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第4話

七色のグラデーションが滲んで波を打つ。

それがこの世界の空だ。

空。

空?

空だと思う。

地面がない。

大地がない。

まるで浮いているみたいだ。


ふわふわと水の中、海の中を浮いているような感覚。

PBSのアラシにはそう感じられた。

浮遊物がある。

小さな小さな黒い点がまるで小蠅や羽虫のように。

それは小さく、とても小さな黒い塊。

ただ浮いているだけなのか。

水の中に漂っているだけなのか。


違う。

それは違う。

それらはみな、遠く距離が離れていただけだった。


アラシはサポートAIの状況を問う。

「どうだ、サポートAI。今の状況、どんな感じだ?」

だがサポートAIの答えは遅かった。

「しばらくお待ちください。現在情報収集中です。現在ビジーです。」

サポートAIの報告に口をへの字にするアラシ。

「何だよそれ。まあ確かに、今まで見たことも聞いたこともない世界に

来ちゃったんだものなあ。」

そう呟いて、アラシは付近の『空間』を興味深く凝視する。


小さな小さな黒い塊が徐々に大きくなっていく。

ズームアップしていくように。

拡大していくように。

ものすごい速さでとても大きな物体へと成長していくように。


それはそもそも小さかった、からではない。

距離が、果てしなく距離が離れていただけだった。

気がつくと、巨大な大きな廃墟に『成長』した黒い塊が、

黒く焼け爛れた建造物?のブロックが

PBSのアラシの横を猛スピードで走り去っていく。


すごいスピードだ。なんて運転するんだ!お前は暴走族か?そう思ったが違った。

「おお! なんかものすごいスピードで何かすっ飛んでいったぞ! 今の何だ?」

アラシはサポートAIに問いただすも、解答は先ほどと同じであった。

「現在状況分析中。今しばらくお待ちください。」

アラシはサポートAIの反応の遅さに不安があった。

改めて自身の目で周りの状況を見る。

すると、アラシ自身が、その場に停止して浮いているのかと思っていたが、

どうやらそれは違っていることに気がついた。


PBSのアラシ自身も猛スピードで『飛んで』いる。

ここは物体が高速移動する世界なのか。

正確には、それぞれお互いが信じられない速さで『浮遊』している。

走る車から外を見ると、景色が流れていく。

だがそれは景色が走っているのではない。

車が走っているのだ。

ここではお互い双方が猛スピードで『浮遊』している。

高速移動で交差する世界。

相手が止まっているように見えた時、自分が高速移動している。

相手が高速移動しているように見えた時、自分は止まっている。

接触時間は一瞬だ。

それぞれがまじ合う時間はほんの数秒だ。


自身も『高速移動』していると自覚した理由。

それはPBSのアラシに繋がれた『命綱』の存在であった。

自分は止まっている。

そう思っているのに、命綱は常にピンと張り詰めてギシギシと揺れている。

はじ切れんばかりに、命綱がピンと張り詰めている。

命綱が切れたらどうなるんだ?

自分は、この謎の異空間でずっとさ迷う運命なのか?

そう思うと、アラシは急激に不安に襲われた。

その時、アラームが鳴った。サポートAIである。


————————————————————————


アラームが鳴る。

MDF秘密基地の地下にある広大な転送室に緊張感が走る。

「何だ、どうした?」

隊長がMJ6のメンバーに問いただす。

アラームの原因が判明する。

「大変です! ここにイビールゾーンから転送される物体があります。」

隊長が驚く。

「なに?」


MJ6のメンバーの報告が続く。

「ここに何か不明なモノが転送されてきます!」

状況を把握した隊長、驚きの表情を浮かべる。

「逆転送か? 敵が転送ポイントを把握して、敵が逆転送してくるってことか?」


広大な転送室。

その中央の円形の魔法陣のようなテーブルに『何かが』転送され実体化していく。

MJ6のスタッフの一人が顔をこわばらせ絶叫する。

「異次元転送プロセスを強制終了するしかないです!」

隊長はすぐに否定する。

「ダメだ!今異次元転送プロセスを強制終了したら、アラシが帰ってこれない!」

徐々に中央テーブルの上空に何かの形が形成されていく。

PBSのアラシと接続されている命綱の真上だ。


絶望的状況である。

「え? 何? 何が起きるの?」

よくわかっていない真樹れい。

横に立つユリの表情で深刻さがわかる。

「何かごめんね。巻き込んで。今、ここに、異次元から敵が送り込まれてくるみたいね。」

ユリの説明で、真樹れいは驚くしかなかった。

「え?」


————————————————————————


その時、アラーム音が鳴った。

神経を尖らせて警戒しているアラシにとって、

そのアラーム音が小さかったとしても、

心臓が止まるほど大きくびっくりする音に感じた。

「何だ? どうした?」

サポートAIが答える。

「こちらに向かって急接近するモノがあります。相対速度から計算するも、あと

2分。」

2分!

2分もかかるのか?

2分しかないのか?

アラシにとってその2分の長さがわからなかった。


無限に続くとも思われる七色の光の空が波打つ異次元空間イビール・ゾーン。

アラシの視点のその先に、小さな楕円形の黒い点が見える。

今は確かに小さな黒い点でしかない。

だが距離が離れている。

停止していると錯覚するようなお互いの『移動速度』で交差するのはおよそ2分後。


アラシはサポートAIに問う。

「お互いが接触交差している時間は?」

サポートAIは即座に答える。

「攻撃防御可能目視時間はおよそ10秒。10秒以内なら敵接近物に直接攻撃可能です。」

2分待って、10秒。

それが長いのか、短いのかは今のアラシには判断できなかった。


「10秒間の接触中、探査ナイフで直接敵物体に物理接触してサンプルを取ります。

敵壊滅に必要です。」

サポートAIの説明を聞くアラシ。

「わかった。捕獲するより、まずは分析して攻撃した方が、いいな。これは。」


それはそうである。

人類史上、初めて人間が謎の異次元空間イビールゾーンに存在している。

ひとつひとつ確認が必要である。


アラシは問う。

「攻撃はどうする?」

サポートAIが数秒考えて答える。

「火薬式攻撃の実行を推奨。」

サポートAIの判断にまだ時間がかかる。

それは仕方ない。

未知の状況の状況及び分析している。

故に時間がかかる。

アラシだってそうだ。

状況が完全に把握できない。

サポートAIだってそうだ。


「敵との交差接触、あと30秒後です。」

アラシの脳裏にイヤな予感が走る。

「まさか敵のやつ、命綱を狙ったりはしないよな。」

そしてその予感は現実の物となる。


アラシのPBSと敵物体が10秒間高速移動で交差する。

ほんの一瞬だ。

サポートAIが予定したプロセスは実行される。

しかし、危機的予想外な現実がアラシを突きつけることとなる。

アラームが響く。

何度聞いてもイヤな音だ。

「何だ? どうした?」

サポートAIが冷静に、淡々と事実を報じていく。

「大変です。命綱が切られてしまいました。」

「なに?」


——————————————————————


MDF秘密基地の地下にある広大なホール上の転送室。

そのころここでは緊急事態に見舞われていた。

その中央にある魔法陣のような円形テーブル。

そこに七色の光を放ちながら何モノかの形が形成されていく。


隊長が叫ぶ。

「転送コード、ブロックできないのか?」

MJ6のクルーが叫ぶ。

「今アンチコーデック投入中! 転送ブロック実施中です!」

それは『垂直に立つ楕円形の楕円形』の物体であった。


簡単に言えば『空飛ぶ円盤』が垂直に立っているようであった。

隊長が続ける。

「阻止できないのか?」

MJ6のクルーが続ける。

「アンチコーデック投入完了! 施工実行中。これ以上敵はこちらに転送できません!」

しかしそれは間に合わなかった。

1匹の『垂直に浮かぶ楕円形の空飛ぶ円盤』はMDF秘密基地内への逆転送が完了していた。


しばしの間。

息を呑む一同。

真樹れいが呟く。

「何が起きるの?」

その言葉が合図のように。

その言葉がスターターのように。

『垂直に立つ楕円形の空飛ぶ円盤』の中央が縦にパカッと割れ、

中にダリかピカソがデザインしたような異形の『生物』が姿を表し、雄叫びを上げる。

その雄叫びは、まるで「魔女」の雄叫びであった。

「イヤッハハハハー!」


「うわっ! なにきもい!」

真樹れいはおもわず声をあげた。

真樹れいの声に反応したのか?

真樹れい確保が目的なのか?

『縦型の貝が二つに割れて、中からダリやピカソがデザインした魔女』が出現したのだ。

不気味な雄叫びを上げる『円盤生物の魔女』の複数の目が真樹れいを捉えて離さない。

「強きモノ、いた。強きモノ、ここにいたのか。」

敵は明らかに真樹れいを狙っていた。


————————————————————————


「大変です。命綱が切られてしまいました。」

「え、まじか?」


アラシのPBSと敵攻撃体とちょうど交差した『場所』の切断された命綱が『浮いて』いる。

「切断された命綱、双方の速度が相殺されて、『現在位置に浮遊中』。

次回交差時に命綱の先端を掴めば、再接続可能。」

冷静で淡々と解説するサポートAIにブチ切れるアラシ。

「先端を掴めばって、俺の手でか?」

「そうです。」


双方の通過点でふわふわ浮いている切断された命綱。

「って、あれ掴めなかったら、俺戻れないのかな?」

「そうですね。」

「そうですねって、怖くないのかよ?」

「別に怖くありません。1が0になるだけですから。」

「まあ、お前はそうだよな。」

「あなたは怖いんですか?」

「いや、決まってんだろ!」

「じゃあ、次の接触で頑張って掴んでください。私も応援します。」

「あー、はいはい。頑張らさせていただきますよ。」


再びアラームが鳴る。

何度聞いてもいい感じがしない。

「今度は何だ?」

アラシのブチギレに淡々と報告するサポートAI。

「次の接触まであと1分。敵攻撃体の状況がある程度把握しました。

楕円形の物体で表面はとても硬い物です。火薬式攻撃は完全防御されています。」

「ってダメじゃん。次どうする?」


アラシの問いにオプションを表示するサポートAI。

「火炎系攻撃とビーム攻撃を推奨。」

なかば不貞腐れつつも意を決するアラシ。

「フルコースでやってくれ。」


これから接触するであろう小さな黒い点を凝視するアラシ。

眼前のその小さな黒い点が、ズームアップするように徐々に拡大していく。

「あと30秒で接触します。」

「いくぜ、バケモン! てめえをやっつけて、俺は元いた世界に戻るんだ。」


次の瞬間、アラームがまた鳴り響く。

「今度は何だよ、もう!」

「敵攻撃体、変形開始。『口』がオープンします。」

アラシにとってそれは絶望的であった。

楕円形の敵攻撃体。

それは『貝』が開くように、口を開ける。

空飛ぶ円盤が『パカッ』と、口を開いて二つに分かれるようであった。

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