第38話
ソフィア・メルローズの自白は、別室での聴取で続けられた。
国王陛下の命により、私も検分役として同席した。衛兵に挟まれて座る彼女は、純白の衣のまま、憑き物が落ちたように小さく見えた。
「……物心ついたときには、救貧院にいたわ。親の顔は知らない」
ぽつり、ぽつりと、彼女は語った。
この目の力に気づいたのは、十を過ぎた頃。目を見て願えば、大人は施しをくれた。叱られる前に、忘れてくれた。生きるための、たった一つの道具だった。
「十六の年、あの人の使いが来たの。『その目を見込んで、良い暮らしをさせてやる』って。男爵家の養女になって、行儀作法を仕込まれて、それで言われたのよ。――『聖女を演じろ』って」
「演じろ、と。浄化の力がないことを、先方は承知の上で?」
「承知も何も、それが条件だったもの。本物の力なんて要らない、輝いて見えればいい。測定の日も、儀式の日も、段取りは全部あちらが整えてくれた。私はただ、言われた場所で、この目を使うだけ」
彼女は乾いた声で、少しだけ笑った。
「ねえ、先輩。私、最初は怖かったのよ。でも誰も見抜かないんだもの。神官様も、貴族様も、王子様も。みぃんな、キラキラしたものの方を信じるの。……途中から、馬鹿らしくなっちゃった。本物のふりって、こんなに簡単なんだって」
「その『あの人』の名を」
陛下の問いに、彼女は初めて長く沈黙した。恐怖と、諦めと、それから捨て鉢な何かが順に顔をよぎり、最後に、彼女は吐き出した。
「……宰相様よ。ギデオン・クロス。私を拾って、聖女に仕立てて、そして水がおかしいと気づいたときに口をつぐめと命じたのも、全部、あの人」
書記の羽根ペンが、その名を記録に刻んだ。
後日、彼女の処遇を巡る評定が開かれた。
罪状は重かった。聖女の詐称、儀式の偽装、魅了による神官・貴族への働きかけ、そして毒と知り得た後も聖水の停止を進言しなかったこと。厳罰を求める声が、当然のように大勢を占めた。三百人が死んでいるのだ。
発言を求められた私は、少し考えてから、口を開いた。
「彼女の罪は、問われるべきです。詐称も、偽装も、沈黙も、事実です。三百の死の一端に、彼女の目があったことも」
広間が頷く。私は続けた。
「ただし、一つだけ。量刑の秤に載せる前に、罪を正しく切り分けていただきたいのです。聖女制度を欺く計画を立てたのは、誰か。測定を偽装できる神殿の腐敗を作ったのは、誰か。孤児の少女の目を『使える道具』と値踏みして拾い上げたのは、誰か。……彼女は偽物の聖女です。ですが、偽物を作った工房は、別にあります。彼女一人に全部を負わせて幕を引けば、その工房は、次の偽物を作るだけです」
「……彼女を、庇うのか。そなたを陥れた片割れであろうに」
「庇いません。切り分けてほしいだけです。彼女の罪は彼女の分だけ、彼女を作った人間の罪は、その人間の分だけ。それが正しい帳簿というものです」
評定の間が、静まり返った。
被告席のソフィアが、ゆっくりとこちらを見た。何か言おうと口が動き、言葉にならず、そして――彼女の目から、涙が落ちた。
魅了の光のない、ただの、濁った涙だった。演技の道具だった目が、生まれて初めて本来の仕事をしているみたいに、ぼろぼろと。
彼女の処分は、身分剥奪の上、辺境の修道院での終身の贖罪労働と決まった。極刑を免れたのは、主犯格の告発への協力が認められたためだった。
その夜、宰相府の奥。
報告を聞き終えたギデオン・クロスは、暖炉の前で長いこと動かなかった。やがて、乾いた指が鈴を鳴らした。
「……ならば、仕方あるまい。あの薬師ごと、消すまでだ」




