第十二ゲーム・戦闘イベント?
証拠を持ち去った魔物が向かった先は廃墟だった。街の賑わいから少し離れた場所にある、被害者の屋敷のように燃えてしまった元屋敷。自警団も一度は此処を捜索した跡が残っているが、ツキカゲを連行したところから見るに魔物はいなかったのだろう。それとも気づいて魔物が逃げ、戻ってきたか。灯台もと暗し。走って此処まで来た二人は同時に息を整え、廃墟となってしまっても威厳を保つ屋敷を見上げた。
「………此処だね」
「ですわね桜ちゃん。魔物が居ります、気をつけなければ」
「うん。私、あんまり戦えないんだけど、レアンちゃんは?」
湊自身、ツキカゲから短剣を買ってもらっているし体はゲーム内であろうとも戦闘慣れしたアバターではあるが、自信がなかった。だが逆に日常茶飯事で魔物と隣合わせであるレアンに至っては戦えると云う希望があった。レアンは任せてくださいと云うように持っていた杖を掲げて見せた。
「お任せください。あたくし、あまり魔法は使えませんがこの杖でぶん殴る事はできますのよ」
「ぶ、ぶん殴る…」
驚いて身を引く湊にレアンは「おほほ」と口元を押さえて上品に笑ってみせる。逆にその笑みが実感味がなくて恐ろしい。〈乱殲ノ闘魂〉ではなかった魔法職であろうことは分かっていたが、まさかの鈍器扱い…人は見かけによらないものである。まぁとりあえず。二人は気を引き締めて真っ黒に焦げた屋敷へと足を踏み入れた。ギシギシと燃えて耐久性が落ちた床が悲鳴をあげる。床が残っている部分もあれば、なにもない場所もある。二人は武器を構えながら、警戒した様子で屋敷内を探索する。魔物が居そうな、ものを隠しそうな場所を二人は歩き回る。湊はレアンを連れて元キッチンに足を踏み入れた。コンクリートの壁が剥き出しになっており、ポツンと黒焦げた食器棚と足が取れ、傾いているテーブルがあるのみである。テーブルはもちろん、黒焦げている。棚が黒焦げ以外無事なのは、なにかあるからだ。しかし、自警団がそんなことわからないはずもない。一応、ゆっくりとその棚に近づく。魔物は証拠を持っているのか隠しているのか。そこさえわからない。湊が下の棚の取っ手に手を伸ばした。
次の瞬間、背後でゾワリと云う悪寒がした。途端に背後を振り返れば、そこにいたのは案の定、魔物である。鋭い爪を携えた人間のような形をした魔物が三体。ギラギラとした凶悪そうな形相。悲鳴を上げなかっただけでも大したものだと自分を褒めたい。いや、悲鳴を上げた方が良かったのかもしれない。レアンが緊張した面持ちで杖を構える。湊もツキカゲから買ってもらった短剣を抜き放つ。だが、彼女の足は微かに震えていた。魔物は彼女達を舐めるように見て、ニヤリと笑った。ゲームと似た容姿をしている。だが此処は目の前で起きている事だ。そう思い、意識を集中させた。落ち着いてくると体がアバター仕様なためか、震えが消えてくる。大丈夫、落ち着いて。と、湊は三体の魔物の視線が自分達から逸れている事に気がついた。自分達は気になるが、それよりも大事な物がある、とでも云うように。湊はゆっくりと視線をその方向へ滑らせた。そこにあるのは、背後にあるのは黒焦げの食器棚、の下の段。そこになにかある、そう思わずにはいられなかった。
「レアンちゃん」
「ええ、わかっておりますわ。その前に目の前の魔物を成敗致しましょう」
レアンの言葉に魔物が嘲笑った。そんな杖で何が出来る、と言いたいのだろう。だが、先程レアンの言葉を聞いてしまっていた湊に至っては笑いを堪えるのに必死である。魔物が一体、レアンに向かって跳躍した。鋭い爪を彼女に向かって振り下ろす。それを杖を横にして防ぎ、力を籠め、魔物を弾く。レアンの目の前で余裕そうにステップを踏んでいる魔物に彼女は近くの壁を駆け上がると大きく跳ね上がり、目を丸くする魔物に向かって杖を振り下ろした。月と太陽が鋭い取っ手、水晶が鈍器となって魔物を押し潰す。が、魔物も一筋縄では行かない。杖を上へ押し上げて脱出するとレアンが動くよりも早く、爪を突き刺した。紙一重でかわしたが髪の毛が爪の被害を少々受けた。レアンはブン、と回りながら杖を振り回す。かわしきれなかった魔物の腹に月と太陽が突き刺さり、痛みを与える。それでも魔物は爪をレアンに向けて伸ばした。杖を片手で持ちながら踊るようにクルン、とかわす。しかし、もう片方がまるで影のように伸びた。伸びた爪はレアンの首に巻き付くようにうねうねと動き回る。レアンはキッとその爪を睨み付けながら、暫し思案し、上品に笑う。首に巻き付こうとしていた爪を片手を掲げてかわす。魔物はどこでも良かったらしく、嬉しそうにー顔なんか見えないがーレアンの片手に巻き付いた。途端に響く痛みに彼女は顔を歪ませた。が、突然、杖を魔物から引き抜いた。チャンスと思ったのは魔物だけではなかった。魔物が伸びた爪を引き寄せるとレアンも一緒に引き寄せられる。レアンは片手で杖を構え、ズズズと動く足元にカァン!とその先を突きつけた。
「さあ、放ちなさい!」
そうレアンが叫んだと同時にグルン!と水晶が回転した。勢いよく回転する水晶。その水晶から突然、魔物の方へ光線が放たれた。レアンを引き寄せていたためにかわすことは到底無理だ。光線が魔物の頭部を焼き払い、壊していく。レアンの片手に巻き付いていた爪の勢いがなくなり、スルリと外れる。レアンは巻き付かれていた片手を軽く振った。痣が少し出来たが動く事には動く。問題はない。それを確認し、彼女は魔物を見ると頭がなくなり、倒れていくところだった。
自分の方へやって来た二体の魔物に湊は深呼吸をした。短剣を強く握る。なにかあるであろう背後の棚に被害が及ばぬよう戦わなければならない。これは湊の初戦だ。一気に迫ってくる一体は湊の頭上から爪のような刃物を振り下ろしてくる。その重たい一撃を短剣で防ぐのは厳しいと判断し、横にずれてかわすとすぐさまもう一体が突っ込んで来た。頭上に飛び、その頭に短剣を振り下ろす。うわぁ、慣れない!だが、アバターと融合しているためか魔物を倒すことに違和感がない。そうしないと此処では死んでしまう。環境適応力が高過ぎだろう、と心中で苦笑する。此処はアバターの独壇場。体の好きにさせる。
頭に食い込んだ短剣を容赦なく抜き放ち、その頭を蹴りあげる。蹴りあげられた魔物は勢いよく…とは行かず、小さく呻き声を上げただけだった。
「?!(アバターのレベル、もしかして、本当にレベル1?!)」
可能性は高い。神様が「その方が良いだろう?」と変えたのはこの異世界の世界観に合わせるためである。レベルと云うか、そこまでは神様にとっては関係ないことなのかもしれない。だからこそ、相棒としてツキカゲを選んだのだろう。でも、それでも、いつ必要になるかわからない。だって此処は、異世界だから。
湊はあまり動かなかった魔物の頭を踏み台にし、横に振られた魔物の刃物を防ぐ。腕に来る少しの痺れに顔を歪めながら、大きく跳躍し、魔物の後方に回り込む。がそれよりも早く魔物がこちらを振り返った。早い、が湊も早い。間一髪、振り返り様に振られた刃物をしゃがんでかわし、足の間をすり抜ける。倒れ込んでいた魔物が立ち上がり、湊に向かって爪を振り下ろした。横にかわすと背後には壁。追い詰めた、と思ったのは魔物だった。二体一気に刃物が振り下ろされる。が小柄であるための、身軽さをついて振り下ろされる直前、二体の死角から抜け出し、足に短剣で攻撃した。片割れの魔物がガクン、と体勢を崩すがもう一体はなんのそのである。背後に回り込んだ湊はレアンに向かって叫んだ。
「レアンちゃん!」
途端、先程魔物を倒したものと同じ光線が勢いよく放たれ、二体の魔物を壁に食い込ませた。逃げ道がない分、攻撃力が凄まじいらしく、二体は光線を浴びながら痙攣し、暫くして動かなくなった。そして、魔物は影に溶け込むようにして消えて行った。倒した、と云う実感に湊は手元を見た。と、ピロン♪と云う軽快で陽気な音が耳元でした。なんだと周りを見渡すがレアンには聞こえなかったらしく、湊の様子に首を傾げている。自分だけ?と怪訝そうな表情になる湊の耳元で無機質な声が響いた。
『レベルアップしました。ただいまのレベルは10です』
「そんなところだけはゲーム仕様か!!!」
思わず叫んでしまった湊は悪くない。とりあえず、レベルアップしました。
ツキカゲが一応で買った武器がもう役に立ちましたよ。やったね(白目)




