誰かの思い出話について
あれ、いつ寝たんだっけ?三人に連れられて酒を飲んで、二人に会って、それで…それで?わーヤバい。記憶がない。こんなんじゃあ、失格だよ。そう思いながら起き上がるとお腹の辺りに重みを感じた。そこにあるのは黒い物体。猫とか犬とか狐とか想像してしまうけれど、絶対にそれは違った。だって、小さな龍だったのだから。四匹ほどの龍がお腹を暖めるようにして丸くなっている。とぐろを巻いた所々からは、金色と云うかオレンジ色の瞳が見え隠れしている。こんなことをするのは、一人しか思い浮かばない。でも。ちょっと気になって、その龍達に手を伸ばす。がそれよりも先に龍達は煙となって消えてしまった。残念、と思いつつ、顔をあげると茶色の盆に湯飲みを載せて持って来た少年がいた。
「起きたようだね。少しは楽になったかい?」
寝ていた傍らに膝をつき、はいと渡された湯飲み。水がたっぷりと入っている。そして、彼の右腕に目が行った。そこには先ほどまでいた龍達が絡み付いていた。
「うん、ありがと。ところでどうして…」
寝ていたの?そう訊こうとすると少年は心底心配した、と言わんばかりに顔を歪めた。ありゃ、これは倒れちゃった感じ?
「オレたちのためにもって動き回っているのは知っているけれど、アンタ、働き過ぎ。タチバナとクスノキの部屋出た直後に倒れたよ。疲労、だって」
「嗚呼、やっぱり…」
「アサギリたちの酒もちょっと効いてたんじゃないかって、あの子が言っていたよ」
二人共、驚いただろうなぁ。あとで何か送っておこう、謝罪代わりに。そう考えていたのが少年には手に取るように分かってしまったらしく、軽くため息をつかれた。ごめんなさい。そう言う代わりに頭を下げた。じゃあ、運ばれて寝ていたってところかな。あの時から、怖がるように物が減っていった自室。「まるで、あとのことは、自分がいなくなっても…」と言っているようだって怒っていたのは、誰だったっけ?嗚呼、ヤバいなぁ記憶が混濁してる。とりあえず、湯飲みに注がれた水を飲んだ。ツンと冷たい水が喉を潤し、頭をクリアにしてくれる。水を二、三回に分けて飲み終えたちょうどその時、自室にもう一人来客がやって来た。
「あら、起きたのね。良かったわ。はい、リュウカ。追加のお水」
「ありがとピィアレナ」
少年に水差しを渡す少女。その立ち振舞いから一見して女性に見えてしまう。少女は少年の隣に座ると彼が作業をする隣でこちらを向いた。顔は心配と不安に満ちていた。
「まったく…あたし達もいるのよ?頼って欲しいわ」
「ごめん。でも…」
「倒れちゃ意味がないでしょう?」
まるで母親が子供を優しく諌めるような感じ。少しこそばゆい。けれど、言われているのもしょうがない。と少年が湯飲みに水を注ぎ終わり、小さな白い紙と共に差し出して来た。粉末状の薬だと云うことは言わなくてもわかった。
「一応飲んでおけって。本当に、無理はしないでおくれ」
「………」
「返事」
「はい、分かりました」
薬と水を受け取りながら言えば、少年は満足そうに軽く微笑んだ。多分、君がそう言っても無理しちゃうと思う。まぁ、ほどほどに…それにしても薬、苦手なんだよなぁ。特に粉。一気に粉を口に入れ、水で流し込む。うぅ…苦い。うえ、と舌を出すと少女が「しょうがないわねぇ」と笑っていた。
「さて、オレたちはもう行くな。仕事があるし」
「タチバナとクスノキも言っていたけれど、無理しなくとも…」
「倒れた人に言われても説得力がないわよ?」
膝を叩いて立ち上がった少年に、記憶を探って言えば少女に苦笑で言われた。確かにそうだ。今日はもう寝て、英気を養わないと。そう言うように二人の視線は感じられた。まぁ昼寝しようと思ってたし、都合が良いと言えば良いよね。立ち上がった二人に「頑張って」と笑いかけると少女が言った。
「あ、貴方の様子見に何人か来る予定だから、今日は寝てなさいね」
「……仕事…」
「寝てから言いなさい」
「うっす」
少女の威圧的な言い方に思わず返事がもれた。心配してくれるのは、知ってる。自室を出ていく二人に手を振り、二人が見えなくなると同時に布団に潜り込んだ。この暖かさが心地好い。次第に眠くなって行って、瞼が重い。いつしか、眠りについていた。
一気にやりました!次回は木曜日です!




