第2話
「起きたか。」
目を覚ます真樹れい。
なぜだか病室で寝ていた。
目の前には父親が困った表情で真樹れいを見ている。
「あれ? 私何でここにいるんだろ?」
その表情を見て父親が一安心した表情を浮かべ一息する。
「お前、河原で一騎打ちとかやめろ。道場の評判にも拘るだろ。
今はそんな時代じゃない。」
「一騎打ち?」
真樹れいは昨夜のことを思い出した。
河原でヤカラ三人組と一騎打ち。
挑戦状を送ってきやがったから、夕方の河川敷でタイマンを貼ってやったんだ。
で、それで。
あれ? それで?
その後何があった?
何かすごいことがあったと思うけど、なぜだか思い出せない。
病室内を見る。
他のベッドには誰もいない。
「ばーか。タイマン相手と同じ病室のわけないだろ。さっき無事退院したって
報告受けた。」
「私、何で? でも、おかしい。」
混乱する真樹れいに対し、父親がやさしく声をかける。
「お前らがタイマン張って、河川敷で倒れたところをパトロール中の警官が
見つけたそうだ。相手がうちの道場を侮辱してたので戦った、と言うことは、
父さん嬉しいけど、あんまり無理するな。」
久々に見た父親のやさしい笑顔であった。
もちろん道場での父親は鬼気迫る鬼の表情をうかべているのだが。
だが真樹れいは納得していなかった。
四人がタイマン張って、河川敷で倒れたところをパトロール中の警官が見つけた。
え?
そんなことあった?
なんか違くない?
必死に思い出そうとするが頭がズキズキする。
何か信じられない、とんでもない体験をしていたような気がする。
だが思い出せない。
真樹れいはモヤモヤしていた。
真樹れいは無事退院後もモヤモヤしていた。
おかしい。
なんかおかしい。
なんか落ち着かない。
気を落ち着けるため、目的も持たず街を彷徨った。
私はあの時、河川敷でヤカラ三人組とタイマンを張った。
そこまでは覚えている。
だけど。
しかし。
四人とも意識を失って倒れていたって?
パトロール中の警官に発見されたって?
バカな。
そんなバカな。
何があった?
何かが起こった?
だめだ。
思い出せない。
世の中には偶然がある物だ。
「あ。」
「お?」
「ん?」
「う?」
繁華街の一角。
行き交う人々。
見事な偶然で真樹れいはタイマンを貼ったヤカラ三人組と遭遇する。
「つ、次こそは絶対勝ってやる。」
「お互い意識を失ってるとは仕方ねえ。」
「次こそは決着つけようぜ!」
ヤカラ三人組はそうメンチを切ってそそくさとその場を去ろうとした。
「ねえ。」
真樹れいは疑問が残るのでヤカラ三人組に声をかける。
「んだよ。こっちは忙しいんだよ。」
ヤカラ三人組はちょっと真樹れいにびびっている表情を浮かべた。
「あの時、なんか見なかった? 何かこう、幽霊とか宇宙人とか。」
真樹れいの問いに勝ち誇ったように笑い出すヤカラ三人組。
「何言ってんだよ。お前頭打ったか? そんなの噂だろ?」
「キチ◯◯と関わってるとこっちまでおかしくなるぜ。」
「もう二度とオメーとは関わりたくねーや。」
そう捨て台詞を吐いてヤカラ三人組は早足で立ち去った。
彼らが真樹れいを前に逃げて行ったことはわかる。
だがその行為にイラつかなかった。
いつもだったら『あんだって? ちょっと待てや』と追いかけるのだが。
幽霊とか宇宙人とか。
自分でそう口走った。
確かにおかしい。
なんでそんな言葉が出る。
確かにそんな噂があるにはあるが。
冬の木枯らしが吹き抜ける。
「寒!」
あたりを見る。
季節はそろそろ秋から冬。
街は徐々に季節の変わり目を演出していた。
「なんかお父さんに迷惑かけちゃったな。」
首筋を吹き抜ける冷たい風。
「そうだ。お父さんに何か買って行こう。心配かけたし。」
そう言って先ほどのことをその場に捨て去り、真樹れいはショッピングモールへと向かった。
ビルとビルの隙間。
人ひとり、通り抜けるのも無理な空間。
そこの空間が『裂けて』異次元空間のドアが開く。
『裂けた』空間に、七色の光が波打つ『世界』が垣間見える。
「強きモノ。強きモノが必要だ。」
七色の光が波打つ異次元空間のドアから、モゾモゾと長い黒髪だけの集団が湧き出てボトボトと落ち、地面を不気味に張っていく。
雑踏の中、歩く二人の男女。
共に黒スーツで身を固める男女である。
二人の腕時計に同時にアラーム音が響く。
「異空間破断反応だ。」
「そうね。この付近ね。警戒しましょう。」
「何にしようかな?」
真樹れいはショッピングモールを歩く。
父が経営する空手道場のエースであり、つい最近、男のヤカラ連中とタイマンを
張った『猛者』ではあるが、この時ばかりは『女の子』の表情を浮かべていた。
「寒くなったし、マフラーかな?」
そう言ってショッピングモールを楽しそうに歩く。
お父さん、何が似合うかな? これなんかどうだろう?」
候補の商品を手に取り、その姿を想像したりしている。
人々が行き交うショッピングモール。
「強きモノ。強きモノが必要だ。」
長い黒髪だけの塊が建物の配管を伝って侵入する。
「ありがとうございましたー。」
真樹れいは父へのプレゼントが入った包装紙を両手で大事そうに抱える。
「お父さん、よろこんでくれるかな? 似合うかな?」
真樹れいとはいえ、さすがに女子である。
顔を赤めて、プレゼントであるマフラーを父が首に巻く姿、喜ぶ姿を想像する。
ほわほわしてショッピングモール内を歩く真樹れい。
一筋の冷たい風が吹き、あたりが急速に寒くなる。
「えー、暖房切れたの? もうすぐ冬なのに、それはないっしょ。」
気がつくと店内が暗い。
ショッピングモール全体が薄暗くなっている。
「あれ? なんで? さっきまで明るくて人がいっぱいいたのに?」
父へのプレゼントであるマフラーが入った包装紙を両手で大事に抱える真樹れい。
「入れた?」
「間に合った。」
黒スーツで見を固めた男女2名。
河川敷で『宇宙人』の如く、真樹れいたちと共に戦ったアラシとユリである。
「このショッピングモールを異次元閉鎖したようだ。ターゲットはやはり。」
「あの子ね。」
そう言ってアラシとユリは警戒しながら異次元閉鎖されたショッピングモールを歩く。
「すみませーん、誰かいませんか?」
誰もいないショッピングモール。
不安になりながらあたりを歩く真樹れい。
すると。
奥の方でたくさんの人影が見える。
「あ、良かった。人がいた。
何でこんなことになってるんだろう? サプライズかよ。」
一安心して、こちらに向かって歩いてくる人影に近づく真樹れい。
だがそれは、人ではなかった。
「え?」
ショッピングモール内が薄暗くてよく見えない。
逆光の中、目を細めてこちらに歩いてくる人影を目視する。
「何?」
一つ目の大量のマネキン人形が、まるでロボットの如く行進している。
「え? え? 何? きもい!」
驚いてあわてて後退りする真樹れい。
だがその背後にも、一つ目のマネキン人形が、まるで軍隊のようにこちらに向かってくる。
「強きモノ、我のもとへ来い。」
「強きモノ、こちらにくるが良い。」
「イヒヒヒヒ。」
無数の1つ目マネキン人形が前後左右から真樹れいへと襲いかかる。
「え? 冗談じゃないわよ! 何でお化けの仲間なんかに!」
そう言って空手道場のエースの真樹れいは手足の物理攻撃で撃破する。
ただっぴろいショッピングモールを駆け抜け、逃げ場を探す真樹れい。
しかし上の階も、下の階も、一つ目マネキン人形だらけだ。
それらが邪悪な笑い声を上げて真樹れいを捕まえようとする。
真樹れい自身がいる階にも、一つ目マネキン人形が迫る。
薄暗いショッピングモールの中、わずかに見える一つ目マネキン人形はまさに『お化け』そのモノだ。
「どこだ?」
「ターゲットのあの子はどこだ?」
まさに異空間の迷路と化したショッピングモール。
そこが異次元と融合したかのように、歪んだり、邪気のモノの身体が突出している。
敵のターゲットとされた真樹れいを確保して守るため、黒スーツで身を固めたアラシとユリは『変化』したショッピングモールをひた走る。
すると。
「イヒヒヒヒ。」
「ホホホホホ。」
あたりの配管から湧き出てくる、長く細い黒い髪の数々。
やがてそれは一か所に集まり、渦を巻き集合体となって宙を舞う。
「出たわ!」
「こいつがコアか?」
不気味な雄叫びをあげて宙を渦巻く細く長い髪の毛の集合体。
その渦の中心からまるで、するどい針のような毛で攻撃してくる。
「このままではダメだ。」
「強攻武装装甲を!」
アラシはユリの提案に頷く。
二人とも攻撃を避けながら、左手の腕時計と右手の手袋を交差させる。
「強攻装備、実行!」
二人が来ている黒スーツが破けて弾ける。
二人のアンダースーツにまるで武器装甲が転送され物理構築されたかのように光が走る。
「アンダープロテクト構築完了。」
第3者の声が響く。
それはアラシとユリたちをサポートするサポートAIの声であった。
一部はキラキラと光を放ち、一部は点滅を繰り返す光点。
身体を、頭部を守るプロテクター。
それはまるで『宇宙人』のようにも見えた。
「ちょっとやめて! いやよ!」
一つ目マネキン人形の集団が上から下から前から後ろから襲いかかる。
冷たくも光る一つ目マネキン人形の長い腕が指が真樹れいの身体を犯し始める。
空手道場エースの真樹れいも一応女子である。
か弱くも優しい女の子の恥じらいの表情を浮かべている。
「あ、ちょっと、それやめて!」
一つ目マネキン人形の長い腕長い指が、真樹レイが買った父のためのプレゼントを
掴み掛かる。包装紙はビリビリに破かれ、プレゼントであるマフラーが露出する。
真樹れいのスイッチが入る。
「てめーら、やめろっつってんだろ!」
父のプレゼントであるマフラーだけは奪取する真樹れい。
「おめーら、許さねーからな!」
父へのプレゼントであるマフラーを器用にくるくると回転させ、
自分の首に巻きファイティングポーズを切る真樹れい。
彼女の戦いのスイッチが今、はいった。
「てめえらふざけんな! キモいんだよ!」
真樹れいの足刀蹴りが一つ目マネキン人形集団の胸部を突き抜ける。
「こっち見んな! しゃれこうべ野郎!」
真樹れいの正拳突きが一つ目マネキン人形集団の頭部を突き抜ける。
バラバラと崩壊する一つ目マネキン人形の手と足を二刀流のようにかざし、
襲いかかる一つ目マネキン人形を薙ぎ倒していく。
まさに『力は正義』である。
バラバラに積もった一つ目マネキン人形のパーツを一まとめ、
両手で持ち上げて戸惑う一つ目マネキン人形の集団に投げつける。
「うちの空手道場のエースの私を舐めんなよ!」
効果音的にまさに『どんがらがっしゃーん』が最適解である。
バラバラに破壊を尽くされ複雑に絡み合った一つ目マネキン人形のパーツがジタバタしている。
「強きモノ、強きモノ。く〜。」
「ふん!」
勝利が確定し、鼻から息を吐き、マフラーを直して見下ろす真樹れい。
「イヒヒヒヒ。」
黒く長い髪の毛の渦が宙を舞う。
その中心には充血した巨大な一つ目。
先ほどの一つ目マネキン人形の親玉のようだ。
強攻装甲で身を固めたアラシとユリが長く黒い髪の毛に身体を巻かれて苦戦している。
「う、動けないわ。」
長く黒い髪に縛られたユリの下に大型バッテリーが落ちている。
「く、苦しい。」
同じく動けないアラシの足元に大型ブラスターが落ちている。
そこへ真樹れいがやってくる。
その光景を見た真樹れい。
「あ、お化けと宇宙人。」
『宇宙人』の姿を凝視する真樹れい。
ふと思い出す。
「あ! あん時の宇宙人! 河川敷で『手のお化け』をやっつけたやつ!」
長く黒い髪の毛に巻かれて身動きが取れないアラシとユリ。
「記憶、思い出したんか?」
「記憶抹消剤、効かなかったの?」
ショッピングモールの吹き抜け、真樹れいは見下ろして声をかける。
「助けてやろうか?」
その提案にアラシとユリ。
「逃げろ! こいつは君を狙っている!」
「あなたじゃ勝てないわ! 早く逃げて!」
必死の二人の問いに不満の表情を浮かべる真樹れい。
「動けないのに何言ってんだ?」
真樹れいの存在に気がついた長く黒い髪の毛渦の一つ目。
「強きモノ、我と共にこい。」
そう言葉を告げて、長く黒い髪の毛を触手のように伸ばしていく。
「冗談じゃないわよ! なんか武器、ないかな?」
ここはショッピングモール。
探せば武器になりそうな物はあるはずだ。
「ちょっと待ってて!」
そう言って真樹れいは長く黒い髪の毛の触手をかわし、付近のショップを漁る。
ブイーン!
真樹れいはチェーンソーを両手に仁王立ちする。
エンジン全回、鋭い歯が超速度で回転する。
何かの海外ホラー映画であったような。
アニメになったマンガであったような。
「いくぞ! どりゃあー!」
真樹れいは女子高生である。
一応か弱き女の子である。
だが彼女は父の空手道場のエースである。
不良ヤカラ半グレはこれまで撃破してきた。
まあそれを『ヤンキー女』と呼ぶのかもしれないが。
『幽霊』や『お化け』など信じてはいない。
だが、自分の眼前にそれがいるのだが。
ジャンプ一発、まるで『宇宙人』のような姿をしたアラシとユリに絡んでいた黒く長い髪の毛を切断する。
「どうだ! 助けてやったぞ、宇宙人!」
「いや違うから。」
自由になったアラシ、そう言って地面に落ちた大型ブラスターを手に取る。
「ありがと。助かったわ!」
自由になったユリ、そう言って地面に落ちた大型バッテリーを手に取る。
「接続したわ!」
アラシが構える大型ブラスターに大型バッテリーの端子を接続するユリ。
「ありがと!」
夜中なのにサングラス?
薄暗いのにサングラス?
アラシはそばに立つ真樹れいに声をかける。
「目を瞑れ、光を見るな。」
あ、そう言う事。
ちょっと納得。
そう思って真樹れいは目を伏せた。
「チャージ完了! 敵の目を狙って!」
ユリがアラシの背後で指示を出す。
「了解! 爆裂ブラスター、発射!」
強力な閃光が走った。
確かにサングラスいるよな。
でも、サングラス程度でこの閃光は目にきつくね?
真樹れいはそう思った。
だがアラシとユリが目にかけているサングラスは『サングラス』ではなかった。




