第十五ゲーム・懺悔
全員の視線を一身に受けてなのか、彼の震えは止まっていた。それが、証拠から導き出された真実と近くにいるからこそ気づいた真実を絡み合わせる。
「………みんなの云う通り、あの夫婦を殺したのは僕だよ。でも、あいつらは、僕らを殺したんだ!」
胸のうちをさらけ出すように青年、神代は叫ぶ。黄土色のセミロングで右のもみあげの髪を三つ編みにしている。瞳は濁りのない空色。右耳のみ星のピアスを着けている。白いワイシャツに紺色のベストを着、同じ色のネクタイを締めている。前方から右腕と右半分を覆うように自警団の証である黒いマントが垂れている。紺色の半ズボンに黒のニーハイソックスとローファー。
怒りの表情を露にしながら彼は叫ぶ。隠し続けていた怒りを。隠し続けていた悲しみを。
「僕ら本家の人間を分家の人間は厄介者扱いした。遺産なんてほとんど残っていない、名前だけが遺産みたいなものだったからね。両親が死んで、僕ら姉弟は遠い親戚だと云うあの夫婦に引き取られた。でも、あいつらは遺産を持っていない僕らをストレス発散だって言って虐待した!………姉さんは、僕を庇って、死んでしまった…そのブローチは、姉さんの形見だったのに…なんであんなところに置いて来ちゃったんだろう」
神代の瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。復讐、誰もが思ったその動機。評判の良い夫婦と言われた二人に隠された裏の顔。団長の右腕と呼ばれ、信頼された彼の見えない傷。その事実に朝霧とレアンは驚きを隠せないようだった。
「……姉さんを…父さんと、母さんと一緒の場所に埋葬してあげたかった……そのうち僕は、あの家を出た。でも、あいつらは僕を良い金蔓扱いするためにこの街にまでやって来た!朝霧に秘密をバラされたくなければ、金を払えって……もう限界だったんだ…もうあいつらに大切な存在を奪われたくはなかった!だから、殺したんだ」
神代は流れる涙をそのままに朝霧を見た。驚いたように表情を歪める朝霧の顔を直視出来ない。ゆっくりと頭を抱えながら神代は繰り返す。その言葉を、絶望を。
「…でも、朝霧を悩ませてたなんて…知らなかった……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……ごめんなさい」
何も聞きたくない。見たくない。信じて、告げればよかった。悲しませた。貴方はこんなにも信じてくれてたのに。後悔が彼の心中を覆い隠し、本当の朝霧の表情さえ隠していく。その時、湊は頭を抱えしゃがみこむ神代の足元の影が異様に大きく広がっている事に気づいた。思わずツキカゲに視線を向ければ、彼も慌てたように歯を食い縛っていた。神代に姉がいることはゲーム内で知っていた。それは此処でも本当だろう。だがゲームの神代はレアンとは逆に女性だ。彼がこんなにも大きなものを抱えているなんて知らなかった。そして、あの影。私の記憶が間違いでなければ、あの影は。湊が声をあげる前に朝霧が神代に向かってゆっくりと手を伸ばした。彼の足が影を踏んだ、その途端、影から多くの魔物が飛び立つように姿を現した。レアンの声にならない悲鳴と共に我に返った朝霧が足を退いた。そこに魔物の大きな一撃が沈み込む。
「魔獣遣い…!感情が不安定だから魔物の制御が効かないんだ!」
「?!ではどうすれば?!」
魔獣遣いとは、〈乱殲ノ闘魂〉での彼の魂が持つ類い稀なものである。これは根本からあるもの、変える事は出来ない。まさかそれが異世界でもだなんて、誰が思うか。湊の言葉にレアンが叫び返す。神代は狂っているわけでは決してない。ただ、傷ついているのだ。魔獣遣いは心を通わせた魔物を仲間とする。遣いの者の感情が魔物に影響を与える。つまり、その感情を制御しなければ、魔物は神代だけではなく湊達にまで被害を及ぼす。それはきっと神代の思うところでは決してない。ツキカゲの無実を急ぎすぎたか。嗚呼でも、後悔してたってなんにも始まらない!湊は短剣を抜き放ち、叫ぶ。その顔は、決意に溢れていた。
「魔物を倒して、神代に手を差し伸べてあげて!わかってるでしょ?朝霧!」
湊が彼に向かってそう叫べば、朝霧はニヤリと痛々しげに笑った。その笑みが何を意味するのか、わかる者は少ない。朝霧は剣を抜き放つと構えた。
「嗚呼、貴様に言われずとも、理解しておる」
「よし!」
「レアン、貴様も手伝え。貴様もだ。わかっているだろう?」
顔だけで朝霧がレアンを振り返ると彼女は鈍器にもなる武器を両手で握り締めながら力強く頷いた。その間にも神代を守るかのように魔物は湧き出ている。四人で戦うには少しキツイ量かもしれないが、出来ない事はない。湊はチラリとツキカゲを見た。彼も頷いている。が、その時、大きく目が見開かれた。
「マスター!」
「?!」
一体の魔物が湊を狙って跳躍したのだ。それを皮切りに他の魔物も大きく飛び出して行く。頭上から突き刺さるように振り下ろされる刃物。嗚呼、今の私じゃ防ぎ切れない!そう確信した湊は右へずれようと体を傾かせた。と、跳躍した魔物に向かって何処からともなく現れた真っ黒い物が攻撃した。魔物は吹っ飛ばされ、神代の近くにまで後退する。なにが起きたと目を丸くする湊の前に先程の真っ黒い物体がノソリと起き上がる。そのまん丸で大きな目を見た途端、いやその姿を捉えた途端、湊は驚愕で叫んでいた。
「あの時の動物!」
目の前にいたのは湊に証拠品をくれたあの動物だ。動物はそうだよとコクンと頷くと湊を守るように魔物に向かって唸った。グルル、と云う低い唸り声と共に魔物が一瞬怯む。そして動物の体は小さかったにも関わらず大きくなっていく。湊と同じくらいの大きさになった動物は犬のようで猫のようで、狐のようで狼のようだった。ピンッと尖った二つの耳に、鋭い爪と牙。もふもふ尻尾と毛並み。うん、四足獣だ。だが真っ黒であるためか、それとも小さかった時に器用に前足で証拠品を抱き抱えていたせいかなんの動物かははっきりとしない、分からん。けれど、味方だと云うのは理解出来た。右が碧で左が翡翠色のオッドアイが湊を見つめている。碧だと云うことに勝手に親近感がわく。
「助けてくれるの?」
湊がそう問うと動物はコクンと頷いた。湊は嬉しそうに微笑み、動物の隣に踊り出た。そして彼女の隣にやって来たツキカゲと顔を見合せ、頷き合う。
「行くよーツキカゲ!」
「任せておいてよマスター」
二人の力強い声に動物が自分も!と云うように大きく鳴いた。そして彼らは飛び出した朝霧とレアンを追って多くの魔物の中へと飛び出した。
此処も難しかったんやー!!うがー!←




