第四十九ゲーム・舞月
チリン、と何処かで鈴の音が響いた。それは、小さな小さな音。きっと、自分にしか聞こえていない音。嗚呼、またやって来たんだ。もう、来ないで。主様を…みんなを苦しめないで。でも、何故だろう。なにか、違和感がある。そう思い、窓の外を見て、背後の凄まじい気配に咄嗟に身を隠してしまった。やっぱり、可笑しい。可笑しいよ。いつから?そう、あの日から。あの日からなにかが変わった。…あれ?ってことはあの鈴の音は……違う?
居ても立ってもいられなくなったのは、そこにいたくないほどの気配と殺気があったからだろうか。急いでそこから駆け出した。背後を振り返る事もなく、一心不乱に。
駆けて行ったその姿を見送り、恐ろしいほどまでに妖艶なその顔を歪ませる。それは笑みなのか。はたまた嘲笑なのか。わかりっこない。外から刃音が響き渡り始めた。そろそろ行こう。カツン、と踵を強く床に打ち付けながら歩き出す。
「状況は」
きっと、すぐに動き始めている事だろう。怪我で療養中だが、確認に出ることは容易い。開け放たれている扉に手をかける。さあ、開始だ。
…*…
「ママーーー!!パパーーー!!」
泣きじゃくる子供の前には子供の云う両親は何処にもいない。大勢の人々が悪魔と天使の襲来から逃げ惑い、そこら中に悲鳴や怒号が響く。悪魔と天使はそんなことなどお構い無しに人々を追いかけ回し、そうして攻撃して行く。目の前で噴き出す血飛沫に悲鳴があがらないはずなかった。震える足を動かし、子供は逃げなくてはいけないと感じていた。逃げれば、両親に会えるかもしれない。周りが自分以上にパニックっていると冷静になってしまうアレである。しかし、恐怖からその足は動く事を拒否した。なんで、なんで!恐怖に目から涙が溢れる。その時、白い翼を持った、顔を黒い仮面で覆った人物が刃物片手にこちらを振り返った。白い翼、天使だ。子供は懸命に、恐怖に負けぬよう天使を睨み付けた。だが、天使は子供を煩わしそうに見ると容赦なく刃物を振り下ろした。死ぬ!?子供が強く目を瞑った。まさにその時だった。
「セーフ!」
強く、強く、それでも優しく抱き締められた。茫然とした表情で子供が顔をあげると自分を抱き締めていたのは湊だった。天使は突然現れた湊に驚いたようだったが、彼女が背を向けている事を良いことに振り下ろしかけた刃物を振り下ろした。が、それも束の間。湊と刃物の間にツキカゲが滑り込んで来た。刀で辛うじて刃物を防ぐと天使に向かって笑いかける。
「どうも?敵なら、容赦ないんだけどぉ?」
「?!」
殺気。恐ろしいほどまでの殺気に天使の翼や手が思わず、恐怖で震えた。ツキカゲは刃物を弾き、その腹に蹴りを放ち、後退させる。そして子供を庇い、抱き抱えた湊を振り返った。
「マスター!無茶し過ぎ!」
「ごめんツキカゲ。この子が危ない目に遭ってたから咄嗟に…大丈夫?」
「う…うん、ありがと…」
湊の腕の中で震えながらも礼を云う子供に湊はニッコリと笑いかける。そこに獣となった清光がやって来た。湊は清光の背に子供を乗せ、清光に指示を出しながら短剣を抜き放つ。
「清光、その子を避難場所に連れて行ってあげて。龍華とピィアレナの誘導は見てるでしょ?」
「なぁん!」
「よし!良い子!戻ってきたら…わかってるね?」
湊の言葉に清光は力強く頷くと子供を背に、天使と悪魔の隙間を縫って駆けて行った。それを見送り、湊はツキカゲと背中を合わせる。少し遠くで別の刃音が響いている。恐らく龍華とピィアレナだ。湊達はこの街に入りすぐに人々を避難させた。湊の記憶が正しければ、此処には騎士団がいる。記憶の通りに騎士団もいたが悪魔と天使の対応に追われており、手が足りていなかった。そこで龍華とピィアレナが率先して避難誘導に動き出した。湊とツキカゲも逃げ遅れた人々を救出し、清光の足を頼り、避難させた。あとは、群がる悪魔と天使を倒せば良い!二人が武器を構え、辺りを警戒すると察したかにように天使や悪魔が飛行しながら二人を囲み出す。短剣を構え、トントンと片足をコンクリートに叩きつけリズムを刻む。敵達に至っては湊が奏でるその音は不協和音らしく、色違いの仮面を歪ませた。これは、合図だ。態勢を低くし、短剣を構え、湊は背中越しにツキカゲに問う。
「ツキカゲ?良い?」
何が良いかなんて、
「うん、良いよ、マスター!」
聞かなくても分かってる!バッと湊を振り返り、彼女の前にしゃがみこんだ。なにか来ると動き出した敵達。だが、一足遅い。差し出されたツキカゲの手に素早く足を乗せると彼が腕を思いっきり持ち上げた。大きく飛ぶ湊は空中で再び跳躍し、近場にいた悪魔に飛び乗った。そして、翼に短剣を突き刺した。突然の痛みに悪魔のバランスが崩れる。悪魔の上から他の近づいて来た敵に攻撃する。軽傷であろうが敵にダメージを蓄積させることが重要である。暗い暗闇の中、湊がまるで舞うかのように落下する悪魔から飛び移り、今度は近場にいた天使にその短剣を突き刺す。がそれを天使は片手で短剣を掴みあげると湊を振り下ろそうと振る。そこに他の敵も集まってくるが、湊はニヤリと笑った。足を逆立ちするかのように勢いよく振り上げ、天使の腕に両足を絡ませ、上半身だけの力で体を持ち上げる。ちょっときつかった。足で締め付けた腕の痛みに天使が呻き、短剣を離した。今だ!湊はそこから跳躍し、天使の頭上に舞い上がる。そうして短剣を上段から振り下ろした。振り返り、防ぐ暇がなかった天使に勢いよく振り下ろす。翼を切り裂き、落下していく天使に追撃を与えるようにその腹を踵で蹴り落とした。ドゴン、とコンクリートに出来たクレーターに天使が白い羽を撒き散らしながら沈んだ。湊はその付近に着地するとまだいる敵に向かって跳躍し、短剣を振った。カキン、と刃物同士が交差し合い、火花を散らす。と足を刈られてしまい、湊はスッ転んだ。背中を打ち付けて痛い。転んだ湊に容赦なく刃物の切っ先が落ちてくる。しかし、湊は転がってかわすと素早く立ち上がり、無防備になった腕に短剣を振り下ろした。
『レベルアップしました。ただいまのレベルは35です』
倒れて行く敵を見送りながら、無機質な声が耳元で響いていた。
しゃがみこんだ状態のツキカゲをチャンスと睨んだ先程の天使が刃物を上段から振り下ろす。が、次の瞬間、ツキカゲはそこにはいなかった。ツキカゲは天使の背後に素早く回り込むと容赦なく刀を背中に突き刺した。前のめりに倒れていく敵を見下ろし、刀を抜き放つ。と背後に別の気配。振り返り様に刀を振ると刃物と交差した。背後にいたのは悪魔で、もう片方の手に持っていたナイフをツキカゲの顔に突き刺した。ツキカゲは紙一重で首を傾げる要領でかわすと刃物を弾き、一気に迫る。そして、刀を一突き。敵に蹴りを入れて後方に下がらせながら刀を抜くと集まって来た敵達を一周するように態勢を低くし、攻撃する。少し掠めたかな、と云うような痛みが肩にした。攻撃を掠めたのだろう。だが態勢を低くしたことによりツキカゲの攻撃は敵達全員の胸元辺りを掠めていた。お互い様である。中にはまさかで胴体とおさらばしたような奴もいたが。ツキカゲは強く地面を蹴ると悪魔に急接近した。振り回された刃物を刀を横にして防ぎ、大きく弾く。弾き飛ばした刃物を靴の踵で蹴って飛ばす。その軌道は目の前の悪魔に向かって一直線だった。腕を犠牲にして防ぐ悪魔に向かって、ツキカゲはニヤリと笑い、懐に攻め行った。
「油断大敵」
「っ!」
相手を切りつけ、倒し、ステップを踏むようにして後退する。とちょうどそこに湊も合流し、二人は背中を合わせる。削った敵以外の天使と悪魔が集まってくる。背中越しに相手の状態を確認し合い、湊が少し荒い息を整えながら云う。
「ツキカゲ、まだ行ける?てか、行けるよね」
ニィと断言して笑う湊。短剣を低く構え、いつでも飛び出せるように態勢を作る。ツキカゲもその問いに答えるように口角を上げた。
「うん、大丈夫。行けるよ」
「じゃあ、踊りましょ?」
湊がクスリと笑ったちょうどその時、二人は同時に敵に向かって駆け出した。勢いよく跳躍し、同時に敵を撃ち取って。
今日、祝日で月曜日ってこと忘れてました!あぶねぇあぶねぇ……




