第四章
# 第四章
その後の数日は、ほとんど日付の感覚ごと抜け落ちた。
あとから思い返そうとしても、それは朝や夜にきちんと分かれてはくれなかった。ひとつながりの、熱く、絡まり合った長い時間だった。眠ることも、食べることも、言葉を交わすことも、触れ合うことも、もう別々の出来事ではなくなっていて、境目なくそのまま次へ溶けていった。以前なら、家がネリッサを内側のものとして受け入れた、という意識が先にあった。けれど今は、それがもう考えではなく、身体の事実になっていた。彼女は「外の何か」ではなくなっていた――そう頭で理解したというより、彼女たち全員が、それぞれの仕方で、ようやく見つけた欠けたものに食らいつくみたいに、ネリッサへ手を伸ばしていた。
しかも、すぐに分かった。ネリッサが違うのは、珍しい耳や尾があるからでも、異形の美しさのせいでもなかった。違っていたのは、もっと根本的なところだった。彼女の身体には、感覚と告白のあいだにあるはずの隔たりが、ほとんどなかった。人ならまだ隠せる。誤魔化せる。いったん飲み込める。けれどネリッサは、それができない。耳が動き、尾が跳ね、呼吸が崩れ、腰が反り、声が漏れる。そのどれもが、感覚の強さや欲しさをそのまま外に出してしまう。そこに羞恥も演技もない。ただ、猫娘らしい、あまりに真っ直ぐな正直さだけがあった。彼女たちは、その正直さに夢中になった。
最初に深く触れていったのはリラだった。しかも、たぶん誰よりも丁寧に。好奇心でも飢えでもなく、あの柔らかくて、それでいて絶対に逃がさない彼女らしい優しさで。リラはネリッサに触れるたび、ためらいなく、けれど決して乱暴にはならず、ここがそう、ここはもっと、じゃあもう一度、というふうに、反応する場所をきちんと受け止めていった。耳の付け根に触れたときの震え方、尾の根元を押さえた瞬間に腰の奥まで反応が走ること、胸の先が鋭く立つたびに、本人が隠しきれず息を飲むこと。リラの手には笑いも意地悪もなかった。ただ、感じることをそのまま許す優しさだけがあった。だからネリッサも、最初のうちは自分の反応に怯えるように肩を強ばらせていても、いつのまにかリラの前ではそれを抑えなくなっていった。
カイラはまるで逆だった。彼女はネリッサのそういう正直さを見抜くと、ほとんど面白がるように食いついた。悪意ではない。けれど明らかに意地が悪い。いちいち一番反応の大きいところを見つけて、わざとそこへ戻る。耳を撫でて、ぴくりと跳ねれば笑う。尾の付け根を掴んで、息が乱れればさらに指を強める。胸の先が硬くなれば、見せつけるみたいに指先で転がし、ネリッサが牙を剥くような顔をするのを見て、余計に楽しそうにする。ネリッサは最初、ほんとうに猫みたいに唸っていた。噛みつきそうな目をして、爪でも立てそうな気配で睨み返していた。けれどカイラはそれを怖がらない。むしろ、その「隠せなさ」をおもしろがって、いっそう深く揺さぶった。ネリッサの身体は嘘をつけない。気持ちよければそのまま崩れるし、もっと欲しければ尾が勝手に震える。そこをカイラはひどくよく見ていた。
けれどいちばん奇妙だったのは、アヤノだった。
彼は、彼女がまず見せるのは嫉妬だと思っていた。あるいは、少し距離を置いた冷静さだと。けれど実際には、そのどちらでもなかった。アヤノの中で目を覚ましたのは、ほとんど怖いほどの集中だった。彼女はネリッサを受け入れたその瞬間から、ただ一つのことを決めたみたいだった。この身体を、本人より深く理解したい。ネリッサが自分で分かっていないところまで、触れて、見て、聞いて、確かめたい。耳の感度も、尾の反応も、肌の震えも、どこに触れられると呼吸が変わるのかも、どこから先で声が変わるのかも、アヤノは一つひとつ確かめた。いやらしくというより、執拗に。ほとんど研究するみたいに。けれどその執着は冷たくなかった。むしろ、ネリッサの身体を通して、自分たち全員の欲望のもっと深い真実に届こうとしているように見えた。
ネリッサは、そうしてほどけていった。
最初から素直だったわけではない。そんなふうに従順な子ではなかった。むしろ、強い獣が、最初は近づかれることに身を固くし、けれど撫でられ、掴まれ、欲しがられ続けるうちに、自分でも耐えきれなくなっていく、あの感じに近かった。耳はとりわけあからさまだった。柔らかな毛に覆われたその根元に指が触れ、少し押され、じわりと撫で回されるだけで、彼女の身体はたちまち反応してしまう。耳がぴくっと動き、呼吸が飛び、声がかすれ、尾まで一緒に震える。その露骨さは、ほとんど卑怯だった。本人がどれだけ平気な顔をしようとしても、そこに触れられた瞬間、もう全部出てしまう。
尾は、さらにひどい。
特に根元だ。そこは、繊細というよりももっと生っぽい。厚く、深く、強い。軽く撫でるだけではなく、きちんと掴まれ、逃がさないように支えられた瞬間、ネリッサの身体はまとめて持っていかれる。そこを押さえられると、彼女の腰は自分の意思より先に反り、膝が震え、喉から変な声が出る。それがまた、彼女たちを狂わせた。珍しさではない。そこまで率直に、気持ちよさが身体に出てしまうことが。
ほとんど一週間、彼女たちは本当に寝台から離れなかった。
彼が目を覚ますと、自分の腕の中にいるのが誰なのか、一瞬では分からないこともあった。リラがネリッサの首筋に頬を寄せて眠っている。カイラは横向きに崩れたまま、いつのまにか手だけはネリッサの尾を握っている。アヤノは眠っているのか起きているのか分からない目で、じっと見ている。その視線には、まだ探るべき何かが残っている。ネリッサは、誰かの胸に、誰かの脚のあいだに、誰かの腕の中に、あまりにも自然に収まっている。彼自身もまた、その真ん中にいた。上でも下でもなく、囲まれるみたいに。けれど同時に、彼の身体もまた、彼女たち全員を通る中心になっていた。
彼女たちはあまり喋らなかった。
言葉がいらないからではない。むしろ逆で、身体の方が先に全部を言ってしまっていた。リラはあくまで優しく、けれど容赦なく深く触れた。カイラはいちいち笑いながら、いちばん油断した瞬間を突いてきた。アヤノは、まるで自分よりも先にネリッサを解こうとするみたいに、執拗だった。ネリッサは唸ったり、笑ったり、噛みつきそうな顔をしたり、次の瞬間にはもう息もできないくらい乱れていた。彼もまた、その中で彼女たち全員を欲していた。順番にというより、ひとつの大きな流れとして。
ときには、その自然さがほとんど怖かった。
禁じられているからではない。多すぎるからでもない。怖かったのは、ネリッサがあまりにも自然に、この世界の内側に入り込んでしまったことだった。誰かが「受け入れた」からではない。最初からそこにいた欠けたものが、彼女の形でやっと埋まったような、そんな感じだった。ネリッサは追加された存在ではなかった。もともと足りなかった部分に、ちょうどはまってしまった。それを、皆がそれぞれの身体で理解していた。
そんな時間のさなか、エドランから呼び出しが来た。
彼はすぐに向かった。まだ身体のどこかに、あの数日間の熱が残っているまま。だからこそ、執務室に入った瞬間に感じた乾きは、余計に鋭かった。机。地図。書類。石の壁。体温の抜けた空気。そこには肌も眠気も絡んだ呼吸もなく、ただ権力と責任と結果だけがあった。
エドランは、座れとも言わなかった。
ただ、数秒じっと彼を見た。怒鳴る気配はない。だが、その静かさの方がむしろ厄介だった。この男は、感情で怒っているのではなく、考えた末に怒っている。
「お前、頭湧いてんのか?」
やがてエドランは言った。
その言い方は平坦だった。だが言葉はむき出しだった。
彼は黙っていた。
エドランは両手を机について、少し前へ身を乗り出した。
「てめえ、自分が何やってるか分かってんのか? 他国の大使をヤってんだぞ、お前は」
彼は吐き捨てるように言った。
「しかも、それがマズいって顔すらしねえ。どういう神経してんだ」
部屋の空気がぴんと張った。
エドランはさらに言った。
「お前のチンコには判断力ってもんがねえのか? 突っ込んでいい穴と、ダメな穴の区別もつかねえのか?」
その言葉はわざと下品だった。むしろ、その下品さでしか届かないと分かっている人間の物言いだった。
「都合よく“俺の女です”で済む相手じゃねえんだよ。あいつはまず大使だ。国を背負って来てる女だ。それをてめえは、欲しいからってそのままヤった。そこに何の問題も感じてねえのかって聞いてんだ」
彼は最後まで聞いた。視線も逸らさなかった。
それから、静かに答えた。
「政治の尺度で見れば、間違ってるのかもしれない」
彼は言った。
「国家の駒として見れば、最悪の判断かもしれない。でも、ただ、そうなったんだ」
エドランは動かなかった。
彼は続けた。
「彼女は俺の女だ。大使だろうが何だろうが、それは変わらない。だから、そこには手を出さないでほしい」
数秒、エドランは彼を見た。
言葉ではなく、その理解の深さを測るように。
やがて彼はゆっくり身体を起こした。
「そういう返事をするから、お前をときどきぶん殴りたくなるんだよ」
彼は低く言った。
「バカみてえに単純で、飾り気もねえくせに、妙に本音だから切り捨てづれえ」
彼は机から離れ、窓際まで歩いた。
そこで立ち止まり、振り返る。
「お前の寝床にまで首を突っ込む気はねえ」
彼は言った。
「どうしてそうなったのかも、分からねえほど鈍くはねえ。俺は見えてる。見えてねえふりをしてねえだけだ」
それから、少しだけ声を落とした。
「だが、お前も責任の重さくらいは理解しろ。あいつはまず大使だ。お前ん家の女じゃねえ。お前らの、あのぐちゃぐちゃに出来上がった巣の一部でもねえ。まず、大使だ」
その言い方は乱暴だった。けれど、だからこそ重かった。
「もしこれが、いつか国ごとひっくり返す火種になったら、そのときに“知らなかった”で済ますな。そこまで含めて、自分で抱えろ」
彼はうなずいた。
「分かってる」
エドランは長く彼を見た。
やがて、重く息を吐く。
「ならいい」
彼は言った。
「せめて、俺に放っておいたことを後悔させるな」
それで話は終わった。
彼が家へ戻ると、迎えたのは騒がしさではなかった。あの独特の、重くて温かい静けさだった。互いのことを知りすぎた人間たちのあいだにしか生まれない、あの静けさだ。最初に彼を見たのはリラだった。カイラは、彼が口を開くより先に口元を歪めた。アヤノはじっと見ていた。表情ではなく、その顔に残っている会話の痕跡を読もうとするみたいに。ネリッサは少し離れた場所に座っていた。何も訊かなかった。だからこそ、いっそうはっきりした。彼女もまた、自分がこの家の中でどれほど重い位置を占めているかを、彼と同じくらい分かっている。
そして彼は、またあの奇妙な自然さを感じた。
そうだ、すべてはややこしくなった。
そうだ、その責任は必ずついてくる。
そうだ、エドランの言う通りだ。彼女は大使だ。
それでもなお、ネリッサはもうここに「危険」としているのではなかった。
この家の一部を支えている一本の線として、そこにいた。




