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ただいま異世界巡回中!  作者: Riviy
二周目 悪なる正義、正義なる悪
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第三十四ゲーム・楠の刃



「さて、殺ろっか」


楠が散りばめられた太刀をまるで鞭のように振るいながら少年は云った。ピィアレナが湊を守るように片腕を広げる。二人が警戒を強め、武器を構えた。恐らく、目の前の彼はくすのきと云う『双剣の華』の片割れであろう。証拠は太刀である。それを確定させるようにピィアレナが云う。


「そんな簡単に殺されないんだからね?逃げるわよ?」

「ハハ、そういう凛々しい?とこ好き()()()よ」

「あらそう。でも、負けないわ、くすのき


ピィアレナの言葉に湊は力強く頷いた。少年は「楽しみ♪」と云うように声だけは弾ませていたが、感情的にはなにも弾んではいなかった。むしろ、殺気が増しているようだった。

少年、くすのきは顔を布で隠しているために瞳の色や顔付きを判別する事が出来ない。若苗色のショートで、半袖のワイシャツにフード付きのクリーム色のベスト。両手首には緑色の蔦で繋がれた小さな花のブレスレットをしている。髪と同じ色のリボンをリボンタイのようにして結んでいる。赤と黒のチェックのスカートをはき、五分丈の黒のスパッツをはいている。靴は茶色の編み込みブーツ。


両者が相手を警戒して睨み合う。その時間は長くも感じたし短くも感じた。そして、誰と云うわけもなく跳躍した。白い布をはためかせながら楠が滑るように接近すると湊とピィアレナの間に向けて、太刀を振り下ろした。攻撃をかわすように離れた二人のうち、湊の懐へグイッと迫った。目を狙って突き出された攻撃を短剣を滑り込ませ、ギリギリで防ぐと片手で彼の腹を殴った。しかし、それさえもお見通しだと云うように楠は片手でその拳を受け止めるとスルリと手首にその手を這わせ、掴み上げた。湊が鈍い痛みに短剣をずらしてしまう。そこを狙ったかのように、防いでいた太刀が勢いよく彼女に向かって落ちてくる。ヤバイ、と直感的に思った湊だったがそこへピィアレナのレイピアが滑り込み、間一髪で防がれる。ピィアレナが楠の武器を弾き返し、後方に距離を取る彼に片足を踏み込み、レイピアを突き出す。首を傾げる要領でその一撃はかわされてしまうが、ピィアレナはレイピアをそのまま横に振った。しゃがんでそれをかわし、大きく跳躍する楠。上段から振り落とされた重い一撃を防ぐのは得策ではないと感じ取ったピィアレナは右へ前転する勢いで回避した。思った通り、上段から振り落とされたその一撃の威力はすさまじく、コンクリートの床にクレーターを作ってしまった。


「……嘘でしょーー?!」


まさかの状況に思わずと云った感じ湊が叫ぶ。それに楠がクスリと笑った。その笑みがなんだが親しみ深そうに見えて湊は一瞬、面食らってしまった。その時だ、彼が突然、湊の目の前に現れたのは。視界の隅で驚いた表情を浮かべるピィアレナが入る。楠は太刀を下から上へ、まるでなにかを掬いあげるかのように振る。湊は短剣で軌道をずらそうとするがうまく行かず、胸元に縦に一線刻まれてしまった。攻撃された勢いで後方に倒れ込む湊。その後を追って楠が迫る。しかし、それよりも先に湊はその場で空中で一回転し、空中で回転中の不安定な状態で振られた太刀を防いだ。着地出来ない!とパニックに陥った湊だったが、そのまま回転し、上手い具合に楠の背後に回り込む。そして、振り返り様に回ってくる太刀を短剣を横にして防いだ。甲高い音が耳元で響いて、思わず顔をしかめる。楠が力を籠め、振り切ってしまおうとしてくる。力の違いに湊が軽く呻き声をあげると楠が軽く笑いかけ、やめた。湊は良い判断だと思った。途端、背中を向ける楠の左肩からなにかが飛び出た。それはレイピアの切っ先。痛みに軽く呻く楠に背後に回り込んだピィアレナが容赦なく引き抜き、腰辺りを狙って回し蹴りを放つ。痛みに気を一瞬でも取られたせいか、楠は簡単に飛んで行く。ついでと云うように湊が吹き飛んで行く楠の足を刈り、視界を振袖で覆い隠す。布があるので関係なさそうだが、布の向こう側で楠の低い舌打ちが聞こえた。そう、湊は振袖で視界を二重に隠し、その間に素早く攻撃したのだ。倒れ込みながら吹っ飛んで行く。床に頭から接触するのを片手の指先で軽くスピードを緩め…れなかった。勢いよく楠は何度かバウンドしながら転がると近くの壁に激突した。壁を片足に付け、布越しに湊とピィアレナを睨む。


「湊ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫!ピィアレナは?」

「あたしもよ!」


辛うじて傷はあるものの二人は大丈夫と云う証のようにハイタッチをかわした。楠は自分のように余裕綽々な二人を見て、喉の奥から声を絞り出すように笑う。


「ふふ、ピィアレナ、きみのそのレイピアのような凛々しさも腕も、折ってあげる」


楠は太刀の切っ先を壁にカキカキと当てた。その音はまるで黒板を鋭いもので引っ掻くように不快な音だった。湊が耳を塞ぎかけ、目の前の光景に目を疑った。楠を根っことするように背後の壁に大きな新緑の巨木が生えて行ったのだ。大きく壁に展開された巨木の多くの枝がまるで腕のように左右上下に蠢く。枝は壁を侵食して行き、その勢いは楠の足元にまで及んでいた。根っこの先っぽがピィアレナの足に絡み付きそうになる。此処まで伸びるの早くない!?と湊が驚愕しながら彼女の手を引いた。それらを見たピィアレナが「うぐっ」と不可解な声で呻いた。


「あー、湊ちゃん、ごめんなさい……楠、頭脳派っていうか、支援系なのよ…」

「え、ってことは…あれ動くのー?!」


ピィアレナが心底申し訳なさそうに湊に言いながら態勢を整える。つまり…そう湊が考え始めた瞬間とでも云えば良いのか、それとも同時と云えば良いのか、楠が突然、素早い動きで跳躍した。跳躍する楠と共に彼の背後に展開させた巨木もまるで彼の一部のように動く。片腕を振ると多くの枝が湊とピィアレナを狙って動き回る。その切っ先は楠が持つ太刀のように鋭く尖り、行く先のコンクリートを抉って行く。そうして多くの枝が絡み合い重なり合い、太くも鋭い、そして素早いまるで刃物のようなものを作り上げて行く。その先にいるのは湊。湊一人を狙っているようで、楠自身も湊一人を狙っていた。短剣だけでは絶対に防げない。どうする?湊は瞬時に考えを巡らせるがその間にも大きな木製の刃と楠は迫ってくる。とりあえず、跳躍でもしよう、そう思った湊は足に力を入れたが足が動かない。なんだと足元を見ると太い根っこが彼女の足に絡み付き、動きを制限していた。引いても押しても動かない。


「湊ちゃん!」


ピィアレナが悲鳴にも近い声を上げながら大きな木製の刃と化した枝に向かってレイピアを突き刺す。がダメージは乏しい、逆に枝は彼女のレイピアをも飲み込もうと枝を伸ばす。ピィアレナは顔を歪め、逃れるように大きく跳躍し木製の刃の上に乗った。そして楠に向かって素早く駆けた。楠はそんな事お構い無しに標的に向かって突進して行く。湊も湊で懸命に短剣で根っこを切り払っていたが成長の速度が速すぎて捌き切れなかった。


「ああああムカつく!!スキルとかあれば良いのに!!」


思わず、我を忘れて怒鳴ってしまった。根っこは突然怒鳴られて一瞬動きを止めた。が再び動き出す。ゲームのスキルとか、一緒に付与してくれれば良かったのにあの野郎!と場違いではあるだろうが神様への怒りをぶつける。その間にも木製の刃も楠も迫って来ている。と、湊は()()()()。ピィアレナが楠の顔にレイピアを突き刺した。スッと顔をずらしてかわす楠だったが、レイピアの切れ味を侮っていたらしく、布と頬が少し切れた。その隙間から彼の頬に楠の小さな花がまるで彼を飲み込むように刻まれているのが見て取れた。ピィアレナはレイピアを引っ込めながら回し蹴りを放つ。楠は太刀を持った腕でそれを防ぐと片手でその足を掴み、傍らに投げ飛ばした。突然のことに受け身も取れずにコンクリートに叩きつけられたピィアレナ。背中から叩きつけられ、血反吐が出る。素早く立ち上がるよりも早く、木製の刃が湊の首筋を狙って突き刺された。


「もらった!」

「湊ちゃん!」


楠の勝利を確証した歓喜の声とピィアレナの悲痛な声が同時に響いた。だが、笑ったのは


「私よ」


湊だった。驚く二人の目が大きく見開かれる。何が起こった?一瞬にして湊が木製の刃の上で、楠の目の前にしゃがみこんでニヨニヨと笑っていたのだ。ついさっきまで湊がいた場所には倒れている敵の物であろう黄ばんだロングジャケットがはためいており、刃によって貫通してしまっている。嗚呼、なんだ。そういうことか。全てを理解した途端、楠はクスリと笑い、木製の刃を振り回し、湊を振り下ろした。その直前、湊は楠の方へ跳躍し、背後に着地する前に彼の背中に短剣を突き立てる。すぐさま背後を振り返れず、背中に凄まじい痛みが走る。が背中にも根っこが侵食しているため、深いところまでは食い込まない。楠の振り返るよりも早く、ピィアレナの方へと駆け寄り、彼女を助け起こす。


「大丈夫?ピィアレナ!」

「ふふ…湊ちゃんに心配されちゃうなんて。変わっちゃったわね」

「もぉーピィアレナったら!」


クスクス笑いながらピィアレナに手を貸す。足を囚われていた湊はたまたま、視界に倒れている敵を見つけた。服は黄ばんでいるが遠目からなら白に見えるのでは?そう思い、一気に根っこを切り砕き、隙間が開いた場所に倒れていた敵を突っ込み、ロングジャケットを放った。あとは先程の通りである。楠は黒い血が滴り落ちる背中を押さえながら二人を睨み付ける。湊とピィアレナも武器を構え、両者静かに睨み合う。下の階から甲高い刃音が此処まで響き渡り、緊張感と緊迫感を演出する。その時、カツンと音がした。その方向に楠が軽く目をやり、軽く見開いた。湊もピィアレナも気になったが、チャンスを逃したくはない。その思いで二人は一気に駆け、楠も正気に戻り、木製の刃を振った。


今日は二つで、此処までです!

次回は来週月曜日の予定です!

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