第32話
翌日の会談の間には、昨日と同じ顔ぶれが並んだ。
違うのは、卓の中央に置かれた一綴りの書面だった。表紙にはこうある。『王都疫病対策一式 御見積書 薬師工房ヴァルデン』。
「ご説明します。内訳は四項です」
私は一枚目をめくった。
「第一項、解毒薬の供給。王都の患者数の推計から算じた必要量、その材料費、調薬の人件費。薬価は隣国レンドル王家に納めた際の実績価格を基準にしています。国際的な、市場の相場です」
随員たちが数字を目で追い、顔色を変え始めた。
「第二項、王都地下水源の浄化施工。病の根本原因は水源です。ここを処置しない限り、何度でも再発します。特殊な作業ゆえ、施工できるのは世界で私一人。よって言い値です。とはいえ良心的に、第一項と同額に留めました」
「み、水源が原因だと? 病の原因は瘴気だと医師団は」
「その医師団は三百人を救えなかった。私は北の地で同じ病の患者を百人救っています。診立ての値段も、成果で決まるものかと」
三枚目をめくる。
「第三項、薬師団の派遣費と、王都での施療体制の構築費。私の弟子と協力薬師を連れて行きます。彼らの安全の保証と、相応の報酬。ここまでが、今回の仕事の代金です」
私は一拍置いて、最後の一枚をめくった。
「そして第四項。――過去五年間、王家の食卓に対して行った検毒業務の、未払い報酬」
場が、凍った。
「な……なんの話だ」
「記録をお配りします。聖女在任中の五年間、私が王家の食事から検出し、無害化した毒物の一覧です。日付、料理、毒の種別、推定された致死性。計十七件。うち殿下のお皿が、六件」
ラウル殿下の顔から、血の気が引いた。配られた写しを持つ手が、震えている。
「私の職分は祈祷と儀式でした。検毒は職分外の、誰にも命じられていない仕事です。報告もしました。『力の弱い聖女の妄言』と一笑に付されましたので、以後は黙って続けました。……職分外の業務には、対価が支払われるべきです。五年分、利子はつけません。良心的でしょう?」
随員の誰かが、呻くような声を漏らした。昨日「薬師の分際で」と言った男は、一覧の日付の一つを指でなぞったまま、蒼白になっていた。おそらく、心当たりのある晩餐の日付だったのだろう。
「これは……この毒の一覧は、本当なのか。僕は、五年間、こんなに」
「疑うのはご自由に。ただし第四項を否認なさるなら、この一覧を『王家は五年間で十七回毒殺されかけていた』という事実ごと、公に検証する場を設けていただきます」
誰も、何も言えなかった。
「最後に、金銭以外の条件が三つ。一つ、本契約はヴァルデン辺境伯領を経由する正式な国家契約とすること。二つ、神殿による聖水の配布を即時、全面停止すること。あれは毒です。三つ――七年前の私の聖女測定記録を、王家と神殿から独立した第三者の立ち会いで、再検証すること」
「……再検証」
「ええ。私の追放の根拠となった記録です。正しさに自信がおありなら、拒む理由はないはずです」
長い、長い沈黙のあと、ラウル殿下は書面に目を落としたまま、掠れた声で言った。
「一つだけ、聞かせてくれ。……これは、復讐か」
私は少し考えて、首を振った。
「いいえ、殿下。請求です」
「請求……」
「ええ。あなた方は、目に見えないものの価値を信じない。祈りも、誠実も、五年の無償の仕事も、数字にならないものは無価値だと切り捨てる。ですから今回は、あなた方の言葉に翻訳して差し上げただけです」
私は見積書の総額を、指先でとん、と示した。
「対価のあるものなら、信じられるのでしょう? 殿下」




