第三十三ゲーム・二人の空接戦
頭上の穴から多くの銃弾が湊達を狙って落ちてくる。ピィアレナが瓦礫を足場に一気に頭上へ駆け上がるともう何処にも建物の面影がない二階へと踊り出た。突然現れたピィアレナに敵は驚いたようだったが、すかさず彼女に向けて銃弾を浴びせて来た。その銃弾の嵐を潜り抜け、ピィアレナは片腕が銃器と同化した敵の懐に迫り込むとレイピアをその顎に向けて突いた。右胸に突かなかったのはそこを守るように胸当てがあったからである。今のこの距離では突く事は出来ないと判断したのだ。顎に突き刺さったレイピアを後方に退いて抜く敵にピィアレナはすかさずその胴体に向かって回し蹴りを放った。その敵は顎から黒い血を流しながら穴に落ち、一階へと消えて行った。ピィアレナは背後の気配に気付き、レイピアを振り返り様に振った。ビィン、と音がしてそんなに攻撃を相手に与えていなさそうな音が響く。背後にいたのは銃剣を持った敵で、剣の部分でピィアレナの攻撃を防ぐと一瞬、躊躇した様子を見せた後、その引き金を引いた。バンッ!と音がしてピィアレナは間一髪、その銃弾をかわした。しかし、頬に浅くとも一線ついてしまった。ピィアレナはその痛みに軽く笑いながら片手でその銃口を掴む。撃ったばかりのせいか、片手が熱い。そんなことさえ気にせずに、ピィアレナは銃口を掴んだままレイピアをその腕に突き刺した。敵が片腕でピィアレナを後退させようと振るが、その後退を使ってピィアレナはレイピアを引き、片腕を切り落とした。ボトリ、と鈍い音がし、黒い血が吹き出る。敵の胸元に蹴りを放ち後退させる。と、ピィアレナに向かって残りの敵が乱射を開始した。全てを防ぎ切れるはずはない。辛うじてでも、右胸を防ぐか。そう思い、ピィアレナがレイピアを構えた。その時だった。
「?!うっ!?」
「え?!イッ」
「………?」
突然、敵達数人が痛みを訴えながらまるでひざかっくんされたかのように倒れ込んだのだ。そして同化した、もしくは銃器を吹っ飛ばされ、撤退せざるを得ない状況になっていた。何が起きた?と乱射の嵐が一瞬にして止む。だがピィアレナには見えていた。愛しき彼女の姿が。と、銃器を叩き落とされた一人の敵の片手に長剣が現れた。恐らく、擬人化が長剣で銃器はただの支援だったのだろう。その長剣を勢いよく上段から振り下ろすとカキン!と音がして刃が交差した。そこに現れたのは湊。短剣を横にし、柄の部分を片手に当てて押さえながらその重い一撃を防いでいる。もう一人の侵入者の出現に敵の銃口が湊に向けられた。ピィアレナは叫ぶよりも早く、銃口を向けた敵に滑るように迫り、レイピアを突いた。がかわされてしまい、銃口を逆に向けられる。しかし、まるで踊るかのようにその一撃を避け、その敵の頭、肩へと跳躍し片手で首を捻り折った。ボキッと嫌な音がして倒れ込む敵の手から銃器を足で蹴って奪い取ると空中に浮いたまま、乱射した。
「湊ちゃん!伏せて!」
「?!いやいや無理でしょそれぇえええ!!」
ピィアレナがやろうとしていることに驚愕しながら、目の前の敵と目が合う。両者が思った事は同じだろう。バッと相手の武器を弾き、ほぼ同時に近くの柱に向かって走った。柱の影に吸い込まれるように隠れると片腕になにやら感触があった。なんだと見上げると先程の敵だった。「「え」」と互いに硬直する。弾き出そうにも既にピィアレナの乱射が始まってしまっているのでしょうがなく、敵と二人身を寄せ合ってその銃撃を耐える。ピィアレナが慣れない銃器を口にレイピアを咥えた状態で乱射する。近くの柱に足を付け、こちらに向かって銃口を向け引き金を引く敵を狙って柱を駆けると跳躍し、弾がなくなるまで乱射、乱射である。蜂の巣になった敵を足場に再び大きく跳躍し、近くの柱をまた使って回転しながら引き金を引きまくる。自分の腕に銃弾を連続で発射するために凄まじい振動が来、ピィアレナは思わず顔を歪ませた。ガチガチ、銃弾が切れたらしい。動かなくなった。ピィアレナは素早く着地し、銃器を投げ捨てると咥えていたレイピアを手に取り、周囲を見渡した。大半の敵が蜂の巣状態になり、倒れ込んでいる。上々だ。文句を云うならば、利き腕ではない方の肩にいつの間にか貫通していた鉛の塊だろうか。銃撃戦で気づかないうちに負傷していたらしい。振れる事を確認してピィアレナは周囲に警戒を巡らせた。
「(……終わった…?)」
銃撃が止んだ。湊は恐る恐ると云った様子で柱の影から様子を伺う。ピィアレナ以外倒れていて、そして、彼女の前にまるで空から舞い降りたかのように現れた先程の少女であろう人物。その人物を見た途端、一緒に隠れていた敵と同時に声をあげた。バッ!とその声に湊と敵の視線が再び交わる。暫しの沈黙の後、素早く動き出したのは数秒の差で敵だった。長剣を湊に向かって容赦なく突き刺し、殴るように振り上げた。突く攻撃を辛うじてでしかかわせず、脇腹に一線が刻まれる。深いんだか浅いんだが痛みで判別は不明。湊は振り上げたられた攻撃を短剣で受け流し、短剣を腹に突き刺した。そして間髪入れずに顎目掛けて足を振り上げる。その一撃をかわした敵の腹に食い込んだ短剣と傍らの柱を足場に頭上へ駆け上がり、敵がなにかをするよりも早く踵落としを脳天に落とした。結果、命中。敵は頭を押さえた、かと思うと長剣を落として後方に倒れた。湊は慎重に、相手が本当に倒れたー気絶だと思うがーのか確認すると短剣を一気に抜き放った。
『レベルアップしました。ただいまのレベルは28です』
耳元に響いた無機質なレベルアップを告げる声を聞きながら、ピィアレナの方へ飛躍的に上昇した跳躍で飛んだ。ピィアレナの隣に滑り込んだ湊に彼女は安心したように微笑んだ。湊も大丈夫だよと微笑み返し、前方の少女であろう人物に目を向ける。その人物は湊を興味深そうに布で覆われた顔でまるで舐め回すように観察している。それがなんだが嫌で湊は人物を睨んだ。何処から来たんだろう?と考えて自分もやって来た階段に視線と意識が行った。来たのは人物だけのようだ。増援の気配はない。まぁもしかすると、隠れているだけかもしれないが。緊張と警戒を漂わせながら湊もやり返すように人物を観察する。
「ふーん、なんか姉弟がやめちゃう理由、わかる気がする」
「あら、なら、見逃してちょうだい。あたし、あんまり湊ちゃんを危険な目に合わせたくないから」
「あ、ピィアレナ、私、他にもいろいろ危険な目に合ってるよ…」
あんなこととか、そんなこととか。あんまりこの異世界に来て日数は少ないが神様のせいでいろいろ経験した。お陰なのかは知らんがレベルがこんなにあがりました(真顔)。ピィアレナが少し驚いた様子で湊を振り返った。が小さく笑った。その笑みの理由が分からなくて湊は怪訝そうに首を傾げた。まぁそんなこんな。気を取り直して、人物がスカートを直しながら余裕綽々と云った態度で云う。
「でも、ごめんね?ぼく、姉弟のお願いは叶えたいから」
「姉弟って、それは一対の方でしょう?」
「まぁ、そうなんだけど」
てへ、とピィアレナの言葉に可愛らしく口元を綻ばせる人物。だが湊は少し違和感を感じていた。すると人物が言う。
「ま、これから戦う事は決定事項だし」
「!」
その声は、低かった。男の声変わりした低い声とでも云えば良いのか。先程まで和やかに高い声で話していた人物とは一転。雰囲気が変わった。体から陽炎のように漂う殺気。それに混ざり合った不協和音。これが、湊の違和感の原因だったようだ。
「…そういえば、擬人化は人の形は取ってるから、性別の判断も難しいしほとんど関係ないのもいるって…なんかで読んだような…じゃあ男の子かなぁ」
「湊ちゃん、それがね、此処では人の形を取った時点で性別はほとんど決まるわよ。難しくなっちゃったりするのは同じく怨念組よ」
呟くように云った湊にピィアレナが解説する。ゲーム〈神狩〉では擬人化の性別判断ー中性顔や服装が逆であったり、と云うのもあったが何分、顔を布で隠しているため余計に難易度が上がったーが難しく、ほとんど関係ないものもいたりしたが、ピィアレナの「此処で」という強調するような口振りから察するにやはり違うらしい。この異世界では怨念組がゲームと同じように、難しい&関係ない勢のようだ。それなら納得だ。ゲームの方は公式がそんなビミョーな設定を掲示したせいでプレイヤーの間では一瞬、討論の的になった。やれこいつは女だ、やれこいつは男だ、おい違うぞ逆だ!とか。結局は口調と容姿での性別判断となったが。たまに反対もある。それでも難しいのは性別なし。
まぁそんなことは良い。湊とピィアレナが仲睦まじく話しているように見えたのか、少年ー恐らく声からしてーが笑う。
「そんなこと良いじゃん。ぼく、姉弟…橘に合うようにって願っちゃったんだから。本当は橘みたいな服が良かったんだけど…まぁ、作ってくれたあの人がそう望んだんだけどね。だから良いか、な?話がずれちゃった」
少年が地声なのかそれとも裏声なのかわからない高い声で云う。あの人、と云うのはきっと彼らを作った人物のことであろう。どう合うとかは知らないが。少年は後ろ腰に帯刀していた太刀を抜き放った。その柄と鍔の部分には楠の花が散りばめられている。その模様で湊は『双剣の華』のどちらかがわかった。
「さて、殺ろっか」
擬人化って本来は性別ないんじゃないかと云う考えからこうなりました。分かりやすいのは良いんですけどねぇ……




