第二十ゲーム・その後の出来事
その後、神代の証言により焼けてしまった屋敷の床下から白骨死体が発見された。白骨死体と一緒に埋められていたのは、錆びてしまった一つの指輪。指輪の内側には「家族が幸せでありますように」と刻まれていた。その指輪と白骨死体が着ていた服から神代の姉である事が証明された。近所からも評判がよかった夫婦の裏の顔は、瞬く間に街中に広がり。また夫婦を殺し、肉親を殺された被害者であり加害者である神代の事も瞬く間に広がった。自警団の副団長が殺人。しかも復讐。団長の右腕と云う存在が、まさか。街の人々の反応は様々であった。裏切られた、と云う言葉もあったが自警団は頑なに黙秘を貫いた。いつからか、わかっていたのかもしれない。神代の異変を、朝霧の苦悩を。それを表すように神代は自警団に出頭と云う形で逮捕された。だが、その後の処遇はいまだに決定していない。「神代が自警団を去るならば俺も去ろう」「あ、あたくしも!」と団長と情報に関する魔法を持つ少女の二人がそんなことを言っている事も影響しているようだった。全責任を取る、と言ったのは朝霧団長だ。どうこうするかは、彼ら次第だろう。けれども、例え神代が長い時間、罪を償おうとも二人はずっと待っているのだろう。彼らの絆の強さを湊もツキカゲもよく知っている。
そんなこんな。一応でも事件解決を手伝った朝霧達の友人として湊とツキカゲ、そして獣も街中に広がった。宿屋のオーナーは何故か恐縮しているし、武器屋のオーナーでありレアンの父親は一度、お礼に伺うとまるで自分の子供の活躍を喜ぶ親のように労ってくれた。レアンが羨ましいです。
「ねぇ、君、家は何処なの?」
「?なぁおん」
「なぁおん、じゃなくてね?」
今彼らは宿屋で借りた部屋にいた。湊が首を傾げて問うのは自分の膝の上に丸まりたいようでぐるぐると回っているあの黒い獣である。戦闘が終わると一瞬にして湊とレアンと出会った時のように小さくなってしまったのだ。湊の片手に巻かれている白い包帯が痛々しげに映るらしく、頭をその手に優しく擦り付けている。答えは、No、かな。湊は小さくなった獣…と云うよりも鳴き声から云ったら猫にしか見えない動物の頭を優しく撫でると座っていたベッドに倒れ込んだ。ボフン、と微かにベッドが音を出す。あの事件から既に数日が経過していた。街中に話が広がった事から容易に外に出れやしない。宿屋の前にこの街の記者がたむろっており、外に出るたびに質問攻めにあう。人生でこんな経験はないが、はっきり言うと出かけさせろ、である。まぁそれも宿屋のオーナーの力で部屋までは特定されていないし、自警団の力でその記者も引きつつある。理由は団長である朝霧とこの街の長が決定を下したからだ。その決定を聞くため、今は全員、自警団本部に集中している。
朝霧とレアンはあの一件後以来、会うことが出来ていない。団員から言伝てに「お礼を言いたい」と言われたが対応に追われているらしく、時間は取れていない。と云うか、神様が云う巡れとは何処から何処までだ?湊的には良いが、本当に明確にして欲しい。
動物が何も言わず、ベッドに身を委ねるだけになった湊の上にどんどん上ってくると軽くお腹の部分に前足をちょこん、と置いて伏せてしまった。湊はそれを見て、なんなとく動物の頭を撫でた。本当になんの動物だこの子は。
「マスター、行かないの?」
バスルームから出てきたのはツキカゲだ。ツキカゲはなにやら昨夜夢見が悪かったらしく、今日は朝シャワーだったのだ。そのため、横になっている湊からも髪が濡れたツキカゲが見える。薄い水滴が金髪にきらめいてなんとも妖艶であり美しい。けれど……湊は動物…鳴き声は猫なのに姿は微妙な仮猫の頭を撫でながらそのままの状態でツキカゲに聞く。ツキカゲは髪をタオルで拭きながらこちらにやって来る。
「行くって本部に?今行く気しなーい。ぜぇったい、格好の餌食じゃん」
「まぁね。ところでマスター、手、大丈夫?」
「それ言うならツキカゲもでしょ?」
ヒラヒラと大丈夫だと包帯が巻かれた片手を掲げ、振ってみせる湊。今は痛みが引いている。が傷が塞がってはいないのだ。それはツキカゲも同じで軽傷であるものの傷が塞がっていない。自警団所属の医師によって手当ては受けたが、体がアバターと云うこともあってか何処かで絶対に治ると云う自信があった。ツキカゲは髪を拭きながら、湊が横になっている隣に座った。
「その子、連れて行くの?」
「家何処って聞いても教えてくれないの。君は、私達と一緒に来たいの?」
「にゃん!!」
肯定の意味らしく、動物が勢いよく顔を上げた。神代が操っていた魔物に隔離されるような形でいたこの動物。恐らくだが、証拠をたまたま所持してしまったがために誘拐されたのだろう。焼け跡に入って来る動物まで自警団は規制出来るかと言われれば、微妙である。なにせ獣であるから人間の知らない道を知っている可能性だってある。それにこの仮猫は湊にとてもなついており、引き離すのも可哀想である。と云うことで此処まで連れて来た次第である。湊は突然の主張に驚いたようで片手を大きく上げ、顔だけを起こして仮猫を見る。碧と翡翠のオッドアイと目が合う。
「だってよツキカゲ」
「んー…僕は反対しないよ、マスターに任せる」
「うー…えー…」
まさかのツキカゲのほとんど賛成に湊が戸惑ったような声をあげながら、起き上がった。仮猫は起き上がる湊にしがみつき、落ちる事を防ぐ。湊は仮猫を抱き上げ、自分と同じ視線にまで持ち上げる。仮猫は「行きたい行きたい!」と前足を可愛いらしく動かしている。その姿がまた戦闘時とは違い、なんとも愛らしい。うーん、と湊は悩む。けれど、この子にも居て欲しいと思ってしまった自分がいて。そんな自分に湊はクスリと笑った。
「うん、癒しは必要だよね」
「え、僕じゃ不満って云うことかなそれ」
「違うし!こう、もふもふした方の癒し!ツキカゲはどっちかって云うと私専用かn…まぁいいでしょ!」
ツキカゲの口車にまた乗ってしまった。湊は意地悪げな笑みを浮かべるツキカゲを軽く睨み付けると仮猫の方を向いた。
「それに手が多くて困る事はないし。一緒に行こっか!」
「!なあああ!!」
仮猫は湊の決定と笑顔にそれはそれは嬉しそうにふわふわの尻尾を振った。
「じゃあ、名前必要だよね!」
「マスター、もしかして名前決めたかっただけ?」
「はは、そうとも云う!」
ツキカゲにツンツンと肩をつつかれながら湊は胸を張るように云う。そうしながら、うーんと仮猫の名前について思考する。私とツキカゲと同じ碧の瞳。黒い毛並み。何が良いかな…
「清光」
「え?」
「清光って云うのはどう?ねぇ、君はどう?」
湊が仮猫にどう?と聞くとふわふわの尻尾が湊の手首に巻き付け、「にゃぁお」と鳴いた。そしてオッドアイの瞳を嬉しそうに細めた。答えは、YES。湊はニッコリと笑うと仮猫、清光も笑った。
「じゃあこれから君は清光だよ!よろしくねー!」
「なあああ!」
楽しそうに、嬉しそうに笑う一人と一匹をツキカゲは何故か複雑そうな表情で見つめていた。
二周目からはゆっくりやりますので……そしてこれ長いですよ。




