第十三ゲーム・フラグ
レベルアップの時だけはゲーム仕様と云う不思議。恐らく、アバターだからだろう。異世界はゲームとは違うし。でもどうせなら統一して欲しかった…めんどくさかったのだろうと云うことは分かるが。ピロン♪と云う音に気を取られないようにしよう、じゃないと無理だ。そう納得付けて突然叫んだ事によって奇襲だと勘違いしてしまったレアンを落ち着かせる。二人で無事を確認し、レアンに至っては彼女がたまたま持参していた包帯で一応の応急措置をとった。二人は食器棚に目を向けた。魔物が見ていた下の段の取っ手に手を伸ばす。と、ガタガタッ!と突然、震え出した。中になにかいるらしい。残党か。湊は器用な手付きで片手を短剣の柄に当て、レアンに視線で合図を送る。彼女が頷いたのを確認し、ドクドクとうるさい心臓を落ち着かせるように小さく息を吐く。そして、勢いよく取っ手を引いた。
「……………」
「……えぇーと?」
扉の奥、中にいたのは真っ黒な動物だった。なんの動物かは分からないが二人に怯えているのか別のなにかに怯えているのか、ぶるぶると体が痙攣している。まん丸の大きな瞳は恐怖で潤んでいる。湊とレアンは気が抜けたかのように肩の力を抜いた。何故、あの魔物がこの棚を、正確には恐らくこの動物を隠していたのか不明だが、ツキカゲの無実の証拠になることだけは確かだ。と湊はその動物が両手で大事そうに抱き抱える物に気づいた。その背後にも何個か少し黒焦げた物が転がっている。湊はゆっくりと座り込み、短剣から手を離すと怖がらせないように、優しい声を心掛けて云う。
「大丈夫、私達は君を傷付けないよ」
それでも動物は怯えているようでぶるぶると震えている。
「あのね、君の持ってる物と後ろにある物、貰えないかな?私の大切な人を助けるのに必要なんだ」
力強くも優しい瞳が動物を貫く。レアンはそんな湊と一匹の動向を不安そうに窺っている。他に本当に魔物がいないわけではないので、しきりに周囲へ視線を動かしている。
「お願い、貰えない?君を傷付けたりはしない」
そう湊が断言すると動物は「本当?」と云うように首を傾げて問った。それに湊は力強く頷いた。動物の震えが止まった。そして警戒するように湊の背後を、レアンを窺うと自分が抱き抱えた物に視線を移し。スッとその物を湊に向けて渡した。湊はパァと笑顔になり、「ありがとう」と言ってその物を受け取った。動物は背後にある物も先程までの震えが嘘のように次々と湊に渡して行く。その速さに湊はてんてこ舞いになりながら受け取って行く。それでも腕の中から出てしまう物はレアンが上手い具合にキャッチし、受け取って行く。全てを渡し終えた動物はにっこりとまるで人間のように優しい笑みを浮かべた。
「ありがとう、君のおかげ」
それに動物は嬉しそうに笑った。湊は動物が一番最初に動物にもらった物をレアンと一緒に見る。それは黒焦げたブローチだった。ブローチには小さな蝶々がついているが欠けており、微かに赤黒いなにかが付着している。
「これって」
そのブローチを湊は見たことがある。それはレアンも同様で軽く目を見開いている。
「これは、神代さんがお持ちになっているものですわね」
「あ、レアンちゃん、知ってる?」
湊にとってはレアンが知っているのは此処までだ。湊は、それ以上を知っている。レアンは話して良いのか迷った後、うんと頷き、言った。
「自警団副団長、朝霧さんの右腕と名高い青年ですわ。けれど…神代さん、なくしたなんて言ってもいなかったのに…それに焦げてると云うことは…」
「犯人の可能性はあるだろうね。殺害してその拍子に落としたのに気づいて、魔物を放った…」
「そんな事、あり得ません!」
「でも、ならなんでこのブローチは焦げてるの?最初から焦げてるわけじゃなかったでしょ?」
「その通りで、以前は焦げていませんでした…そうですけれども…でも…」
首を振りながらレアンが否定する。湊だって、信じたくないが、貰った証拠を動物が抱き締め、そしてそれを魔物が隠していた時点でその色は濃い。自警団が見つけられなかったのは、自分が犯人であると云う証拠を見つけて欲しくなったため魔物に動物ごと移動させたからだろう。湊は他の証拠品を袖口を使って持ち上げる。この異世界に指紋を採取する技術があるのか分からない以上、むやみやたらに素手で触るのはよくない。湊が持ち上げたのは恐らく凶器の一つであろう包丁。刃のところが真っ赤に染まっている。他にも焦げてしまった様々な物がある。いまだに信じられない!と云うようにおろおろとしているレアンを横目に湊はある物を見つけた。それは、被害者と犯人の唯一の繋がり。
「……(まさか)」
湊の頭の中で欠けていたピースが音を立てて組み上がって行く。公式設定は、此処では無意味だ。だが、半分はそっくりである。残されたブローチ、魔物を操る力、殺害された近所でも評判の良い夫婦。炎、斬殺。そして、神代。嗚呼、君は。
突然、数々の証拠を持って湊は走り出した。それに驚いたかのようにレアンが顔をあげる。
「さ、桜ちゃん!?」
「自警団本部ってこの街の東側だったよね?!」
「ええそうですが!桜ちゃん!?どうしたと言うのです?!」
「早く行かないと!」
「ええええ!?」
急がないといけない。その一心で湊は走る。レアンはなにがなんだかわかっていなかったが、追いかけた方が良いと思い、証拠品を両腕で抱えて彼女を追って走り出した。小さくなっていく二人の背中を見ながら、動物はゆっくりと出てくると小さく鳴いた。猫のような犬のような、よくわからない鳴き声だ。動物は何を思ったのか、二人を追って走りだした。その事を彼女達は知るよしもない。
色んな意味でのフラグです……




