029~VS希少個体『銀狼』5
本日6話目の投稿です。
読み飛ばしにご注意ください。
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エルピスは跳びかかってきた銀狼を剣で迎え撃ち、接触する直前に魔力爆発を発生させる。
再び木へ吹き飛ばされた銀狼は同じように地面へと落ちる前に木の側面を足場にして跳ぶが、その先に存在するのはエルピスではなく別の木から伸びる大きめの枝であり、器用にその上へと着地した。
銀狼を吹き飛ばしたあとすぐに追いかけ始めたエルピスだが、銀狼が飛び去った次の瞬感には移動先を銀狼が着地した木へと変えていた。
目下に迫るエルピスを見下ろす銀狼は近づけば危険と判断したのか、あるいは何かの時間を稼いでいるのかその場を動かない。そしてエルピスが木へと肉薄し、剣を大きく腰溜めにしたところで枝をしならせ跳び上がった。
宙を進む銀狼の真後ろで連続して衝撃が発生する。それはエルピスが剣から小さな魔力爆発を連続して発生させ、木を切断した結果として発生した衝撃。剣の長さが足りず両断とはならなかったが剣を振りきったところで勢いそのままに僅かに跳びつつ回し蹴りを放ち、その足が木と接触する直前に両足の踵から魔力爆発を発生させた。
轟音とともに僅かに吹き飛びつつも倒れた木を背後に、エルピスは爆発の衝撃を利用して高い枝に乗っている銀狼へと迫る。
その速度は銀狼が枝へ跳び移った速度を上回り、着地した直後の銀狼はすぐに地面へ降りようとしたが焦っていたのか、エルピスの進行方向と同じ方向へ跳んでしまった。
枝のすぐ下を通り抜けたエルピスは手に持つ剣を下へ向け、僅か下を下降している銀狼に肉薄する。
銀狼は空中で僅かに身を捩るもエルピスの剣から逃れることはできず、触れた剣から魔力爆発の直撃を受けた。
銀狼の方向だけに向けられたその爆発は銀狼を大きく吹き飛ばし、木の幹へ打ち付ける。
銀狼にとって幸か不幸か強い衝撃を受けた木は倒れ、エルピスはその先の木へと飛んでいく。
エルピスが次の木へ飛んでいく間に銀狼は震える足で立ち上がろうとするが、しっかりと立っていることはできていない。さきほどのダメージはそれ程に大きなものだった。
それでも、木の側面を足場にエルピスは再び銀狼へ迫り、先ほどと同じく剣を触れさせて魔力爆発を起こす。
しっかりと立つことすら困難な銀狼がそれを避けるすべはなく、再び吹き飛ばされた銀狼は木々の合間を飛んでいく。
僅かさえも身体を動かさない銀狼の開いた口からは、弱々しい音が僅かに漏れた。まるで勝利することを諦めたかのようななき声が。
リィィン。
そんな時、森へ鈴の音が響く。それは小さな小さな音だが、確かに響いた。
そして次の瞬間、森へ"強力な"遠吠えが響く。まるで鈴の音に応えるように、強く、強く。
地面へと叩きつけられ、抉り取りながらも停止した銀狼はゆっくりと、それでもしっかりと立ち上がり空を仰いだ。
その瞳は直前とは打って変わって力強さを感じさせるものであり、その口からは再び強い遠吠えが放たれる。
その様子に魔力爆発を利用して再び銀狼に迫っていたエルピスは足を止めた。
エルピスの視線の先では銀狼が薄いながらも半透明で赤いオーラをその身に纏う。その様子はエルピスとアイリスが出逢うきっかけとなった魔物とよく似ており、そのこともあってか足を止めたエルピスはその場で剣を構えた。
ゆっくりと振り向いた銀狼。視線を合わせるエルピス。
次の瞬間、銀狼はエルピスの手に持つ剣に噛み付き、砕いていた。
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噛み砕かれた長剣から意識を外し、右膝を突き上げて銀狼へ牽制しつつも予備の短剣へと手を伸ばす。
幸か不幸か、アイリスは真後ろで横たわっている。いまだ意識を取り戻した様子がない彼女を後ろにして、私に避ける選択肢はない。
右膝も短剣へ伸ばした手も間に合うこと無く、跳びかかってきた銀狼と接触する直前に胸から魔力爆発を起こす。
私へのダメージは大きいと思うけど、銀狼をアリスがいる後ろへ通すよりはマシね。
胸を襲う激痛に意識が飛び去りそうになるのを堪えつつ、アリスを飛び越えて転びそうになりながらも地面へと着地する。
うまい着地など期待していない。倒れなければそれでいい。
視線の先で銀狼が綺麗に着地する様子が実力差を示されているように感じてしまうけど、私が勝ってみせる。
魔力爆発で手放してしまった短剣の変わりに、ちょうど手元に落ちていたアリスの槍と短剣を掴み、再び銀狼へと駆ける。
今の状況で魔力爆発を利用した移動をすれば意識を手放してしまうかもしれない。それにすぐ側にアリスがいるのだから、無理をして離れる必要はない。
それにしても、私が優勢だったはずなのにあの遠吠えから状況が一変した。いえ、赤いオーラを纏った瞬間から、かしら。
アリスと銀狼の間に移動し、銀狼の動きを観察しつつ第1スロットへ魔力を流し込む。
あの赤いオーラはアリスと出会った時の希少種も纏っていたものであり、おそらく能力を向上させるもの。今まで本気ではなかったというよりも、今ここで使えるようになった感じがする。私と同じで、今ここで強くなった。
私はアリスがいたから強くなれた。でも、あなたは何がために強くなるのかしら。
「ライトニング・クラッド」
今を逃して再び魔法を使用できるタイミングは無いかもしれない。それならば、最後の1回を今使用して一気に決める。
あなたが強くなれた理由はわからないけど、私は負けない。
「さあ、来なさい」
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アイリスを背に待ち構えるエルピスと、隙を狙うかのように動かずその様子を観察しているだけの銀狼。
互いの視線が交差する中、銀狼が跳ぶ。
その先に存在するのはエルピスではなく丈夫そうな木であり、さらに木の側面を足場に別に木へと跳び移る。
しかし、幾度かそれを繰り返した銀狼は隙を作れないと考えたのか、再び同じ場所へと戻ってきた。
その様子を見て口元に笑みを浮かべたエルピス。
「あなたはアリスを狙わないのね。全力の私を倒したいのね」
銀狼にそう告げたエルピスはその場を動かない。あくまでエルピスがそのように感じ取っただけであり、銀狼の考えを読み取ったわけではないのだから。
再びエルピスと銀狼の視線が交差するが、それは一瞬。次の瞬間には銀狼がエルピスへ跳びかかる。
剣で受け止めた時とは違い、両手で槍を突き出したエルピス。それは間違いなく銀狼の額を捉え、接触する直前に穂先から魔力爆発を発生させた。そして次の瞬間には槍を片手で手元に戻しつつ、ローキックを放つエルピス。しかし足は宙を蹴り、槍の中腹に銀狼が噛み付いていた。
槍を取り返せないと考えたのか、エルピスは槍と手の接触点で魔力爆発を起こして銀狼の口から槍を弾き飛ばし、同時に足元で魔力爆発を起こして自身は銀狼へ突進する。
アイリスから離れるようにして宙を舞う銀狼は密着しているエルピスの首へ噛み付こうとするが、その直前で再び両者の隙間で魔力爆発が起こり、エルピスは地面へ軽く打ちつけられ、銀狼は空高く舞い上がった。
そこはちょうどエルピスが木を薙ぎ倒した場所であり、宙に浮かぶ銀狼が大きく軌道を変更するための取っ掛かりは存在しない。
エルピスはすぐに立ち上がり、アイリスの側で拾った短剣へと手を伸ばす。その手は僅かに震えていたが、短剣へ触れた瞬間に震えはピタリと止まった。
銀狼の落下予測地点に移動したエルピスは空を仰ぎ2つの魔力を宿した短剣を構え、銀狼を待ち受ける。
そして銀狼とエルピスの距離が迫りエルピスが手に持つ短剣を振るおうとした瞬間、銀狼の口から強力な遠吠えが放たれた。
全身を襲う"魔力を含んだ"遠吠えにエルピスは驚愕の表情を浮かべるが、その手を止めることはない。
大きく口を開き落下してきた銀狼の口元へ吸い込まれていく短剣は僅かに切り傷を与えたが銀狼の勢いは止まらず、短剣を振り上げたエルピスの首に銀狼が噛み付き、砕いた。
不格好でも地面に着地した銀狼と、力なく地面に倒れたエルピス。
ここで両者の勝敗は決した。
その場を動かず、倒れているエルピスをじっと見つめている銀狼。その状態で3分ほど経過した時、銀狼の目の前で、エルピスの身体が空気中に溶けこむように消えた。
纏っていた赤いオーラが消えた銀狼は消えたエルピスを見送るように同じ場所を見つめ続け、1分ほど経過したところで天を仰いで力強く吠える。まるでエルピスへの讃歌のように感じられるその遠吠えは森へと響き渡り、再び赤いオーラを纏った銀狼はアイリスが倒れていた方向へと足を進め始める。
しかし、その足は直後に止まることとなった。
銀狼が振り向いた視線の先には、エルピスが吹き飛ばした槍を持ったアイリスが立っていたのだから。
「やっぱりあなたは強いね。輝きを見せてくれたあなたに、1つの褒章を」
嬉しそうに微笑みながら言葉を終えたアイリスは表情を真剣なものへと変え、その言葉を受けてか銀狼が纏う赤いオーラが僅かに濃いものへと変化した。
「スクルド・エンブレム。私は時に、"進行"する」
キーワードらしき言葉を唱えたアイリスに変化は見えない。
「レッド・オーバーロード」
続く言葉を唱えたアイリスを真っ赤なオーラが包み込む。それは銀狼の纏う赤いオーラよりも遥かに濃いものであり、それでもアイリスの姿を隠すこと無く透き通っていた。
「アクセプトオーダー。"ダウングレード"、"トリシューラレプリカ"」
その言葉を言い終えると同時にアイリスの手に握られた槍が輝き、すぐに治まった。そこに存在するのは以前と変わらぬように見える槍だけ。
そして、その様子を銀狼は動かずに見つめていた。僅かに震える足を止めるように歯を食いしばりながら。
「あなた達は再び相まみえるか。その道に進めたのなら、次のあの子はもっと強い」
アイリスは左手に持つ槍を構え、投げ放った。
放たれた槍は木々に同じ大きさの穴を開けながらも、それで勢いを落とすこと無く真っ直ぐに進み、遥か先で地面に突き刺さる。
アイリスはそんな光景に目を向けること無く立ち続ける銀狼へと足を進め、優しく抱きしめた。
「またね」
銀狼は間近で囁かれた言葉を聞いてか微かに耳を動かしたあと、まるで安らかに眠るように身体から力を抜いて、嬉しそうに微笑むアイリスに身体を預けた。そして3分後、エルピスと同じく空気中に溶けこむように消え去るまでアイリスは銀狼を抱きしめていた。




