023~まるで待ち望むように~
「エルピス、お待たせ」
アリスが何かを始めてから15分。いつもより5分ほど早くそれは終了したみたい。
やっぱり、アリスは何かを掴んだのかしら。
「お疲れ様、アリス。ところで少し聞いてもいいかしら?」
私の魔法スロットの一部が消失していることをどうやって知ったのか。それに確定と言っていたから、前例を知っていた可能性もあるのかしら。
無理に聞くつもりはないけど、教えてもらえるのなら知っておきたい。
それらを知ることで光を掴める可能性が高まるのかもしれないのだから。
「何?」
「魔法スロットの消失を予想できた理由と確定した方法を教えてほしいの」
「予想理由は現状からの想定、つまり知識と経験によるもの。方法は観察魔法の1種」
アリスが言っている観察魔法とはおそらく、魔法道具を作成する際に必要な特殊属性特殊系統情報取得魔法であるアナライズ・マジックプレートでしょうね。エリア・ジャンプと同じく、世界から使用許可を得るために何か条件が必要であり、その条件は子供でも満たせていることが確認されている魔法。
でも、私は"彼から聞いて"その条件を知っている。
「アリスは魔力感知が使えたのね」
「知っていたんだね」
その条件は"特定種類の"魔力感知が使用できること。
条件の1つとして魔力感知は予想されているけど、魔力感知が行える人でも使用許可が得られていない人がいるために確定とはされていない。
普通の魔力感知は体外に放出、展開した魔力から情報を得る技術だと聞いているけど、彼は比較にならないほど高い精度が必要な上に考え方がまったく別物だと言っていた。
通常の魔力感知すら高等技術だというのに、それの遥か上の技術なのでしょうね。
それにしても、アリスが背後の状況を把握できていた理由は魔力感知を使用していたからなのね。
魔力感知の範囲は通常1メートル程度みたいだけど、それでも戦闘を遥かに有利に進められる。さらに熟練者であれば展開した魔力の回収まで行えるみたいだから、状況しだいでは使い続けられるはず。
そしてあまり動かない後方戦闘ならまだしも、動きまわる近接戦闘に魔力感知を組み込める人は少ないと聞いていたけど……アリスは慣れている様子に見えた。まったく、不思議な少女ね。
……。
「アリス、もしかして魔法道具も作れたりするの?」
私は何を聞いているのかしら。一時的にパーティを組んでいるだけの相手に希少とされる魔法道具を作れる才能を明かす必要はない。
それに魔法道具作成に必要な魔法には上級魔法も含まれているのだから、通常魔法ですらランクによって世界から得られる許可が変わる今では、ランク1のアリスが使用できるはずがないのにね。
「それを聞いてどうするの?」
そうよね。本当に、私は何を聞いているのかしらね。
「あなたが、私の作った魔法道具を使ってくれるの?」
これは作れる、ではなくて作れたとして私が使うかどうか、よね。
もし使うと私が言えたのなら、真実を教えてくれるのかしら。そして仮に作れたのなら、私のために作ってくれるのかしら。
でも、今の私は『使う』と応えられない。
「ごめんなさい。自分でもなぜ聞いたか分からないの」
「気にしないで。魔法道具を使えないあなたが、なぜ聞いたのか気になっただけだから」
「……え」
とつぜんの指摘に驚いて、続く言葉が紡げない。
何で、何でアリスがそれを知っているの。私は一度も伝えていないはずよ。
「気になってたけど、きっと魔力装備も避けているよね」
避けているということは、僅かにでも"恐怖"しているかどうか。
……いえ、怖くないはずよ。アリスと会ったあの日だって、使ってみせたもの。そう、問題なく使ってみせたはずよ。
「い、いえ、魔力装備は怖くないわよ?」
否定の言葉を告げようとした口が僅かに躊躇したのを感じてしまった。
なぜ、かしらね。確かに問題なく使えたはず。
「あなたに貰った短剣で戦っていた姿を見ていたでしょう?」
「うん、"問題なく使えていたよね"」
そう、問題なく使えていたわ。
「だから怖くない、大丈夫よ」
「そう。変なことを聞いてしまってごめんね。お詫びに秘蔵の羊羹をごちそうする」
「気にしていないけど、羊羹は欲しいわね。ありがとう、アリス」
……これでアリスは納得してくれたかしら。
よく考えて見ればとうぜんよね。パーティを組んでいる相手が魔法武器どころか、魔力武器すら使えない可能性がある。それならば確認すべきだもの。
部屋の隅に移動したアリスは戸棚からフォーク2つを取り出し、次に戸棚の横に置かれた白い箱のドアを開け、その中から1枚の皿を取り出してこちらに戻ってきた。
テーブルの上に置かれた皿の上にあるのは羊羹であり、冷気を放っている様子が窺える。
やっぱり、あの箱は"冷蔵箱"だったのね。
「半分こ、ね」
「ええ」
差し出されたフォークを受け取り、既に切られている羊羹を1切れ口へ運ぶ。
魔力を定期的に供給することで内部を冷却する魔力道具の1つである冷蔵箱。魔力を流しすぎると内部の物を凍らせてしまうので扱いが難しく、夏場には内部の温度がすぐに上がってしまう残念道具……以前までであればそうであったのだけど、もしかしたらスターチスクラスタ製の新型かもしれない。
そちらはどれだけ魔力を供給しようとも一定以下の温度にはならず、夏場でも内部の気温が上がり難いと聞いている。でも、試作品であり知り合いにしか販売していないと聞いていたけど、パンドラさんから譲ってもらったのだろうか。
いえ、スターチスクラスタのリーダーであるスターチスさんがティアさんの店をよく訪れるみたいだから、宿に備わっていたと考えるべきね。だって高いもの。
「これは美味しいわね。どこで売っているの?」
「ティアが個数限定でたまに売ってる。唐突に売り出して、それでもすぐ無くなるみたいだから、入手は困難かもしれない」
頻繁に来ているつもりではいたけど、まったく知らなかったわ。ダンジョン帰りの夜か暇な昼間に来ることが多かったから、朝に販売を開始してすぐに売り切れていたのかしら。
「そうだったのね。貴重なものをありがとう」
「大丈夫、私は入手しやすいから」
アリスはここに住んでいるのだから機会が多いのかしら。少し羨ましいわね。
アリスが嬉しそうに羊羹を食べる様子を眺めつつ、私ももう1切れをフォークで刺して口へと運ぶ。
さて、これを食べ終えたら帰って明日に備えましょう。今日は出会えなかったけど、明日はウルフリーダーと戦えるかもしれない。頑張らないとね。
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5階層の<<ゲート>>から遠く離れた森の1箇所。そこは出現する魔物も少なく、<<ゲート>>から遠いため冒険者も滅多に通りかかない。
そんな場所に存在する木の根元で、月に照らされて輝く銀色の狼が眠っていた。
まるで何かを待ち望むように、片時もその場を離れずに。
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