第5話
「早く、こっち!」
ユリが呆然と立ち尽くす真樹れいの手を掴む。
そして。
「隊長! 敵は私たちが惹きつけるわ。アラシの帰還を!」
ユリの提案に隊長とMJ6のスタッフが応対する。
「わかった!」
わかった!って、こっちは何もわかっていない。
まただ。
また自分が狙われている。
真樹れいは少しだけ怖さを感じていた。
彼女にとって、恐怖を感じる事態であった。
自分は今、MDFという謎の組織の地下秘密基地にいる。
にも関わらず、敵は現れた。
異次元からの侵略者はいつ、どこへでも現れることができるのか?
これまで強気でビビることが少なかった真樹れいは久々にビビっていた。
「こっち! エレベーターで安全な場所へ逃げるわ。」
安全な場所。
そんなものあるのか?
必死に逃げる二人を円盤生物の魔女がキャハハハハと雄叫びを上げながら
走って追っかけてくる。
ホラー映画でよくあるシーンだ。
まさか自分がそれをリアルで体験するとは思わなかった。
「逃げないで〜。強きモノ。わたしたちと一緒になりましょう〜。」
まさに『幽霊が恐怖の言葉』を告げている。
普通『幽霊』が出るのは夜中か暗闇だろ?
なんでこんな近代的な秘密基地内を走ってるんだ?
呆然とユリに引っ張られる真樹れい。
「乗るわよ!」
二人は広大なエレベーターホール前に到着する。
ユリは素早くエレベーターのボタンを押す。
例によって、エレベーターが降りてくるのがとても遅い。
よくあるパターンだ。
「早く! 降りてきて!」
二人の願いも虚しく、階を降りている数字の進行が遅い。
「イヤッハハハーッ! 逃げないでこっちへ〜!」
円盤生物の魔女が走って接近してくる。
ユリはすかさず胸元とスカートの裾から二丁拳銃を取り出す。
「基地内での発砲は禁止されているけど、もうそれどころじゃ!」
ジリジリと迫る円盤生物の魔女。
二丁拳銃を構えるユリ。
それを防ぐものが現れる。
真樹れいの腕だ。
「え?」
驚いて銃を下げるユリ。
「あなた逃げて。私ムカついて吹っ切れた。私ここでヤツをやる!」
え?
え?
まあ確かに。
逃げていては答えは出ない。
今ここで逃げたところで、どうせまた敵はやってくる。
ついさっきまで自分の置かれた身に恐怖していたが、
人間はある一線を越えると正反対の行動に出ることがある。
今まさにそれだ。
見事に逆ギレした真樹れいは迫り来る相手に鋭い眼光を差し向けた。
ヒタヒタと床を歩いてくる円盤生物の魔女に対し、
真樹れいは重心を下げファイティングポーズを切った。
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それは『空飛ぶ円盤』ではなかった。
それは『貝』のようであった。
あえて言うなら『円盤生物』状兵器なのだろう。
交差接触30秒前にその姿の全貌を表した敵円盤生物。
『口』を大きく開き、不気味な触手をワラワラと蠢かせている。
まさにPBSのアラシを捕縛しようと。
「攻撃全乗せで行ってくれ!」
アラシが敵と接触直前にオーダーを出す。
「了解! 攻撃手段全開放します!」
もはや宙に浮いている命綱を掴むとかそれどころではない。
あと数秒後に10秒間だけお互いが接触できる衝突コースが進んでいる。
そしてそれは来た。
お互いが『猛スピード』で交差していく。
10秒間。
それだけが相互に接触攻撃できる時間だ。
敵円盤生物は開いた口でPBSのアラシを掴もうとする。
冗談じゃない。
こんなとことで敵に捕まってたまるか。
アラシの指示の元、サポートAIはPBSの全攻撃フォーマットを使用する。
しかし、効果がない。
お互い引き分けといった流れになる。
「次接触するのは?」
アラシが焦りながら、コースを回っていく敵円盤生物を凝視する。
「衝突接触コース、変化なし。あと2分後に再度接触します。」
サポートAIの応答を聞いて、ひたすら焦るアラシ。
どうする?
どう戦う?
どうやって命綱を手で掴む?
時間がない。
残り時間はあと2分。
限られた時間と限られた条件の中でサポートAIが答えを出す。
内容はこうだ。
・衝突コース10秒前にPBS本体とアラシを分離する。
・分離したPBS本体を敵円盤生物に向け射出発射する。
・正面衝突されることで、敵のスピードと角度が変化。
・敵とPBSは別の角度の方向へと飛んでいくはずだ。
・PBSと分離したアラシはそれと同時に制動をかける。
・PBS発射と制動により、アラシ自身はその場に停止できる。
そうすれば敵の攻撃から逃れ、アラシは命綱を掴むことができる。
ただひとつ疑問があった。
「お前は、サポートAIはどうするんだ? お前本体はPBS本体にあるんじゃないか?」
アラシの相手に気を遣った質問にサポートAIはさらっと答える。
「大丈夫です。コピー&ペーストして別のサーバーに移管するだけですから。」
アラシとサポートAIの問答は続く。
「便利だな、お前ら。」
「人間が不便だけです。」
アラームが鳴る。
もうアラシにその音の不快感は消えてなくなっていた。
「来ます。敵円盤生物、接触まであと30秒。」
「わかった! 生きて帰るぞ!」
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「まずは私が!」
ユリは自身が構える二丁拳銃を連発する。
広大なエレベーターホールに銃声が響く。
カンカンカン!
円盤生物の魔女は素早く『貝』を閉じ甲羅で銃弾を塞ぐ。
貝をチラリと開けて不気味な複数の目で挑発する円盤生物の魔女。
「キヒヒ。」
「キヒヒ、じゃねえよ!」
真樹れいが正面から足刀蹴りをお見舞いする。
蹴りが『本体』に到達する前に『貝』を閉じる円盤生物の魔女。
「逃げてんじゃねえよ!」
手刀を構え鋭い目つきで相手を睨む真樹れい。
「しばくか、こいつ。どうしよう?」
真樹れいはファイティングポーズを維持しユリに問う。
「本体、ヒョロガリで弱そうね。貝さえ閉じなければ勝てそうな気がするわ。」
ユリはブレることなく相手に二丁拳銃の標準を合わせて構えている。
何となく二人の共通のアイディアが浮かぶ。
よくある名案が浮かんだ瞬間に浮かぶ『!』の雰囲気。
二人とも同じことを考えてるんじゃないか的の空気感。
「貝を閉じさせなきゃいいのよね?」
真樹れいがニヤリと笑みを浮かべる。
「私も、そう思うわ。」
ユリがなぜかゾワゾワと勝利の予感を醸し出している。
「ならば取る方法は一つ。」
そう言って真樹れいは自身の身体を横へとゆっくりと移動していく。
「銃弾、ヒョロガリの身体にぶち込んでやるわ。」
そう言ってユリは自身の身体を横へとゆっくりと移動していく。
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攻撃&離脱シークエンスは幸いにも予定通り実行された。
交差接触まで30秒を切る。
カウントダウンが続く。
双方が徐々に接近する。
まるでズームアップされていくようだ。
なぜなら『背景』の七色の光のウエーブは何ら変化がない。
距離がありすぎ、他に見比べるモノがないからだ。
物体が急に現れ、急に消えるといった感じだ。
衝突コース10秒前となった。
予定通りサポートAIが合体していたPBS戦艦部本体を
人型プロテクターのアラシから分離射出させる。
『ミサイル』と化したPBS戦艦部本体が急速接近する敵円盤生物に激突する。
それを掴もうと触手を伸ばしていた敵円盤生物であったが、
彼からしたら予想外の攻撃だったのだろう。
猛スピードでせまるPBS戦艦部本体を掴むこともできず、直撃し慌てふためく。
ちょうど『く』の時の状態で、上への角度で敵円盤生物が、
下への角度で射出され直撃したPBS戦艦部本体がすっ飛んでいく。
それより前、強制制動をかけた人型プロテクター状態のアラシ、
付近に命綱があるかどうか必死に探す。
人型プロテクターは言わば『宇宙服』のようである。
正確には『異次元生命維持活動服』でもある。
すなわち無骨でゴツゴツして動きにくい。
自身の真後ろを見るのにさえ非常に時間がかかる。
「後ろ右斜め上に命綱を確認。」
サポートAIが淡々と報告する。
「え? どこ?」
サポートAIはAIである。
いつでも冷静だ。
だがアラシは違う。
人間である。
つい慌てふためく。
「後ろです。」
見ると切断された命綱がプカプカ浮いている。
プカプカ浮く、とは水に対しての表現だが、なぜかそれがあっている。
「えい! うりゃ!」
まるで水中をバタバタするかのように、手で必死に命綱を掴もうとする。
「ずれがあります。あと5秒以内に掴んでください。
そうしないと流れてしまいます。」
アラシの身体が『流れて』いく。
必死こいて、右手、左手と繰り返す。
あともう少し!
身体がうまく動かない!
あわゆく流されてしまいそうであったが、アラシは徐々に離れていく命綱の断面を掴むことができた。
「よし!」
アラシは断面部分を強制的に自身の切断部分に繋げる。
「どうだ?」
サポートAIが答える。
「右にちょっと回してください。ブチ切れた接続信号を繋ぐ回線ルートがわかります。」
必死なアラシはほぼブチ切れている。
「右へちょっと、ってなんだ? もっと正確に言え!」
「右に、ちょっと、です。」
もがくアラシは手に持つ命綱を少し右へ回す。
「ほら! どうだ!」
「接続完了。断線ルート回復。おめでとうございます。これで元の世界に戻れます。」
感情を表面に出さず、淡々と説明するサポートAI。
だがアラシの不満は止まらなかった。がぶつぶつと口から溢れ出る。
「デジタルなのに、ちょっと、ってなんだ。何ミリ何センチって、正確に言えよ。」
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真樹れいとユリは広大なエレベーターホールの前で
敵の円盤生物の魔女を前後に挟み撃ちにする。
だが、敵が狙っているのは真樹れいの確保である。
故に背後のユリを無視して真樹れいに襲いかかる。
だが真樹れいは武道家である。
実家の空手道場のエースである。
大人しくしているはずもない。
「きもいんだよ! おりゃっ!」
そう叫んで敵のボディに蹴りをヒットさせる。
敵への物理的攻撃が効果があることがわかる。
「しゃがんで!」
二丁拳銃を構えるユリが対面の真樹れいに声をかける。
「!」
ユリが何をしようとしているのか真樹れいはすぐさま判断し実行した。
「!」
真樹れいが身をかがみ、しゃがむ。
そこへ背後からユリが二丁拳銃のラッシュを敵にぶち込んでいく。
激しい連射。
物理的攻撃に効果がある。
ダメージを帯びた敵が振り込む怒りを込めてユリに襲い掛かろうとする。
しかし。
「お前の狙いは私だろ!」
そう言って真樹れいが敵の背後から足刀蹴りを背中にお見舞いする。
「キキャ、ヒ!」
背後から真樹れいの攻撃に怒りを覚えた敵は、本来の目標である彼女に襲いかかる。
「ユリさん!」
「わかったわ!」
次の瞬間、真樹れいが再び身をかがめしゃがむ。
真樹れいが身をかがめしゃがむ。
そこへ背後からユリが二丁拳銃のラッシュを敵にぶち込んでいく。
激しい連射。
前から後ろから。
挟み撃ちになった敵の円盤生物の魔女は貝で身を守ることも忘れ、
前後からの物理的攻撃で弱っていく。
「もう終わりにしようぜ!」
対面でメンチを切った真樹れい。
真樹れいは身を屈め、敵の円盤生物の魔女の『足』部分に、
滑り込むように足払いキックをお見舞いする。
「ギャッ!」
バランスを失った敵の円盤生物の魔女は床に倒れ込む。
自身の生身を守るため、あわてて『貝』部分を閉じようとジタバタする。
そこへすかさず手に持つ二丁拳銃を挟み込むユリ。
挟まった二丁拳銃で貝を閉じることができない。
「遅いわ! チェックメイトよ!」
次の瞬間、貝の甲羅によって守られなく、
二人の攻撃でボロボロになった敵の円盤生物の魔女本体に、
ユリは弾切れになるまで二丁拳銃の弾丸をお見舞いした。
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人類史上初めて『有人』で異次元世界で敵と交戦した『史上最大の作戦』。
MDFの秘密基地に、敵側が逆転送して本部が狙われた『史上最大の侵略』。
ともにことなきを得て終了し、平和は戻った。
だが、その平和は一時的なもの。
いつまた異次元人イビール人の攻撃がどこで起きるかはわからない。
MDF秘密基地内、MJ6のスタッフルーム。
そこに真樹れいがいた。
隊長が全員に紹介する。
「紹介しよう。彼女は今日から我々MJ6の一員となった真樹れいさんだ。
彼女は敵に狙われていることもあり、保護する名目でもあり、
それが一番の良策だと思う。」
アラシやユリの姿もある。
淡々と説明する隊長。
「今日から我々のチーム名を改めて、MJ6からMJ7に変更する。
みんなともにがんばろう。」
かくして、真樹れいは正式にMJ7/マジェスティック・セブンの一員となった。
だが彼女は実家の父親が経営する空手道場のエースでもある。
彼女の首に巻かれたマフラー。
歴戦をくぐり抜けたマフラーは結構ボロボロになっていた。
真樹れいは思った。
『今度こそ新品のマフラーを買って、早くお父さんにプレゼントしたいな』と。
完




