第13話
納品の商隊、と一口に言っても、城に出入りする荷は膨大だった。
穀物、酒、蝋燭、布、鉄。私はカイン副官と手分けして、この三月の納品記録を洗い直した。荷そのものに毒はない。あれば私が搬入口で視ている。問題は、荷ではなく――荷と一緒に運び込まれる「機会」だった。
「荷下ろしの間、納品人と城の者が言葉を交わす。書き付けの受け渡し、釣り銭、世間話。紙一枚、薬包一つなら、いくらでも手から手へ渡せます」
「つまり商隊は運び屋で、受け取る奴が城内にいる、と」
「ええ。そして受け取れる立場は限られます。搬入の立ち会いは、執事方の職掌ですから」
カイン副官の軽薄そうな顔から、すっと表情が消えた。執事方は城の古株揃い。疑うことそのものが、城の背骨を疑うことになる。
「……閣下に上げる前に、確証がほしいな」
「なら、罠を張りましょう。次の納品日、私は『所用で街に下りる』と厨房で話しておきます。毒見役の目がない日を、向こうは逃さないはずです」
五日後の納品日、私は朝から城を出た――ふりをして、搬入口を見下ろす二階の窓の内に潜んだ。隣にはカイン副官と、口の堅い騎士が二人。
荷馬車が着く。荷が下ろされる。立ち会いの執事補佐が書き付けを検め、納品人と二言三言。ごく自然な所作で、書き付けと一緒に小さな包みが袖へ消えた。
「……見たか」
「見ました」
執事補佐のロヴェル。この城に二十年仕える古株で、十年前のあの晩餐の夜も、城にいた男だった。
取り押さえたのは、彼が包みを厨房裏の塩壺に沈めようとした、まさにその瞬間だった。騎士に両腕を固められたロヴェルは、暴れもせず、ただ薄く嗤った。二十年、この城の廊下を磨き上げてきた顔のまま。その落ち着きが何より不気味だった。捕まることすら、織り込み済みだと言わんばかりの。
「これはこれは。毒見役どのは街に下りたはずでは」
「あなたの言う通りにしてあげる理由がありませんので」
包みの中身は、乳白色の粉だった。視るまでもなく分かる。晩餐会の蜂蜜に溶けていたのと同じ、金色に化ける遅効毒の原体。
地下の詰め所での尋問に、私も検分役として立ち会った。ロヴェルは雇い主の名を吐かなかった。ただ、閣下が自ら問いに立ったとき、初めて感情らしいものを見せた。嘲りだった。
「お若い閣下。おやめなさい。あの方々に逆らって、この国で生きられるとお思いか」
「あの方々、と言ったな。複数か」
「さて。……ああ、それと閣下。十年前は、惜しいことをしましたなあ。熱など出さずにおれば、ご家族お揃いで逝けましたものを」
空気が、氷になった。
剣の柄にかかった閣下の手を止めたのは、私の声だった。
「閣下。この男の挑発は自白です。それより、物証の方が正直です」
私は押収した毒の粉を燭台の灯りにかざした。
「この毒、視れば作り手の癖が分かります。素材の選び方、組成の編み方、痕跡の消し方――職人の筆跡のようなものです。そして、この筆跡」
一度、息を整えた。言葉が、この人の十年に触れるのが分かっていたから。
「城の記録庫で、十年前の事件の検死録を読ませていただきました。ご一家を害した毒の症状は、この毒と完全に同じ設計思想です。断言します。十年前の毒とこの毒は――同じ調毒師の手によるものです」
ロヴェルの嗤いが、初めて凍りついた。
ジークハルト様は長いあいだ動かなかった。やがて絞り出された声は、静かで、底が見えないほど深かった。
「……続けてくれ。全部だ。分かることの、全部を」




