第十九ゲーム・魔物を討伐せよ!
自警団本部の建物の前にやって来た湊達は目の前に立ちはだかる魔物に一瞬目を疑った。そこにいたのは巨大な魔物。蜘蛛のような足を生やし、龍の頭を持った、簡潔に言えば不気味な魔物である。だが、先程の話から団員達が体力を減らしてくれたようだ。ふらふらであり、足はほとんどが消えている。嗚呼、もう少しで倒せるじゃないか。でも、魔物の周りにいる団員は接近戦に向いていないようだった。後方支援での戦いがメインなのだろう。あれでは体力が減り、倒せるのは時間がかかる。
「相手は毒の炎と毒の息を吐きます。お気をつけて。撤退宣言!これより団長からの命令により助っ人が加入、即座に行動を開始せよ!」
湊達を連れて来た団員が腹から声を張り上げる。何も言わずとも何をするのか頭に入っているようだ。団員達はすぐさま次の行動に移る。信頼しているのだと云うことが見て取れる。湊とツキカゲは獣から飛び降りると武器を構えた。獣は先手必勝で魔物に飛びかかった。途端、魔物は毒だと云う炎を獣に向かって放った。獣はそれを軽い身のこなしでかわすと唸りながら足に噛みついた。噛みつかれた足がポロリと外れる。体力の低下で防御力も大幅にダウンしているようだ。これは好都合だ。湊は助走をつけながら大きく跳躍する。ツキカゲも湊に続いて跳躍する。二人はほとんどなくなった魔物の腕を足場に上へ上へと登っていく。肩の部分に辿り着いた湊は短剣を魔物の残った腕に切りつけた。バッサリと落ちるわけではない腕に飛び乗り、ツキカゲも追撃を加える。上から振り下ろされた刀によって残った腕が切り落とされ、腕は全て消え去った。その痛みに気づいたのか魔物が今度は毒の息を吐く。痛みで顔を振り乱しながらなので毒の息はギリギリ近くにいる湊に何度も当たりそうになる。ツキカゲは刀を魔物の体に突き刺して落ちるスピードを落とす。湊はタイミングを見計らって魔物の上から飛び降りるとスピードを落としていたツキカゲの手を掴み、一緒に落下する。落下する二人の下に獣が踊り出ると二人を背にキャッチし、魔物によって吐き出された息を辛うじて避ける。とその時、避けたちょうどその時だった。魔物の体が突然縮まってしまったのだ。驚く彼らの前で魔物の体は小さくなったかと思うとその背に八本の手がつき、その手一本一本に刃物が握られる。頭はなくなり、頭なしにも関わらず、湊達を狙って素早い動きで接近し始める。
「!?どういうこと!?」
「体力の減少で体を小さくしたのかな?」
「!嗚呼、そういうのいた!くっそ弱いと思ったら強くなって戻ってくるレア魔物じゃん!うわめんど!」
まるで滑るように接近してくる魔物から逃げる獣の上で湊が怒ったように叫ぶ。倒せたと思ったのに!こんなところまで似なくて良い!湊が「うがー!」と叫ぶと獣が大丈夫?と彼女を振り返った。湊は獣に旋回して!と指差して指示すると獣は勢いよく旋回した。突然旋回したように背後の魔物には見えたらしく、一瞬こけた。そこを狙ってツキカゲが獣の上から跳躍し、体勢を崩した魔物に頭上から切りかかる。地面に寝るようになった一本は切り落とせたが他の刃物に防がれ、弾かれる。それでもツキカゲは一旦後退しておいて魔物を懐に引き寄せ、一気に振り切った。胴体に傷が走った、と言うか相手を切ったはずの痛みが自分にも来ている事に違和感を覚え、視線を下に向けた。すると魔物の刃物が自分と同じように自分の胴体を切っていた。傷は浅い。ツキカゲは一瞬キョトン、としたあと、ニヤリと口角を上げて笑った。そして頭上に振りかざされた刃物を持つ手を掴みあげると驚く魔物の瞬間を狙い、刀を突き刺した。そうして、引いた。ドダッと不気味な音と魔物の血が散らばる。タンッと片足を地面に叩きつけるようにして音を立て、クルリと周りながら魔物の脇を通り過ぎる。そのついでに刀を横に、魔物に追撃を与えるが効いていないようだった。
魔物が背中の腕を後方へ回ったツキカゲへと向けようとする。その時、前方に気配を感じた。その気配に前方を振り返れば、今度は後方で嗤う気配。顔だけでその方向を確認すれば、ツキカゲが笑っていた。途端、前方に顔を向けた。獣から飛び立った湊が上空を飛ぶ。彼女に気を取られていると獣が魔物に飛びかかって来た。鋭い爪と牙が魔物を襲う。だが残った手に持つ刃物で獣を切りつけて弾く。獣を弾きすぐさま湊に対応しようとする。が間に合わなかったようだ。頭上から突き出された短剣は魔物のない頭に突き刺さった。やっぱり、此処が目であり弱点。湊はニヤリと笑いながら振り落とそうとする魔物を踏み、両の足を首の部分に絡ませ、落下を防ぐ。ブンブン、と振られる体と共に背中から伸びる刃物が湊を襲う。だが湊はグルン、と短剣を回し、嫌な音を足元で響かせる。右手と左手から刃物が湊を両挟みにしようと素早く動く。それを横目に確認し、湊は勢いをつけて大きく跳躍し、後方へ一回転しながらかわす。だがそれを魔物も気づいていたらしく、別の手が湊を容赦なく襲う。真っ正面から来た刃物と死角から侵入するように横から迫る刃物、二つ。片方は紙一重でかわし短剣で軌道をずらしたが、もう片方は防ぐ時間がなく、慌ててしまい素手で掴んでしまった。
「!イッタイ!」
「マスター!?なにやってるの?!」
ツキカゲの怒声にハッと我に返った湊は片手に走った痛みを辛うじて頭の隅に追いやると、短剣を振った。しかし容赦なく片手から抜かれた痛みに意識がそちらへどうしてもいってしまう。頭上と横から刃物が振り回される。湊は涙目になりながら頭上からの刃物を短剣で防ぎ、横からの一撃を良い具合に踵の硬い部分で防ぐ。そのまま回転し、全てを弾くが自分よりも手が多い分、なかなか難しい。一瞬でも背後を向けてしまった湊に刃物が迫る。その間にツキカゲが滑るように入り込むと全ての刃物を刀で防ぐ。バッと全てを吹き飛ばし、後方へ仰け反る魔物の無防備に投げ出された腕を切り落とす。ツキカゲは肩に置かれた手を掴み、一気に前方に引き出す。その手は湊だ。湊はその勢いを利用して魔物の懐に迫るとほぼ見よう見まねで短剣を素早く振る。自分の素早さでは無理かと思ったが、案外うまくいったらしい。数本の腕から刃物を叩き落とす事に成功した。湊はそのまま魔物の肩と首を足場にしてその向こう側へと歩いていく。湊の軽やかでありながらも意思を持ったその歩みに魔物は倒れていく。
「ツキカゲ!お願い!」
「はいはい、わかったよマスター」
湊の後方でしょうがないなと小さく笑うツキカゲの声がした。受け身は取ったがゴロゴロと地面を転がってしまった湊を獣が慌てた様子で追いかけ、助け起こす。その間にツキカゲが倒れ込んだ魔物の弱点である首の部分に刀を突き刺すと自分の方へ引いた。体を縦に引き裂いていくツキカゲ。地面に縫い留められたかのような腕が気持ち悪くうごうごと蠢く。ツキカゲの攻撃を止めさせようと彼に向かって腕を伸ばし、刃物に腕を伸ばす。だがそれよりも先にツキカゲはおもいっきり刀を引き切った。体をおもいっきり真っ二つにされた魔物はびくびくと痙攣し、動かなくなった。ツキカゲは警戒し、切っ先を魔物に向けつつ湊を振り返る。湊の真っ赤に染まった片手を獣が心配そうにペロペロと舐めていた。
「くすぐったいよー!」
「……もう、マスターったら」
緊迫した状況だったのに一気に気が抜けた。ツキカゲは息を軽く吐くと周囲に目を凝らした。他の団員達が避難を終えたり、後方支援に回り込もうとしていた途中だったらしく、「あ、終わったん?」と湊達を見ている。ツキカゲは肩を竦め、刀を軽く振った。すると刀は一瞬にしてマジックのように消えてしまった。ツキカゲは湊に向かって歩く。湊はツキカゲがこちらに来るのに気づいたらしく、パァと笑顔になった。胸元に出来た傷に一瞬気を取られていたが大丈夫だと笑う。
「やったねツキカゲ!」
「だねマスター」
「にゃおん!」
二人が笑ってハイタッチをかわすと獣も猫のように鳴いた。まるで二人と同じように喜び、言葉を話しているようだ。本当になんの動物だこの子。
『レベルアップしました。ただいまのレベルは21です』
ピロン♪と云う音と無機質な声がついつい上がってしまうテンションを少なからず下げてくれた。
少しずつ色々入れてます。何処とは言わないけど。此処もちょっと難しかったんですよー




