027~VS希少個体『銀狼』3
本日4話目の投稿です。
読み飛ばしにご注意ください。
その瞬間、足は駆け出していた。
銀狼と接近戦を繰り広げ、完全に優勢だと思っていたアリスが視線の先で銀狼の体当たりを受けて倒れた。アリスと銀狼の戦闘を見る限り、アリスは様々な策をもちいて戦っていることは理解していたので、それだけなら問題なかった。でも、アリスの足は銀狼から攻撃を受ける前に止まっていたのだ。
『魔物との戦闘で心が折れた瞬間、死ぬわね』
アリスのスキル、乗り越える者<<ブレイブリー・ハート>>は心が折れた瞬間に数多くのデメリットを抱えるもの。
その中の1つである強制気絶。
アリスが途中で攻撃を中断し、銀狼の体当たりを受けても吹き飛ばされたあとも、まったく動かない。それが示すのは回し蹴りを放ったアリス自身が行動を失敗だと考え、そこから銀狼に勝つことを諦めてしまったからではないのかしら。そして諦めるとは心が折れた状態の1つである可能性は高く、いまだ動かないことがその可能性を高めている。
仮にそうであれば、危険だ。猶予など無い。
心が折れた状態でアリスが死んでしまえば、復活はできないのだ。
2度と声は聞けず、嬉しそうに羊羹を食べる様子も見ることはできない。それは復活の加護があるこの世界でも存在する、本当の死。
咄嗟に駆け出すことを選択した私を褒めてあげたい。もし武器を投げていて仮に当たったとしても銀狼は止まらなかっただろうから、選択自体は間違っていないはずなのだけど、このままでは間に合わない。あくまで可能性が残っているだけ。
そして僅かに繋がっているその可能性とは、私の第3魔法スロットに書き込まれている加速魔法アクセル。
アリスの『はやくな~れ』よりも速度が強化されるこの魔法を使用できれば間に合う。いえ、それで間に合わなくても間に合わせてみせる。
諦めたくない、諦められない。可能性がないのならまだしも、いえ、可能性が無くとも。
だから、"繋がりなさい"。
憧れた英雄は多くの苦難に諦めなかった。謎多き少年は時に挫けながらも、多くの苦難を乗り越えてみせた。
見惚れた不思議な少女は弱き身体で苦難を乗り超え、私を助けてくれた。
英雄に憧れるなら乗り越えて見せなさい。謎多き少年と競うことを望むのなら乗り越えて見せなさい。
少女の"隣"を望むのなら、乗り越えて見せなさい!
「アクセル!」
キーワードを唱えると同時に第3魔法スロットへ魔力を流し込む。零れ落ちるそれを必死に魔法スロットへと、僅かにでも流し込もうと試みる。
アリスが示してくれた道なき未知を通り抜けて、魔力を魔法スロットへ流し込む方法。
第2スロットはアリスが示してくれたので判明していて、一昨日の夜に第3スロットの入り口を何とか見つけられた。でも、そこで魔力が無くなってので続きを試せていない。
アリスが示してくれた回路の外でも魔力を操作できるという事実に気づき、物量で探せばなんとかなるんじゃないかと思って魔力を壁状に操作して進めた結果として入り口を見つけられたのだから、魔力が無くなったのは仕方ない。そして昨日の朝からはダンジョンで魔力武器を使用する機会と仮に魔力操作に失敗してダンジョン内で何かあってはいけないと思って試せていなかったけど、今はそんなこと気にしていられない。アリスを助けられる可能性と天秤に懸けるのなら、その程度のデメリットは些細なこと。
入り口を知っていた第2スロットでさえ、静かな場所ですら集中した状態で何度も挑戦して一度も成功していないけど、今の私は成功させる。
ここで成功させなくて、何が英雄を目指す者か!
アリスに迫る銀狼を目指して駆けながらも、第3スロットの入り口へと魔力が流れこむのを感じられる。今の私では一切の無駄なしに流し込めていないけど、確かに流れ込んでいる。この状況、魔力を無駄はできないけど少しなら零れても構わない。
さあ、繋がりなさい!
次の瞬間、魔法が私を強化したのを感じた。銀狼に迫る身体が僅かに加速したのを感じた。駆け出す1歩が間違いなく銀狼へ届くと信じられた。
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アイリスと銀狼の間に飛び込んだエルピスは左手に持つ長剣で銀狼の目を斬りつけつつも、右手でアイリスの防具を掴む。
飛び掛かろうと足に力を込めていた様子の銀狼は、目への攻撃を避けるためかエルピス達を飛び越す勢いで大きく跳び上がり、長剣を避けてアイリスを掴んだエルピスの上空を通過する。
目前に迫る木の根本に着地しつつも右手のアイリスを木の向こう側に放り投げたエルピスはそのまま方向転換を試みるが、勢いを抑えきれず背中から木に激突してしまった。
口から大量の空気を吐き出したエルピスの視線の先では銀狼が綺麗に着地し、"エルピス"へと視線を向けていた。
交差するエルピスと銀狼の視線。
アイリスと戦闘を開始して以降は離れてみているだけであったエルピスが、自らの行動を見事に妨害してみせたことで改めて敵と認識したのか、銀狼は動かぬアイリスではなくエルピスに視線を注いだまま動かない。
銀狼に視線を向けつつ体勢を整えたエルピスもまた、動かない。
静かな空間の中、エルピスが銀狼へ向けて一歩を踏み出す。
両者の距離が半分ほどに縮まるまでの僅かな間だけエルピスを観察していた銀狼は足に力を込め、エルピスの手に持つ長剣がギリギリ届かない位置まで距離が縮まったところで右後方へと大きく跳ぶ。そして背後に存在していた木の側面を足場にエルピスに迫るが、エルピスは僅かに横へと避けつつ銀狼の目が来るであろう位置を銀狼の側面側から斬りつける。
その反撃に空中で身体を丸めた銀狼へと長剣は吸い込まれていき、皮膚に僅かな傷をつけた銀狼は綺麗に着地した。
最初の交戦では武器で触れることすらできなかった銀狼へ、僅かとはいえ傷を与えたエルピス。
振り向いた銀狼がエルピスへ注ぐ視線はアイリスへ注いでいたソレと変わらないものへと変化した。それはアイリスと同じくこちらの攻撃を避け、反撃を当ててみせたエルピスを脅威と判断した結果なのかもしれない。
再び迫るエルピスを、銀狼は地に足を着けた状態で迎える。
両者の距離が縮まったところでエルピスが長剣を振り払うが、それは直前に跳びかかった銀狼の僅か横を通過する。そして攻撃の対価として銀狼の爪がエルピスへと迫るが、それはしゃがんだエルピスの僅か上を通過する。
剣を振り払った勢いで後方へ跳び去った銀狼へと身体を向けたエルピスは再び銀狼へと迫る。
その絶え間ない攻撃姿勢はまるで自分を脅威だと認めさせ、いまだ動かないアイリスから注意を引き剥がすかのように。
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