第八章
サルヴェルの書状が届いたあと、家はまるで、食いしばった歯の隙間から息を吐いたみたいになった。
軽く、ではない。
嬉しげに、でもない。
肩の荷が下りたあとのような、柔らかな安堵でもなかった。
むしろ逆だった。
重く、ほとんど苛立ちすら帯びた息だった。
それまで家の内側にある生きたものすべてを縛っていた、最後の留め金がようやく弾け飛んだ――そんな感じだった。
外側は何も変わらない。
子の泣き声。
温めた乳の匂い。
召使いたちの足音。
サレットの小言。
重くなった腹を庇うリラの慎重な歩き方。
アヤノの、新しい深さを帯びた沈黙。
カイラの鋭く生きた苛烈さ。
だが、肝心のところが根こそぎ変わった。
ネリッサはもう、仮の存在ではなかった。
宙吊りでもなかった。
他人の意志と自分の選択のあいだにぶら下がったままの雌でもなかった。
役目だの義務だの王の名だので、いつでも呼び戻せるものでもなかった。
彼女は、解かれた。
引き裂かれもしなかった。
連れ戻されもしなかった。
逃亡者の印を押されもしなかった。
最後にもう一度だけ命令で喉を締め上げられもしなかった。
解かれたのだ。
そしてその事実が、すべてをみっともないほど単純にした。
もう彼女は「逆らってここにいる」のではない。
「当面だけ」でもない。
「どちらにも属しきらない」でもない。
完全に、ここにいる。
自分で決めたからだ。
自分で選んだからだ。
かつて自分を縛っていたものへ、癇癪ではなく、獣そのものの冷たい、揺るがない真実として、真正面から唾を吐きかけたからだ。
**もう私はお前たちのものではない。**
その瞬間から、この家の中で最後まで残っていた慎みは死んだ。
礼儀ではない。
そんなものはとうに剥がれ落ちていた。
互いへの恐れでもない。
それももうほとんど残っていなかった。
死んだのは、どれほど深く欲していても、心の底でまだ毒みたいに蠢いていた、あの最後の距離だった。
――これは永遠ではないかもしれない。
――奪われるかもしれない。
――まだ完全には、自分たちのものではない。
もう、それは終わった。
しかも皆、頭より先に、身体でそれを悟った。
ネリッサは寝台の脇、柱に背を預けて座っていた。
そこに「よそ者」の気配は、もうひとかけらもなかった。
柔らかくなったからではない。
従順になったからでもない。
そんなものに彼女がなるはずはなかった。
彼女は生きすぎていた。
猫じみすぎていた。
自分で決めることに慣れすぎていた。
寄るときも、離れるときも、噛みつくときも、腹を見せるときも、全部自分で決める雌だった。
だが今は、その彼女から「外側」が完全に消えていた。
もう敷居の向こうにいる顔ではない。
すでに内側。
すでに巣の匂いがついている。
この家の空気を、彼女自身が吸って吐いている。
彼が部屋へ入ると、カイラはいつものように寝台を横断していた。
腹の大きくなったリラは上の方に身を預け、片手を娘のいる腹に当てていた。
アヤノは縁の近くに、背筋をまっすぐにしたまま座っていた。冷たさではない。身籠ってから彼女の中に生まれた、あの深い静けさのせいだった。
そしてネリッサだけが床にいる。
足元に。
呼吸のあいだに。
部屋のど真ん中に。
侍女でも、客でもなく、もっと露骨で、もっと本当の何かとして。
まるで、もう巣を決めた雌そのものだった。
彼は長く彼女を見た。
笑わず。
喋らず。
どれほど強く欲しているかを薄めようともせずに。
ネリッサはそれをすぐに感じ取った。
耳がかすかに震えた。
それまで床に落ちていた尾が、ゆっくりと動いた。
目の色が深くなった。恥じらいからではない。
身体が、欲しさに先回りしたからだ。
それが彼女の恐ろしいところだった。
彼女の前では、欲望は隠れない。
生まれた瞬間、もう身体がそれを白状してしまう。
「で?」
最初に沈黙を破ったのはカイラだった。
「いつまでそんな顔で見てる? 今さらようやく、何をうちに引き込んだのか分かったみたいな顔しやがって」
彼はまだ答えなかった。
だが、それは図星だった。
ネリッサが何者かは、もう前から知っていた。
欲していることも知っていた。
彼女がとっくに家の結び目に組み込まれていることも分かっていた。
それでも、**今ようやく**本当に分かったのだ。
彼女がこの家にとって何になったのかを。
ただのもう一匹の雌ではない。
危険な縁でもない。
美しい厄介事でもない。
最後の正直さだった。
あれほど欲しておきながら、まだ半分だけ生き、半分だけ欲し、半分だけ принадлежать していられると、自分に嘘をつく余地を奪うものだった。
彼はネリッサの前に膝をついた。
彼女は退かなかった。
身じろぎもしなかった。
ただ顎をわずかに上げた。
まるで、遊びでも口説きでもなく、ひとつの事実を差し出すみたいに。
**ここにいる。
欲しいなら、最後まで持っていけ。**
彼は彼女の顔を両手で包んだ。
熱い。
生きすぎている。
本物すぎる。
彼女には、整えられた優しさがなかった。
肌の熱。
喉の脈。
耳の付け根に走る震え。
他人の基準に合わせて綺麗であろうとしない、厚く、濃く、ほとんど傲慢な牝の気配。
愛玩のための猫娘ではない。
抱え込み、堕ちていくための猫だった。
「お前は、解かれた」
彼は言った。
ネリッサは短く、意地悪く笑った。
「違う」
彼女は言った。
「私は自分で綱を噛み切った」
カイラが鼻で笑う。
リラが静かに微笑む。
アヤノは、まばたきもしないでネリッサを見ていた。
アヤノには分かっていた。
資源として扱われること。
役目として囲われること。
自分自身でなく、機能として生きさせられること。
その感覚の影が、彼女の中にもまだ残っている。
「違う」
アヤノが、少し間を置いて言った。
「噛み切ったんじゃない。お前の方が、命令ひとつで何もかも取り戻せると思ってる連中より、強かっただけ」
ネリッサは彼女を見た。
そこにあったのは、優しさでも友情でもない。
もっと深くて残酷なものだった。
長く物のように扱われた雌にしか分からない、あの即時の理解。
「どんな感じ?」
リラが低く訊いた。
ネリッサは一瞬、目を閉じた。
「喉の奥に突っ込まれてた чужい手を、やっと引きずり出したみたい」
彼女は言った。
「ようやく、肺の底まで息が入る」
その言葉が落ちた瞬間、部屋の中の何かが本当に壊れた。
綺麗にではない。
象徴としてでもない。
肉の方からだ。
最初に動いたのはカイラだった。
寝台から滑り降り、そのままネリッサの背後へ回る。
回り込むというより、獲物に背後を取る獣みたいに自然だった。
そのまま首筋を撫で、肩をなぞり、上へ――耳へ。
わざとだった。
彼女がいちばん早く崩れる場所を、カイラはもう知り尽くしていた。
耳の付け根。
そこへ指が入った瞬間、ネリッサは跳ねた。
尾が床を強く叩く。
喉から短い声が漏れる。
喘ぎと呼ぶには短すぎ、偶然と呼ぶには露骨すぎる声だった。
カイラが愉快そうに歯を見せた。
「ほら。やっとまともな顔になった」
「ほとんど行儀よく座ってたくせに」
「うるさい」
ネリッサは息の切れた声で吐き捨てた。
「今日は逃がさない」
カイラは言った。
リラも立ち上がった。
腹は重い。
だが、それで彼女のやわらかさが弱くなるわけではなかった。むしろ逆だった。
彼女はネリッサの正面に立ち、その胸に手を置いた。
撫でるというより、受け入れる手つきだった。
それだけで、ネリッサはもうまともな顔を保てなくなった。
背後ではカイラが耳を弄び、正面ではリラが胸を包む。
しかもどちらも容赦しない。
優しさの顔をして、いちばん逃げ場のないところまで持っていく。
「もう家の中よ」
リラは低く言った。
その瞬間から、羞恥は意味を失った。
打ち勝ったからではない。
「何でもあり」になったからでもない。
そんな場面でなお、身体はもっと礼儀正しくあるべきだ、などと言い張る方がもう滑稽だったからだ。
ネリッサは自分から立ち上がった。
ゆっくり。
恥じらいではなく、全身を満たした重く濃い熱のせいで。
もう動くこと自体が、他人の手の延長みたいになっていた。
彼女は服を脱いだ。
媚びるようにでもなく、焦って裂くようにでもなく、ただ不要なものを落としていくみたいに。
ひとつずつ、布が彼女から離れていった。
そして最後の一枚まで落ちたとき、彼は彼女を、もう昨日までの誰かとして見ることができなかった。
張った乳房の上に、黒く尖った乳首が立っていた。
やわらかい飾りではない。
すでに欲しがっている身体の、露骨な印だった。
腹から腿へかけては、やわらかさよりも充実が先に立っていた。
いかにも触れば沈む、ではない。
熱と血がきちんと詰まっている感じだった。
脚のあいだには、濃い陰りがあった。
重たい陰毛の下、猫の牝らしい生々しい肉の気配が隠れもせずにある。
そこには何ひとつ無菌的なものがなかった。
美しく整えられた模型でもなかった。
ただ、欲望そのものみたいな牝の身体だった。
アヤノが近づいた。
急がない。
けれど躊躇もない。
彼女の指先が、ネリッサの腿のあいだへゆっくり入っていく。
確かめるように、だが曖昧ではなく。
ネリッサは鋭く息を吸った。
それだけで身体がひらいた。
カイラは背後から、その変化を見逃さない。
今度は耳ではなく、もっと下へ。
不意打ちみたいに指が割り込み、入口をずらし、膣ではなく後ろへまっすぐ入っていく。
ネリッサの背中が大きく反った。
「っ、あ――」
声が潰れた。
尾が跳ね上がる。
指は容赦なく、けれど乱暴ではない。
第二関節の先まで、躊躇なく入る。
カイラはそこで止めず、わずかに押し込み、内側を探るように動かした。
「ほら」
カイラが囁く。
「こうされると、お前ほんとに顔が終わる」
ネリッサは振り返りもしない。
できない。
アヤノの指が前から触れている。
リラの口は乳首にあり、柔らかく吸っている。
そして後ろでは、カイラの指が不意打ちみたいに尻の穴を開いている。
「やめろ、この性悪」
ネリッサはかすれた声で言った。
「嫌だね」
カイラは笑う。
「こういう時のお前、最高に可愛いから」
そのやり取りすらもう、羞恥ではなかった。
ただ、剥き出しの関係だった。
彼はそのあいだにネリッサの尾を掴んだ。
根元を。
しっかりと。
飾りではなく、身体の芯へ通じるものとして。
それだけでネリッサはさらに崩れた。
尾は彼女の急所だった。
そこを握られると、全身がその手のものになる。
背筋が震え、尻が自然に引け、腹の奥まで熱が落ちていく。
猫の牝としての恥も、怒りも、見栄も、その瞬間だけ全部そこから引きずり出されるみたいだった。
彼は彼女を引いた。
ネリッサは逆らわなかった。
逆らえなかったのではない。
その方が欲しかったからだ。
身体はもうとっくに選んでいた。
やさしく抱かれることではない。
容赦なく、自分の牝であることを認めさせられる方を。
彼の肉棒はもう完全に立っていた。
重く、太く、血の塊みたいに脈打っていた。
ネリッサの尻を自分へ引き寄せ、尾を掴んだまま位置を合わせる。
まず先端が、濡れた割れ目を押し分けた。
その瞬間、ネリッサの身体は小さく跳ねた。
陰毛の下に隠れていた熱い肉が、ぬるく、強く、彼を迎えた。
それは優しい受け入れではなかった。
ぴたりと吸いつきながら、それでも奥では明確に抵抗してくる、濃い肉の反応だった。
先端が唇を割り、さらに中へ潜る。
肉が開いていく。
その鈍い、いやらしく湿った感触を、彼は掌の中の尾からも、腰へ返ってくる圧からも感じた。
「……っ、あ、ぁ……」
ネリッサの声が漏れる。
だが止まらない。
先端がもう隠れ、竿がさらに押し入る。
中は熱く、きつい。
ぬるい肉が、まるで生きた手袋みたいに彼を包み、擦れ、食いついてくる。
彼は尾を引き寄せるように掴みなおし、そのままネリッサの身体を自分へ引っ張った。
全部、入るまで。
ずぶ、と音がした気がした。
根元まで入った瞬間、ネリッサの脚がわずかに震えた。
肩が落ち、喉から押し殺しきれない声が漏れる。
もう立っているのか、崩れているのか、自分でも分からない顔をしていた。
それが、たまらなかった。
「そうだ」
彼は低く言った。
「もう逃げるな」
言葉と同時に腰を打ち込む。
そこからはもう、取り繕いようがなかった。
柔らかく合わせるための時間も、段階も、説明もいらない。
彼はネリッサを尾で引き寄せながら、躊躇なく奥へ打ち込んでいった。
一度ごとに、彼女の身体が応える。
乳房が揺れる。
乳首はリラの唇と舌に吸われてますます硬くなる。
前ではアヤノの指が濡れた奥を掻き回し、後ろではカイラが指を抜かずに、時々わざと浅く押し返してくる。
それだけのことなのに、ネリッサはもうまともに呼吸もできていなかった。
「くそ……っ、やば、い……」
怒鳴るでもなく、囁くでもなく、ただ本音がこぼれる。
そこに品位も何もなかった。
あるのは、気持ちよすぎて隠す余裕のなくなった牝の声だけだった。
彼はさらに打ち込む。
尾を引き、尻を固定し、そこへ自分の肉を何度も深く押し込む。
ネリッサはそれに抗わない。
抗わないどころか、自分から腰を返し始める。
彼に打たれながら、同時に自分でも欲しがっている。
その動きがあまりにも正直で、あまりにもみっともなく、あまりにも愛しかった。
ここにはもう、誰も綺麗ではいなかった。
だが、そのみっともなさの中にこそ、今この家にとって必要な正しさがあった。
リラは、なおも柔らかく彼女を責める。
乳首を吸い、歯の裏で転がし、ときどき熱い息をかけるだけで、ネリッサはさらに身体を震わせる。
カイラは、尻の穴の中の指を抜いたり戻したりしながら、わざと間の悪いところで奥をかき、彼女のリズムを崩す。
アヤノは黙ったまま、前から指を使い、濡れた肉のひだを押し分けるように触れている。
その目は、冷静さを失わないまま、けれど明らかに自分もこの狂気の中へ沈んでいる目だった。
そして彼は、その全部の中心でネリッサを抱き、いや、抱くなどというぬるい言葉ではなく、まさしく彼女を自分の肉で犯すように、だが同時に彼女に犯されてもいるみたいに、何度も深く打ち込んだ。
ネリッサはもう隠しようがなかった。
耳は震えっぱなし。
尾は彼の手の中で痙攣し、背中は汗で濡れ、脚は力を失いかける。
それでも彼女はまだ受けるだけでは終わらない。
彼の腰へ自分から合わせ、もっと深くもっと強くと、身体の方で要求してくる。
彼女はそういう牝だった。
優しく壊されるのでは足りない。
自分の欲しさを、相手の欲しさと同じだけ濃く、同じだけ露骨にぶつけられなければ満足できない。
だから彼も、それに応えた。
一度、二度ではない。
繰り返し、容赦なく。
尾を掴み、腰を打ち込み、ずっと奥まで押し込みながら、ネリッサをこの家の牝として身体に刻みつけるみたいに。
そして、そこからアヤノへ移るときでさえ、熱は切れなかった。
ネリッサの中にいたときの濃い締めつけと、尾を握った感触と、崩れた声と、汗の匂いと、耳の震えと、全部がまだ身体に残っている。そのままアヤノを引き寄せる。アヤノはそれを分かっていた顔で受けた。もう空っぽの雌ではない。腹の奥に新しい命を抱えた身体で、それでもなお欲している。だから彼女の受け止め方は、懇願ではなく、もっと深い肯定だった。
そこから先はもう、一人ひとりではなかった。
リラのやわらかく重い身体。
カイラの意地の悪い笑いと、どこまでも正確な指。
アヤノの深く濡れた、もう пустоты のない腹の奥。
ネリッサの、尾を握られるたびに全部むき出しになる猫の牝の身体。
彼はその全部に沈んでいった。
彼女たちもまた、彼の中に沈んでいった。
もはやこれは、個々の行為ではなかった。
この家が自分たちの新しい形を、肉で確認している時間だった。
ここには、遠慮も、言い訳も、礼儀もなかった。
あるのは汗、匂い、熱、濡れた肉の音、押し殺しきれない声、尾を掴む手、耳に絡む指、胸に吸いつく口、腹の奥まで響く衝きだけだった。
そしてそのすべてが、汚いのではなく、正直だった。
きれいに言い換える方が、むしろ嘘だった。
ずっとあとになって、ようやく熱が少し引き、部屋の中に重い静けさが戻ったとき、彼女たちは絡まり合ったまま横たわっていた。
リラはほとんど眠っていて、それでも片手は腹の上にある。
カイラは横向きに寝転び、満ち足りたような、戦いのあとみたいな顔でネリッサを見ている。
アヤノは眠っていない。天井を見ているその顔には、もう母になる雌だけが持つ深い静けさがあった。
そしてネリッサは、ただ息をしていた。
重く。
深く。
落ち着いて。
ようやく、自分の巣の中で眠ることを許された獣みたいに。
彼はその横顔を見ながら、これが本当の意味での決着なのだと理解した。
書状が来たことではない。
政治の整理がついたことでもない。
正式に“解かれた”ことですらない。
そのあと、この部屋で、彼女がもう二度と外側のものとして扱えないほど、肉の深いところまで彼らのものになったこと。
そして彼らもまた、彼女の猫じみた正直さの中へ、もう戻れないところまで落ちてしまったこと。
ネリッサは、今や完全に彼らのものだった。
やさしい意味でではない。
獣の意味で。
巣の意味で。
熱と匂いと血の意味で。
そして、それをいちばん深く理解したのは、たぶん彼自身だった。
もう、誰にも返せない。
もう、誰にも渡せない。
もう、外の世界の理屈で切り離せる段階は終わった。
彼女はこの家の、いちばん剥き出しで、いちばん正直な中心になったのだ。
あとはもう、それを外の世界がどこまで耐えられるかだけだった。




