第七章
サルヴェル・タロンの決定は、脅しという形では来なかった。
それが、最初は皆の感覚を狂わせた。
最後通牒ではない。
即時の期限を切った命令でもない。
大使を奪われ、ついでに政治的な面目までいくらか持っていかれた統治者の、傷ついた怒りの書簡でもなかった。
むしろ逆だった。
通達の文面は乾いていて、ほとんど事務的ですらあった。まるで、盤上の駒を一つ動かすだけの話であって、すでに異国の家に予想以上に深く根を下ろしてしまった一人の女の話ではないかのように。
ラヴァルンは、大使を召還する。
文面は解釈の余地を残していた。サルヴェルが、もっと露骨な成果を引き出せる、もっと硬く、もっと機能的な、新しい使者を送り込みたかったのかもしれない。あるいは、現在の配置がもはや制御不能だと判断し、それ以上そこに力を割く価値がないと切ったのかもしれない。さらに単純で冷たい理由だった可能性もある。道具が他所の秩序と深く癒着しすぎたなら、取り替えるか、失うかだ。
だが、本当の理由が何であれ、事実は一つだった。
ネリッサを、戻せと命じてきた。
使者が到着したのは昼だった。
使者らしく、真正面から。
彼は必要なだけ頭を垂れ、それ以上は媚びず、だが無礼にもならなかった。彼は証人たちのいる中、謁見の間へ通された。エドランは自らその場にいた。ヴェイルは少し脇に、こういうときに限って何一つ見落とすまいとする男らしく、静かに立っていた。彼自身もそこにいた。誰かに求められたからではない。ここまで来て、ネリッサのことをラヴァルンと玉座だけの問題であって、彼の家や彼自身とは無関係だと装う者は、もう誰もいなかったからだ。
最後に入ってきたのはネリッサだった。
そしておそらく、その歩き方だけで、これは普通の意味での外交的なやり取りにはならないと分かった。彼女が感情的に暴れるからではない。彼女に対して今さら、常識的な外交言語が通じると思うこと自体が、すでに間違いだった。
彼女は、使者の数歩手前で止まった。
使者は、必要なだけ一礼した。
「ラヴァルンの長、サルヴェル・タロン陛下の御名において、命を伝えに参りました」
そう言った。
ネリッサは何も言わなかった。
その沈黙は、礼儀でも敵意でもなかった。
それより悪いものだった。
そこには空白があり、相手はその空白へ、自分の足で入っていかねばならなかった。そして足場がある保証はどこにもなかった。
使者は、称賛すべきかどうかはともかく、職務としては最後まで務めた。
「現下の任務内容の変更、ならびに今後の外交上の必要性の再評価に伴い、貴殿はこの宮廷での滞在を終了し、帰還の準備に入るよう命じられています。その後、改めて権限を明確化した新たな代表がラヴァルンより派遣されます」
彼は一度も噛まずに、最後まで読み上げた。
そして読み終えた瞬間、ようやく理解したらしかった。自分がこの文言を、抽象的な空気に向かってではなく、すでに別の場所に根を下ろしてしまった生きた存在の顔へ向けて言ったのだということを。
ネリッサは、すぐには答えなかった。
まず、ゆっくりと彼に視線を向けた。
その目にあったのは怒鳴り声ではなかった。見せつけるような怒りでもなかった。もっと使者にとって厄介なものだった。絶対に妥協しない捕食者の真剣さだった。
「もう一度言え」
彼女は言った。
使者の身体が、ごくわずかに強張った。
臆病だからではない。
本能だった。
「ラヴァルンへの帰還を命じられています」
彼は、先ほどより硬い声で繰り返した。
「その後、新たな-
「嫌だ」
ネリッサが遮った。
一言だった。
大きな声ではない。
だが、その一言で謁見の間の空気が静まり返った。
使者は口を閉じた。
ネリッサは一歩前へ出た。
「嫌だ」
彼女は今度は、もっとゆっくり繰り返した。言葉そのものではなく、この拒絶の構造を理解する時間をわざと与えるように。
「私は戻らない」
使者が予想していたのは、不満だったかもしれない。あるいは反発。
だが、これではなかった。
統治者の命に対して従属の姿勢を残したまま抵抗するのではなく、その命令自体がもはや自分には届かないのだと言わんばかりの、あまりに完全な拒絶。
「ネリッサ殿」
使者は慎重に口を開いた。
「これはサルヴェル・タロン陛下のご命令で-
「誰の命令かなんて分かってる」
ネリッサは言った。
そして、このとき初めて、その声の中に現れたものがあった。外交的な硬さではない。剥き出しの、獣の所有欲そのものみたいな怒りだった。
彼女はさらに一歩、距離を詰めた。
使者は退きはしなかった。
だが、はっきりと顔色を失った。
「だったら、ひと言一句そのまま伝えろ」
ネリッサは言った。
「私は、自分の雄を見つけた。自分の巣を選んだ。ここに根を張った。だからもう、あいつが何者だろうが、どんな命令だろうが、私には知ったことじゃない」
謁見の間のどこかで、誰かが鋭く息を呑んだ。
使者は一度まばたきをした。
それからもう一度。
彼の頭の中では、いくつものことが同時に走っていたはずだった。本当に今の言葉を聞いたのか。聞き間違いということにできないか。意味だけ柔らかくして伝えることは可能か。いや、それ以前に、こんな言葉をサルヴェル・タロン本人の前で本当に口にしていいのか。
だが、ネリッサはそこで止まらなかった。
そしておそらく、それが彼にとって最後の一撃になった。
「これも伝えろ」
彼女は言った。
今度の声は、逆に静かだった。だから余計に恐ろしかった。
「私は、あいつの都合で配置を変えられる駒じゃない。呼び戻したい時に引っ張る綱で繋がれた獣でもない。私は戻らない。戻れないからじゃない。戻りたくないからだ。ここが私の巣だ。私の雄だ。私の棲み処だ。もしあいつがまだ、私が自分の選んだものよりも、あいつの命令に属していると思ってるなら、それはただ、相手が何者だったのかを理解するのが遅すぎただけだ」
使者の顔色は、もう誰の目にも分かるほど白くなっていた。
彼は本気で、これをそのまま伝えなければならないという事実に、身体の方が先に拒否を示していた。
「ネリッサ殿……」
彼は、ほとんど哀願するように言った。
「できれば、もう少し……」
「無理だ」
ネリッサは言った。
「もっと柔らかい言葉なんて、あいつに向けて私は持ってない」
彼女はほんの少し首を傾けた。
その仕草が、罵声よりもよほど残酷だった。
「そのまま伝えろ。できないなら、自分の口が怖くなって言えませんでしたって、そのまま伝えろ」
そこまで来て、さすがのエドランもわずかに目を細めた。
礼儀が破られたからではない。
拒絶の規模を測ったからだ。
謁見の間にいた全員に、この時点で分かった。
これはもう、外交的な軋轢ではない。
ネリッサの性質と選択と新しい所属が、あまりにも露骨な形で表面へ出た瞬間で、そこにはもう半端な色合いが何一つ残っていなかった。
使者はほどなく退出を許された。
そして去っていくとき、彼は本当に、一刻も早くこの場から出たいと思っている足取りだった。ネリッサがこれ以上何かを付け加える前に、外へ出たいと願っているのが見て取れるほどに。
彼は、報復を予想した。
皆が予想した。
しかも、おそらくかなり悪い方の報復をだ。
彼自身も、あとで何度も頭の中で考えた。
ラヴァルンが返してくるならどんな返答か。
冷たい脅し。
侮辱に対する侮辱。
体面を守るための硬い文面。
称号と義務を盾にした圧力。
普通なら、国家はこれほどの侮りを無傷では飲み込めない。そういう当たり前の反応を、いくつも。
だが、サルヴェル・タロンの返答は短かった。
驚くほど短かった。
短すぎて、そこにはほとんど意志しか残っていなかった。
「お前を解く。新たな使者を送る」
それだけだった。
非難もない。
体面を取り戻そうとする動きもない。
義務への言及もない。
脅しもない。
それはほとんど異様ですらあった。
だからこそ、彼には、長々とした怒りの文よりよほど強く響いた。
そこにあったのは、無力ではなかった。
理解だった。
サルヴェル・タロンは、彼自身が思っていた以上に、獣人をどう扱うべきかを知っていた。冷たい他国の統治者らしからぬ情けで手を引いたのではない。もっと正確な計算だった。こういう種の存在が、いったん選んでしまったあとの命令は、もはや命令として働かない。そこで無理に綱を引けば、失うものを騒がしく増やすだけだと、分かっていたのだ。
その後、彼がエドランとこの件について話したとき、エドランはいつものように余計な感情を混ぜなかった。
ただ、手紙を机へ放り、言った。
「お前は、信じがたいくらい運がいい」
彼は黙っていた。
エドランは顔を上げた。
「サルヴェルは、馬鹿じゃないし、無駄にプライドも高くない」
彼は言った。
「俺ならこんなのは飲まない」
脅しではなかった。
ただの事実として言われた。
だからこそ、なお重かった。
「奴は、綱を引くのをやめるべき瞬間を理解した」
エドランは続けた。
「たいていの人間は、そこで意地になる。弱く見られるのが怖いからだ。統治者の面子とか、男のしょうもない自尊心とか、そういうくだらないものでな。だが奴はやらなかった。失われたものは失われたものとして整理して、次へ進んだ」
エドランは机の端に手をついた。
「これを覚えておけ。お前が今そうして生きていられるのは、周りの全員がお前の秩序を受け入れてるからじゃない。何人かの、あまりにも頭の切れる連中が、まだこれを戦争にする気はないと判断してるからだ」
彼は頷いた。
「分かってる」
エドランは短く笑った。
「いや。まだ全部は分かってない。だが、少しは分かり始めたかもしれん」
それで話は終わった。
彼が家に戻ったとき、家はもう違う顔で彼を迎えた。
何かが外から見て分かりやすく変わったわけではない。
子供の声もある。
サレットの静かな動きもある。
リラの、ますます慎重になった歩き方も。
アヤノの、重く新しい静けさも。
ネリッサの、猫のように張りつめた真っ直ぐさも。
カイラの、鋭く生きた気配も。
すべて、そのままだった。
変わったのは、別のところだった。
いまやラヴァルンは、公式にネリッサを解いた。
無理やり引き裂こうとはしなかった。
押し切ろうともしなかった。
逃亡者とも呼ばなかった。
ただ、解いた。
そのことによって、ネリッサはこの家の中で完全に、“異国から残った女”ではなくなった。
捕らえたのでもない。
引き留めたのでもない。
自分で選んで、ここにいる者になった。
いちばん奇妙だったのは、そのあとネリッサが、外側ではなく内側で静かになったことだった。
柔らかくなったわけではない。
彼女がそんなふうに穏やかな生き物になるはずがない。
だが、最後に残っていた深いところの緊張――誰かがやって来て、自分を役目や命令や権限として“持ち帰ろうとするかもしれない”という気配だけが、消えた。
これで終わったのだ。
彼はその晩、壁際に座るネリッサを見ていた。カイラの言葉を半分聞き流しながら、リラの重くなった腹へちらりと手を伸ばし、アヤノの方へ視線を少し長く留める。彼女の中に新しい命があることを、すでに知った上で。
その姿を見ながら、彼はふと思った。
ここまでのあいだで、こんなふうにネリッサが“根を下ろして”見えたことは、まだ一度もなかった。
一晩の隠れ場所ではなく、永住する巣穴をようやく見つけた獣そのものだった。
そしておそらく、それこそが外の世界にとってはいちばん恐ろしいことだった。
なぜなら、もう彼女は理屈の上ですら“返す”ことができないからだ。
できるのは、失うことだけだった。




