025~VS希少個体『銀狼』1
本日2話目の投稿です。
読み飛ばしにご注意ください。
その存在は私が理解できるほどに他の魔物と違っていた。
何の変哲もない木の根元で身を伏せているのは銀色の狼。木々の隙間から零れ落ちた陽光を受けるその身体は僅かに輝いているように見える。
明らかに希少種。見るからに格上。翼こそ生えていないが、アリスと出逢うきっかけとなった希少種よりも強いように感じられる。
『エルピス、どうする?』
突然と頭に響くアリスの声。おそらく声を出すことすら危険と感じて無属性特殊系統感覚共有魔法であるパーティ・テレパスをアリスが使用したのね。でも、それ以上に気になることがある。
準備を整えてから探索を開始して、アリスが一直線に向かった森の中に存在していた銀狼。私にはアリスが、この存在がここにいることを知っていたように思えてしまう。
気のせいだとはわかっているのだけど、まるで運命が私に選択を迫っているように感じてしまう。
……挑むべきか、挑まないべきか。
限界まで気配を消して銀狼を観察しているけど、きっと気づかれているでしょうね。それでも銀狼は襲ってはこない。
油断して近づくことを狙われているのか、背を見せて逃げるところを狙われているのか、あるいは余裕の表れか。
復活があるのだから挑戦したいところだけど、安全地帯が近いから危険がないわけではない。第1層では確認されていないみたいだけど、上層では感知範囲の広い魔物が復活後の安全地帯まで追ってきたことがあると聞いたことがある。
私1人ならばまだしも、アリスにも危険が……いえ、アリスは私に聞いているのよ。どうするか、と。
逃げても襲われる可能性があるのなら挑みましょう。安全地帯まで追ってくるほど感知能力があるとしても、追ってこれないほど深手を追わせれば問題ない。
アリスの顔を見て頷き、再び視線を銀狼へと向ける。
『はやくな~れ』
私の意思が間違いなく伝わったのか、アリスは嬉しそうに微笑みつつ私に触れて加速呪文をかけ直してくれた。
『エルピスの好きなタイミングで挑んで』
銀狼に視線を向けたまま頷き、僅かでも隙が感じられたところで駆け出そうと思っていたが、視線の先で銀狼が静かに立ち上がった。
やっぱり、気づかれていたのね。それもこちらが戦うと決めたことまで感じとれるほどに。
――さあ、行くわよ。
木の影から駈け出し、銀狼へと一直線に向かう。
予想されるのは飛びかかりからの攻撃と交差した際の爪か牙による攻撃、そして体当たり。相手の能力が分からないのだから、最初はすべて避けるつもりで観察しよう。
同じく駆けてくる銀狼との距離が縮まり、あと少しで接触するところで銀狼が飛びかかってきた。予想通りの行動に対し、身体を反らすのではなく横にステップして避ける。
そのまま振り向き、次の行動を予想しようとしたところで私の行動が間違いだったと気づいた。
視界に収まった銀狼は既に目の前に存在し、避けるには間に合わない。剣での防御が間に合うわけもなく、少しでも衝撃を逃がそうと後ろに飛ぼうとするがそれも間に合わない。
すぐに来る衝撃に覚悟し、組み敷かれた状態からの脱出方法の検討を開始するがそれは必要なくなった。
目前に迫っていた銀狼は横から槍を構えて突進してきたアリスの攻撃を避けるために、空中で大きく体勢を変更する。それでも避けきれず、槍を掠らせた銀狼は体勢を崩したまま私と衝突した。
背中に強い衝撃を感じる中、体勢を崩した状態の銀狼を全力で払いのけて離れ、払いのけた銀狼が立ち上がるのと同時に私も立ち上がることができた。
立ち上がった銀狼は既に私を敵と認識していないのかもしれない。近くにいるはずの私には目を向けず、遠くで立っているアリスへと目を向けている。狼なのだから嗅覚や気配などの感知方法を多用しているとは思うが、"敵"と認識されているのはアリスだと感じてしまう。
それもとうぜん、直前の私とアリスの行動を比較してより脅威なのはアリスだと私も思う。何せアリスも警戒していたはずの銀狼が、攻撃中に無理やり体勢を崩してでも避けるほどの攻撃を行ったのだから。
それに比べて私はアリスがいなければ組み敷かれて敗北していた。その程度の相手は僅かに気にかける程度でも問題ないのでしょうね。
……でも、それでは悔しいのよ。その隙、見事に利用させてもらうわね。
アリスが僅かに動いた瞬間を狙って、剣を構えつつ銀狼に飛びかかる。
アリスの動きに意識を集中するだろう、このタイミング。攻撃が当たる可能性は高く、避けられても反撃を受けにくい。それに反撃を受けたとしても背面への攻撃では大きなダメージを負う可能性は低い。これで少なくとも今よりは私に意識を割くようになり、アリスが有利に動けるはずよ。
しかし、そんな理想を抱いての攻撃は甘すぎた。
銀狼はこちらを向くことなく後方に素早く飛び、咄嗟に振り下ろした剣が到達するよりも早く私に迫ってきた。
足に衝撃を感じると同時に視線の先では地面が迫ってくる。
顔に痛みを感じたころで今の状況が理解できた。きっと銀狼とアリスは私を挟んで対峙している。私の迂闊な行動で、私はダメージを負いつつ体制を崩され、同時にアリスの攻撃を私で防げる機会を銀狼に与えてしまった。
何もしなければアリスの邪魔にはならなかったのに、行動したことにより自身がダメージを受けて体勢を崩したどころかアリスの攻撃機会まで奪ってしまった。
すぐに横へ転がり、銀狼とアリスを繋ぐ直線上から僅かに外れたところで、次の行動を決めるためにも銀狼の様子を確認する。
銀狼が襲ってきていれば再び横に転がり、銀狼が留まっていれば様子を確認しつつ体勢を整える。剣が手を離れてしまっているが、まだ予備の短剣があるので急いで回収する必要はない。
視界に収まった銀狼は動かずその場に留まっており、予定通り体勢を整えようとしたところで真横を何かが通過した。そして、次の瞬間には銀狼と対峙しているアリスが視界に収まっている。
『大丈夫、"また"私が守ってあげるから』
アリスと銀狼の様子を窺いつつ体勢を整えていたところで、頭にそんな言葉が響いてきた。
銀狼に向かって駈け出したアリスに、それを見ているだけの私。このままでは最初に出会った時と同じでアリスが倒すまで何もできずに見ているだけだが、行動すればアリスの支援どころか妨害してしまう可能性が高い。
あの時とは違って足を怪我して動けないわけではなく、武器が壊れているわけでもなく、復活の加護すらある。それでも、動けばアリスの邪魔になる。
……アリスの言う通り、私は"また"守られるしかないのね。




