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第三章

ネリッサは、去らなかった。


彼女があの願いを口にしたあとも、部屋がすぐに別の空気に変わったわけではなかった。何かが燃え上がったわけでも、揺らいだわけでもない。ただ、ごくわずかに、空気の密度だけが変わった。アヤノは深く眠っていた。重く、深く、彼に顔を埋めるようにして、まるで眠りの中でさえ、自分がようやく手にしたものを離す気がないみたいに。隣の空間からは物音ひとつしなかった。けれど彼には分かっていた。リラは眠っていない。ただ介入しないだけだ。ただ、彼に、もう偶然では済まない決断のための空間を残しているだけだった。


ネリッサは、彼の向かいに立っていた。


中立のふりができないほど近く。

けれど、最後の一歩だけはまだ彼に委ねられている、その距離で。


それが、どんな露骨さよりもずっと厄介だった。


なぜなら、今の彼はもう、彼女の異質さにも、自分の疲労にも、ついさっきまでアヤノとあったことにさえ、隠れられなかったからだ。そのどれもが、もはやネリッサを外へ追いやる理由にはならなかった。むしろ逆だった。これまでの世界の置き方――彼女をいつも近くに感じながら、それでも「ここ」にはいないものとして扱うやり方――そのものが、もう保てなくなっていた。


彼は、眠るアヤノの腕の中から慎重に身体を抜き、立ち上がった。


ネリッサはその一部始終を、目を逸らさず見ていた。その眼差しに勝ち誇るものはなかった。優越もなかった。あったのは、もっと重いものだった。長く待ち続けたものが、ついに待つことさえ恥ずかしくなる地点まで来てしまった、そんな顔だった。欲しているのに、まだ欲していないふりをするのが、もうみっともない。その場に立ったまま、まだ引き返せるような顔をしていること自体が、もう耐え難く恥ずかしい。そういう地点だった。


「……これがどう見えるか、分かってるのか」

彼は低く尋ねた。


ネリッサはかすかに笑った。


「ええ。遅すぎた正直さに見える」


「俺には……裏切りみたいに思える」


ネリッサは目を逸らさなかった。


「もちろん。でもそれは同時に、あなたがあまりにも長く先送りにしてきた真実でもある。私を、頭の中だけじゃなく、身体でも欲しているっていう、その真実」


その言葉は、狙い通りの場所に落ちた。


彼は何も返さなかった。


ネリッサは、自分から距離を詰めた。

気まずさを和らげようとするような滑らかさはなかった。ただ、距離を埋めた。それだけだった。ここまで来てなお踏み出さないなら、それはもう慎重さではなく、臆病さだと知っている者の歩き方だった。


そして彼女が目の前に来たとき、彼はようやく、彼女が他の女たちとどれほど違うのかを、観念ではなく、目の前の現実として理解した。異世界の存在としてでも、姿の珍しさとしてでもなく、ただそこにいる一つの身体として。彼女から伝わってくる熱は、人の女のそれとは違っていた。より濃く、より密だった。表面に近いところにある熱ではなく、皮膚のすぐ裏、呼吸のすぐ裏まで、熱そのものが押し出されてきているような感じだった。受け取ろうとしなくても伝わってしまう、生き物の熱だった。柔らかい人間的なぬくもりではなく、もっと近く、もっと濃く、まだどこか完全には飼い慣らされていない生命の体温。


彼は手を上げて、彼女の頬に触れた。


ネリッサは動かなかった。


それで彼は、さらに上へ指を滑らせた。耳の付け根へ。


そこで初めて、彼女はびくりと震えた。鋭く、ほとんど反射のように。


それは、ただ敏感だというような程度ではなかった。ひどく露骨だった。彼の指先が触れた瞬間、彼女の身体が隠しようもなく反応してしまう、そのあまりの率直さ。耳がほんのわずかに跳ねる。けれどそれだけで十分だった。二人のあいだから、最後に残っていた「まだどこか他人行儀でいられる」という幻想が消えた。ネリッサは目を閉じ、息を漏らした。まるで、この触れ方こそが何より怖かったのだとでも言うように。怖いのは、不快だからではない。あまりにも長く待っていたからだ。


「そんな目で見ないで」

彼女は囁いた。


「どんな目でだ」


「……今になってようやく、私がどれだけ本物か気づいたみたいな目」


彼は、もう一度、彼女の耳のやわらかな縁をなぞった。今度はもっとゆっくり、もっと確かめるように。ネリッサは唇を噛み、ついに顔を伏せた。恥じているからではなかった。ただ、あまりにも多くのことが一度に露わになりすぎていた。


「お前はすごく、本物だ」

彼は言った。


彼女の笑いは、かすれていた。短く、切れたような笑いだった。


「そういう言葉を、もっとずっと前に聞きたかったのよ」


彼は、もう片方の耳にも触れた。今度は何をしているのか分かった上で。どういうふうにその刺激が彼女の中を落ちていくのかを感じながら。首筋から肩へ、さらに下へ、もっと深いところまで。そこには、珍しさを面白がるような気配は一切なかった。むしろ逆だった。あまりにも単純で、あまりにも正直な生理の線がそこに通っていて、彼女の身体は、人間の女よりももっと早く、もっときれいに、神経と欲望と声がつながってしまうようだった。余計な理性の緩衝が、彼女には少ない。感じることと認めることのあいだに、あまり隔たりがない。


ネリッサは彼の額に自分の額を押しつけた。


「もっと」

彼女は本当に小さな声で言った。

「哀れんで、ゆっくりにするのだけはやめて。私は、そんなためにここまで待ってきたんじゃない」


その一言は、どんな露骨な言葉よりも重かった。


そこにあったのは、演じた退廃でも、雰囲気のための淫らさでもなかった。ただ事実だけだった。彼女は本当に待っていた。本当に欲していた。本当に、もう彼のそばにいながら身体を持たない存在のようにはいられなくなっていた。


彼は彼女に口づけた。


そしてすぐに、もう一つの違いを知った。


ネリッサとの口づけには、人間同士のような、少しずつ入っていく感じがなかった。片方が受け入れ、もう片方が探り、呼吸を合わせて、ようやく同じ熱になる――そういう段階がない。もっとまっすぐで、もっと飢えていた。乱暴という意味ではない。密度が高いのだ。彼女はキスを受けるのではなく、自分からまるごと入ってくる。獣が匂いに、自分のものと決めた縄張りに、迷いなく入ってくるみたいに。彼女の中には、「拒む」と「受け入れる」のあいだの曖昧な領域が少ないのだろう。だから「いい」が「いい」なら、それは全部なのだ。保留も、猶予も、内側での値踏みもない。


彼が彼女の腰を強く抱くと、ネリッサは即座に全身で彼に反った。整えられた美しさとしてではなく、もっとずっと率直に。媚びるための動きではない。長くつないでいた欲望の綱が、ようやく切れたそのままの反応だった。


彼の手がそのまま背を滑り、さらに下へ落ちていくと、尾が、彼が意識して触れるより先にぴくりと動いた。その反応は、ある意味で衝撃的だった。飾りでも記号でもなく、そこに本当に生きた尾があり、それが本人の意思より先に感覚へ反応してしまう。そのあまりの生々しさに、彼は一瞬動きを止めた。ネリッサはそれに気づくと、熱を帯びた目で彼を見上げた。


「触って」

彼女は言った。

「まさか、遠くから眺めるためだけについてると思ってたの?」


彼は、尾に沿って手を滑らせた。

ゆっくりと。中ほどから根元へ向かって。


そこで彼女は、とうとう声を抑えきれなかった。


それは、人の女が漏らすような整った喘ぎとは違っていた。もっと低く、もっと喉の奥に近く、胸や腹の底から押し上がってくるような音だった。彼女の身体は、声帯だけでなく、獣としての残り火のすべてを使って答えているようだった。ネリッサは彼の肩に爪を立てるように掴まり、ほとんど苛立つように囁いた。


「そう……そこ。そうやって。離さないで」


それは、ある意味ではほとんど恥ずかしいほどだった。

汚いからではない。

あまりにも露わだったからだ。


彼がどこを掴めば彼女の身体の奥まで届くのか、そのことを一度の触れ方でもう知ってしまった。その事実が、ひどく露骨だった。偶然には届かない場所に、もう彼の手が入っている。そのことが、彼自身をさらに熱くした。さらに重くした。すでにこれは単なる身体では済まない、そういうところまで一気に連れていかれた。


彼は彼女を欲していた。


もはや例外としてではない。

謎としてでもない。

危うい隣接としてでもない。


ただ一人の女として。

奇妙で、完全には人でなく、あまりにも率直で、あまりにも飢えていて、あまりにも長く待ちすぎたせいで、なおさら切り離せなくなった女として。


そしてそのことこそが、彼には裏切りのように思えた。


身体を重ねることそのものではない。

それが、あまりにも本物だったことが。


もしこれがただの身体だけなら、彼は別の形で消化できたはずだった。もしこれが一時の逸脱なら、弱さと呼ぶこともできた。けれど、そこにいるのはネリッサだった。外にいる何かでも、声だけの存在でも、見ている者でもない。彼がもう、以前のように「あちら側」に戻せなくなった相手。だからこそ、次の一歩ごとに感じるのは欲望だけではなかった。罪悪感でもあった。


彼女は、それにもすぐ気づいた。


「今そこで、そっちへ逃げないで」

彼女はきっぱりと言った。

「私をこうして掴んでおいて」


「逃げてない」


「嘘。もう始まってる」


彼は奥歯を噛んだ。


ネリッサは彼の顎に手をかけ、顔を上げさせた。


「よく聞いて」

彼女は言った。

「このあとあなたが苦しくなるなら、それでいい。恥ずかしいと思うなら、それでもいい。これを裏切りだって、自分の中で呼ぶなら、それでもいい。けど、空っぽだったみたいに扱うのだけは許さない。後になって、これはただの身体の誤りだった、なんて言って私を侮辱することだけは、絶対に許さない」


彼は黙って彼女を見た。


そして彼女が正しいと理解した。


正しいのは、論としてではない。

こんな真実を残すものを、ただの肉体の失策みたいに扱うことはできないからだ。


そこから先は、もう言葉の意味が薄かった。


夜は、ひとつの流れに入っていった。肌の熱。途切れ途切れで、ほとんど苛立つような口づけ。彼女の手。彼の手の中の尾の根元。耳への触れ方。そこから返ってくる、あまりにも生々しい反応。彼女はそれをもう隠そうとしなかった。二人とも、いわゆる意味で「優しく」はなかった。かといって、乱暴さのために乱暴だったわけでもない。もっと別のものだった。長く待ちすぎた相互の承認。ようやく、お互いに対して恥をかかずに飢えられるようになった、その時間だった。


やがてネリッサが彼の肩に額を押しつけ、震える声でこう言ったとき、彼はようやく、これの中心がどこにあるのかを知った。


「……もう、あなたのそばにいるだけで足りるふりなんてできない」


その一言が、結局すべてだった。


欲望でもない。

肉でもない。

罪悪感ですらない。


二人とも、長いあいだ「あと一歩」の距離で生きてきて、もうその距離そのものに耐えられなくなっていた。

それが、中心だった。


朝になっても、彼は眠っていなかった。


ネリッサは夜明けの前に去った。芝居じみた消え方はしなかった。霧のように溶けるでもなく、ただ一歩ずつ退いていった。けれど、その去り方の中には、もう以前のような曖昧さがなかった。必ずまた戻る者の去り方だった。そこがいちばん新しかった。神秘でも、余韻でもなく、ほとんど家の一部のような当たり前さで、いったん離れていったことが。


彼が窓辺に座っていると、最初に目を覚ましたのはリラだった。


彼女はしばらく黙って彼を見つめた。それから、ネリッサがさっきまでいた場所を見て、ひとつ息をついた。重くもなく、責めるようでもなく、ずっと前から分かっていたことを、ようやく相手が自分で認めた時のため息だった。


「やっと、ね」

彼女は言った。


彼はそちらを見た。


「それだけか」


リラは肩をすくめて彼の隣に腰を下ろした。


「じゃあ何を期待してたの? 怒鳴ること? 傷ついた顔? それとも、あなたが私たち以外を欲しがる人だったなんて、今さら驚いてみせること?」


彼は答えなかった。


それがいちばん痛かったのは、その言葉があまりにも的確だったからだ。


リラは、そっと彼の手に触れた。


「あなた、自分で“家”を裏切ったみたいな顔をしてる」

彼女は静かに言った。

「でも実際に起きたのは、ずっと前からその中に入り込んでいたものを、ようやく自分で認めたってだけよ」


次に起きたのはカイラだった。彼女は一目で事情を察した。ひとつ大きく伸びをして、寝台の上で身体を起こし、乱れた髪をそのままに、寝起きの冷酷さそのままで言った。


「へえ。ようやく本当に後ろめたい男の顔になったじゃない」


彼は思わず苦く笑った。

反論するには疲れすぎていた。


「面白いな」


「冗談じゃないよ」

カイラは言った。

「ただ、あんたと違って、私はとっくに見えてたことを大げさに騒がないだけ。そんなもんでしょ」


彼女は起き上がって近づいてきた。真正面から彼の顔を覗き込む。


「私たちが気づいてないとでも思ってた? あいつがあんたをどう見てるかとか、あんたの方がいつからあいつを“外側”として見られなくなってたかとか」


彼は視線を逸らした。


「それでも……俺には、よくないことに思える」


「そりゃそうでしょ」

カイラは平然と言った。

「普通の感覚があるなら、そう感じるに決まってる。むしろ、何とも思わない方がまずい。でも、それと話は別」


リラが柔らかく続けた。


「ネリッサは、もうこの家の内側にいる」


カイラは鼻を鳴らした。


「“もう”どころか、とっくにだよ。あんたが、まだ壁の向こうにでも吊るしておけるみたいな顔してただけ」


その言葉のあとで、アヤノが目を覚ました。


起き上がる動きは遅かった。まだ眠気が残っていた。夜の熱がまだ身体に残っていた。彼女はまず彼を見て、それから皆の空気を見て、すぐには察さなかった。けれど、彼女は彼女のやり方で、とても正確に理解した。そこには、ぱっと燃え上がる嫉妬はなかった。あったのは、長い、静かな注視だけだった。


「……そう。そうなったのね」

彼女は言った。


彼は彼女を見た。

何を言われても受け止めるつもりで。


けれどアヤノは、ただひとつ息を吐いて、髪をかき上げ、身体を起こした。


「想像したら、痛い」

彼女は正直に言った。

「でも、それは相手があの子だからじゃない。あなたが、もう私にとってそれだけ大きいってこと」


その言葉は、責めるより重かった。


そこには殴ろうとする意志がなかった。

ただ真実だけがあった。


彼は何か言おうとしたが、アヤノは小さく首を振った。


「待って。まだ終わってない」


彼女は顔を上げた。


「でも私は、そこまで盲目でも、残酷でもない。あなたの中にもう深く根を張ってしまったものを、切れって言うほど。これが本当なら。たまたまじゃないなら。ただの一時の迷いじゃないなら。じゃあ私にできるのは、禁止することじゃなくて、それとどう一緒に生きるかを考えることだけ」


カイラが口の端を上げた。


「ほら。賢い子が全部言ってくれた」


「全部じゃないわ」

アヤノは冷たく返した。


「私は別に反対してないし」

カイラは肩をすくめた。

「そもそもネリッサ、わりと前から好きだったよ。図太くて、辛抱強くて、うちら全員の鈍さに、よくあそこまで付き合ったなって感じ。ほとんど家族みたいなもん」


リラが静かに笑った。


「“ほとんど”じゃない」


そのあと、部屋はひどく静かになった。


そして、その沈黙こそが最後の確定だった。


何もかもがきれいに解決したからではない。

誰も苦しくなかったからでもない。

ただ、それぞれがそれぞれの形で、言うべきことを言い終えたからだった。


リラは、ネリッサがとっくに家の内側にいると言った。

カイラは、見えていたことをこれ以上偽るなと言った。

アヤノは、受け入れることは痛みを消すことではない、でも痛みがあるからといって受け入れが消えるわけでもない、と言った。


彼は三人を見た。


そして、急にはっきり理解した。

家が変わったのは、この夜のせいではない。

この夜はただ、ずっと前から静かに育っていたものを、見える形にしただけだった。


そこには、言い訳もなかった。

救いのような美しさもなかった。


ただ、彼が昔なら到底受け止めきれなかったはずの大きさにまで変わってしまった家の、新しい真実だけがあった。


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