要となっている。簡潔に述べればこうである。ちなみに湊もこのゲームにハマっていた友人の薦めでやっている。友人ほど進めてはいないが。せいぜい本編の半分までである。なにせ一番の推しであり嫁がいる〈乱殲ノ闘魂〉に集中していたので。
「ぶ…ブラッティー…?」
「〈bloody red † bloody rose〉。昼と夜の概念が他とは真逆でね、プレイヤーでさえも混乱したから。安心して」
ハハハ、と何処か遠い目をしながら湊が苦笑を漏らす。何に安心すれば良いのかよくわからん。もーあれは驚いた。思わず友人にメール送りまくったのは良い思い出だよ…清光がそんな彼女を正気に戻そうと尻尾を手首に絡ませた。ふわふわとした触感が手首に触れた事によって湊は我に返った。納得したような表情の彼らを見る。すると先程湊に発言を直された龍華が少し驚いた様子で言う。
「っていうか主人、発言良いね」
「そういえばそうね。何かやっていたの?」
「んーやってたわけじゃなくて、ただ単に英語が得意なだけ!」
えっへん、と少し胸を張る。褒められたと感じた湊が照れたように頬を染めた。ピィアレナが可愛いと湊の頭を撫で、彼女が気持ちよさそうに表情を緩ませた。姉妹みたいに仲が良いなと思い、ツキカゲは微笑んだ。それは龍華も同じようで、目が合い、二人で顔を見合わせて笑っていた。
「じゃあ今回は情報があるね」
「うん。全部ってわけじゃないけど…」
「ないよりはマシだよ」
「なぁん」
ツキカゲが不安そうな表情をした湊を安心させるように言う。清光も大丈夫だと湊の腕に頭を擦りつけた。一人と一匹の言葉に湊はニッコリと笑った。嗚呼、嬉しいな。だから、きっと。安心させるようにいつの間にか繋がれていた手に視線が向く。嬉しいけれどやっぱり恥ずかしい。龍華とピィアレナがそんな二人をやはり我が子を見守る両親のように眺めていた。その時、突然、清光が湊の腕から身を乗り出した。前足を踏み外し落ちそうになった清光を湊とツキカゲが捕まえる。間一髪、落ちずに湊の腕の中に収まったが、清光は忙しなく「なぁなぁ!みゃあん!」と鳴いている。
「?どうしたの清光?」
怪訝そうに首を傾げるピィアレナ。清光は返答を返すように前足を前方に突き出した。その先にあるのは先程、湊が示した街だ。何事だと街を見下ろして、湊達は息を呑み、驚愕した。先程まで意気揚々と昼と云う時間を満喫していたであろう人々が悲鳴をあげて逃げ回っていたのだ。
「?!なに、あれ…主人が言っていた悪魔と天使?」
龍華が全員の驚愕を代弁するように言った。そう、人々を襲っているのは魔物でもなんでもない。白い翼を持った空中飛行をしている人物達と、黒い翼を持った空中飛行をしている人物達だった。姿形は人間と同じでもその翼は異様だった。湊が龍華の言葉に頷いた。そう、あれは地上界を支配しようと目論む悪魔と天使である。悲鳴が夜の闇に響き渡る。その声を黙って聞いているわけにはいかない。誰が何かを云うよりも早く、湊達は地面を蹴って駆け出していた。夜の闇に、疾風の如く、動きがあった。
新しい話に入ります!湊はなんとなく、英語得意な感じがしています。
次回は来週です!




