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032~輝くあなたが旗印~

 本日1話目の投稿です。

 読み飛ばしにご注意ください。

 5階層の安全地帯で十分に休憩をとり、アリスとともに普段通りにダンジョンから街へと戻ると、既に空には太陽が登っていた。

 道中でアリスの戦闘を見ていたのだけど、槍を振るい魔物を撃ち倒すその姿からは心が折れたことへの恐怖は見て取れなかった。戦闘で心が折れたあとは戦闘が怖くなることもあるから少し心配だったのだけど、この様子なら大丈夫そうね。

 ……それに、今度は守りきってみせるから。

 さて、まだ疲れが残っているので宿に戻るか迷うところだけど、ここはギルドに寄るべきよね。そう、ステータスを見るのが楽しみなの。

 

「アリス。私はギルドに寄っていこうと思うのだけど、あなたはどうする?」

 

「ステータスの確認をしておきたいから私も寄っていく」

 

「それじゃあ行きましょう」

 

「うん」

 

 ギルドへと足を進める中、胸がドキドキするのを感じる。

 強敵を倒した際にランクが上がることが多いと聞いている。今回、私は銀狼を倒せなかったからそれは関係ないのだけど、強敵と戦い負けてしまっても良い勝負をできていた場合はランクが上がることがあるとも聞いたことがある。噂の域をでないものだけど、それでも期待してしまう。

 何せウルフリーダーよりも遥かに格上の銀狼を相手に、良い勝負ができていたのだから。

 ……そういえば銀狼は誰が倒したのかしら。気絶していたアリスではないと思うから、きっと通りかかった上位の冒険者が倒してくれたのね。

 

 

 

「エルピスさん、アリスちゃんが危険なことをしませんでしたか?」

 

「しました」

 

 アリスのステータス確認が終わり、私が席についたところでこの言葉。アリスは何を言ったのかしらね。

 

「やっぱりですか……。本人は『気のせい。危険なことはしていない』と言っていましたが、ステータスが上昇しすぎているのです」

 

「きっとスキルの影響もあるのでしょうね」

 

「いえ、強敵と戦ったから大幅に上昇したのだと思いますよ。それにしても、一体何と戦ったのですかね……」

 

 ダッキさんは表情を変えず平然と私の言葉を否定した。

 そういえば、ダッキさんにアリスのスキルを知ったことを伝えていなかったわね。

 

「ダッキさん、アリスのスキルについては既に知っています。ある方から聞きました」

 

「……サイレント・エリア。これで音は漏れません。スキルの利点を答えられますか?」

 

「苦難を乗り越える者に対して、苦難に陥っている際の成長率の上昇をもたらします」

 

「……誰から聞きましたか? ギルド内部から漏らした人物がいる可能性がありますので、可能ならば調査に協力してください」

 

 可能ならばとは言っているが、ダッキさんの真剣な表情は必ず答えさせると語っているように思える。

 アリスにはリアから聞いたと既に伝えていて、その時の反応からアリスがリアに伝えていたのだと思っていたのだけど違ったのかしら。

 

「少し失礼します。アリス、来てくれないかしら?」

 

 ダッキさんに断りをいれ、振り向いてアリスの名前を呼びつつ手をこまねく。

 本当は私がアリスの元へ行くべきなのだけど、この状況で私が移動するのはあまりよくない。私だけならまだしも、アリスやリアが疑われる可能性がでてきてしまう。

 

「何?」

 

 すぐに来てくれたアリスの耳元に口を近づけ、できるだけダッキさんに聞こえないように小声で問いかける。

 

「突然ごめんなさい。スキルに関してだけど、リアにはあなたが伝えたのではないの?」

 

「……こちらの説明不足だった」

 

 呟くようにそう言ったアリスはダッキさんの方へと身体を向けた。

 

 「ダッキ、リア姉には私のステータスに関してスキルの詳細まで閲覧できる許可を出している。ギルド職員から漏れたのではなく、リア姉にスキルの詳細を含む私のステータスを閲覧できる権利が存在しているだけ。あなたは気にしなくてもいいし、気になるのならギルド長に聞いてみるといい」

 

 アリスの説明を聞いたダッキさんは困惑した表情を浮かべた。

 アリスが嘘を付いているとは思えないけど、容易に信じていい言葉ではないから仕方ないと思う。

 

「……さすがに確認しますね」

 

「うん」

 

 アリスに断りを入れたダッキさんはすぐに立ち上がり、奥へと駆けて行った。

 それにしても、許可があったとしても他人のステータスをギルド職員以外が閲覧できるものなのかしら。確か今は専用の端末以外ではステータスの確認をすることはできないはずだけど……いえ、そういえばリアはギルドのものとは違う端末で私に見せてくれていたわね。もしかしてギルドの関係者なのかしら。

 でも、そうなるとダッキさんが知らないのは不思議に思えるわね。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 少しして戻ってきたダッキさんの表情には僅かに怒りが含まれているように見える。

 

「私の落ち度です、申し訳ありませんでした。確かに聞いていた内容だったのですが、まさかその時点でギルド登録していなかった方も対象にしているとは思いませんでした……」

 

「ダッキ、気にしなくていい。大雑把なあの子が悪い」

 

「そうですね、私も少し怒っています」

 

 ダッキさんの素敵な笑顔はいいとして、アリスが示したあの子とは誰か少し気になる。きっとアリスより年下のギルド関係者よね。

 

「無事解決できて良かったです。不用意な発言をしてしまい失礼しました」

 

「いえ、エルピスさんは悪くないです。悪いのは私達に伝えなかったギルド長です」

 

 あの子が示す相手がギルド長だとして、懸念すべき点は堕神かしら。ここのギルド長の姿は見たことがあるけど、どう考えても今のアリスより年上だった。大抵の人が限界まで若返っているから、2人とも若返っていると考えるべきよね。

 そうなると、アリスが実はかなりの年……いえ、ダッキさんがちゃん付けで呼んでいるのだから見た目通りの少女のはず。

 アリスが巨人族の可能性もあるけど……それでは巨人の国が発表しているステータスに関する情報が間違っていることになる。例外と考えてもいいのだけど、それは最終判断。

 つまりアリスがギルド長の師匠的な存在だったら解決するわね。今はそう考えておいて、機会があれば聞いてみましょう。

 

「少し慌ただしくなりましたが、エルピスさんのステータス確認を開始しましょう。アリスちゃん、こちらの事情で呼び出して申し訳ないけど、もう1度あちらの椅子に座っていてもらえるかな?」

 

「いえ、アリスも一緒に見ましょう。ダッキさん、構いませんか?」

 

 これから固定パーティを組むのだから、アリスには私を知っておいてほしい。

 

「構いませんが……もしかして、固定パーティを組まれるのですか?」

 

「アリス、言っていなかったの?」

 

「うん」

 

 私の言葉に頷くアリスは無表情のまま。

 アリスが伝えていると思って油断していた。

 

「……まあ、そういうことです」

 

 でも、よく考えて見ればアリスが伝えていたならばさっきの騒動は起きなかった可能性が高いのかしら。ダッキさんは固定パーティ相手でも伝えるべきではないと言っていたけど、アリスが同じ考えだとは限らないものね。

 

「そうでしたか、それは嬉しい知らせです」

 

 本当に嬉しそうな表情を浮かべたダッキさんを見て、私も嬉しくなる。

 たとえ仕事だとしても、心配される存在であることは嬉しいもの。

 

「そうだ、エルピス。ちょうどいいからクラスタを作成しよう? そうすればダッキも安心する」

 

 てっきりアリスはアリサさんのクラスタに所属すると思っていたからこの提案には少し驚いたけど、確かにダッキさんを少しだけ安心させられる。ダッキさんは私達以外でも色々と苦労していそうだから、安心させてあげたいものね。

 

「それは良い考えね」

 

 それにしても、アリスをリーダーとした小さなクラスタを2人で育てていく……ワクワクするわね。憧れの英雄も最初は数人のパーティから始まったらしいから、この感情はその影響が大きいのかしら。

 

「私はリーダーに向かないから、エルピスがリーダー。これで結成しよう」

 

「え?」

 

 予想外の言葉に、思わずアリスの顔を見つめてしまう。

 旗印となるなら私よりも強く、可愛いアリスが最適だと思う。それに人脈もアリスのほうが大きいはずよ。

 

「大丈夫。リーダーが抱える欠点の1つである、クラスタ加護を受けられないことは解決している。さっき成長したスキルで私があなたに加護を与えられるから、安心して?」

 

「違う、クラスタ加護はどうでもいいの……。アリスは、私が旗印でいいの?」

 

 クラスタ加護に関しては完全に忘れていたけど、大切なのは同じ目的をともにする旗印が私でいいのかどうか。クラスタとはつまり、リーダーの目的を叶えるための集団なのだから。

 

「輝くあなたが旗印。もっと輝く姿を私に見せて?」

 

 ……。

 アリス、私はあなたの方が強く輝いていると思う。それでも、あなたが輝いていると言ってくれるのなら、もっと輝けると言ってくれるのなら、私はもっと輝けると思うの。

 

「ええ。もっと輝いてみせるから、近くで見ていてね」

 

「うん、期待してる」

 

 まったく、アリスの言葉は毒かもしれない。こんなにも私の足を進めさせるのだから。

 それでも、その毒はいつか抗体となるのでしょうね。数多の苦難を乗り越える抗体と。

 

 

 

 ステータスの確認を終えてから奥の部屋に移動し、ダッキさんに説明を受けつつクラスタ結成の儀式を行った。まあ、クラスタを結成するメンバー全員で魔法陣の上に乗ってキーワードを唱えるだけだったのだけど。

 そしてダッキさんと別れアリスと2人、ティアさんの店に向かって歩いている。

 

「エルピス、クラスタを結成したね」

 

「ええ」

 

 今の私はとても良い気分ね。いえ、ここ最近は良い気分なことが多いわね。

 これも皆アリスのおかげ。アリスと出会ってからすべてが動き出した。

 私の隣を歩くのは小さくも強く、そして何よりも不思議な少女。

 不思議で強力な魔法を扱えるのに、戦闘ではあまり魔法を使わない近接型。

 ランク6のアリサさんやギルド長と対等以上の知り合いに見えるけど、本人はランク1。

 それでいて甘い物を食べている時などの表情はとても可愛い。

 そんなことを考えていると、横を歩いていたアリスが突然前に回りこんできたので足を止めて、アリスの顔を見つめる。

 

「それじゃあ、あらためて。私の名前はアイリス・ノルン。これからもよろしくね、エルピス」

 

 笑顔を浮かべたアリスはそう言い、右手を差し出してきた。

 そういえば私はアリスからフルネームを聞いていなかったわね。そしてまた、私もアリスにフルネームを伝えていない。

 

「私の名前はエルピス・ペルセウス。こちらこそよろしくね、アリス」

 

 差し出された手を右手で握り返す。

 きっと私は今、良い笑顔を浮かべているのでしょうね。だって、こんなにも嬉しいのだから。

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